表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お兄ちゃんと最強から最弱に成り下がった弟  作者: papporopueeee
剣の落ちた日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/67

期待を裏切ってごめんなさい

「……どうやら、既にその男に何事か吹き込まれてしまっているようですね。ご安心ください……聖剣の加護が戻れば、すぐに目が覚めることでしょう」


 ついに、ただ携えていただけの剣をラノイは構えた。血に濡れた刃を見せつけるようにして、その切っ先をカイナへと向けた。


「……」


 一方で、カイナには少しも構える様子が無い。チェルから距離を取るように2歩前に歩いただけで、脱力したように直立したままラノイの動きを見守っていた。


「か、カイナ兄……? 守ってくれるんだよね……?」


「…………」


 声を震わせるチェルに対してもカイナは何も言わず、ただ迫りくるラノイを見据えるばかりだった。


「どういうおつもりですか?」


 邪魔されることもなく、ただ歩いているだけでカイナに剣が届く範囲まで近づけてしまったラノイは剣を高く上段に構えた。後はただ振り下ろすだけでカイナの頭蓋を叩き斬れてしまうその距離で、ようやくカイナは口を開いた。


「……それはこちらのセリフだ。ラノイ、何のつもりだ? ふざけているのか?」


 その声に煽りや嘲りといった感情は少しも無かった。カイナは本心から、剣を構えているラノイを目の前にして呆れているのだった。


「何ですって?」


「殺意が足りないと言っているんだ。ラノイ、お前はチェルと違って聖剣を扱えないだろう……そんな体たらくでチェルを守れると、本気で思っているのか?」


 背負った大剣を構えるどころか、防御の姿勢も取らずに突っ立っているだけでもわけがわからないのに、どうしてわざわざラノイを怒らせるのか。カイナの意図がわからないチェルの心臓はどんどんと速度を増し、不安を表すように自然と手が口の前へと移動していた。


「っ……死ねっ!!」


 激情を叩きつけるように構えた剣を振り下ろすラノイ。その動きに合わせて、カイナは頭を下げて身を屈めた。


「なっ――っ!?」


 結果的にカイナの背へと振り下ろされたラノイの剣は、背負っていた大剣に衝突して甲高い金属音を響かせた。


 防御されるなど微塵も考えていなかった全力の一撃はラノイの身体へと翻り、その全身は衝撃によって隙を晒している。


「実力を把握されている格上の相手に、真正面から馬鹿正直に剣筋を見せてどうする……まさか、本気を出せば鉄も斬れるなどと自惚れていたわけではないだろうな」


「きっ、きさまぁっ!!」


 痺れる両手で必死に剣を構えなおしたラノイではあったが、カイナに足を払われて呆気なく地に伏した。


「剣速が遅すぎるし、構えもなっていなければ勝ち筋の構築も杜撰……日々の鍛錬不足だな。時代遅れのトレーニング狂も、馬鹿にしたものではないだろう」


「おっ、おのれぇっ――うぐぅっ!?」


 カイナに首を踏みつけられるラノイ。しばらくは全身をもがませていたが、やがてぐったりと脱力し動かなくなってしまった。


「っ……こっ、殺したの?」


「血流を止めて失神させただけだ。その内起きるだろう」


 最後まで大剣を構えることもなくチェルの元へと戻ってきたカイナは、何事もなかったかのように馬の手綱を引き始めた。


「あの剣戟の音を聴いても馬は少しも暴れなかっただろう。安心できたか?」


「えっ……うっ、うん……」


 もはや、カイナの中ではラノイのことなど眼中にもないらしい。チェルとは違い、厩を出るまでカイナは一度も振り返ることが無かった。


「……ばいばい」


 よく遊んでくれた人だった。でも、ラノイの瞳はいつも聖剣を映していた。


 カイナよりもずっと優しくしてくれた人だった。でも、チェルを見てくれていたのはカイナの方だった。


 期待を裏切ってごめんなさい。地に倒れ伏すラノイに、チェルは一人静かに別れを告げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ