チェル・ユーリィ、並びにカイナ・ユーリィ御身の暗殺に助力した逆徒に間違いありません
城の地下にある牢獄。必要最低限の灯りしかなく、風通しが悪い閉塞感のある空間。チェルによる私刑が行われるようになってからは、人が収容されることも珍しくなった其処に、裏切り者は捕らわれていた。
「貴公がダズ・ブラウンで間違いないか?」
髪を剃り丸めた頭と、年齢がシワという形で表出し始めた顔。低めの身長ながらも、日々の鍛錬によって膨れ上がった筋肉がボロ布のような囚人着からはみ出している。
ダズは正に武人といった外見であり、カイナ自身も城で何度か見かけたことがあった。
「……まさか、こんなところに王子様が自ら来られるなんて思いもしませんでしたよ」
「まずは、こちらの質問に答えて欲しいものだ」
「如何にも。私の名前はダズ・ブラウン。イクスガルド兵団の第2小隊に20年近く所属した身でありながら、チェル・ユーリィ、並びにカイナ・ユーリィ御身の暗殺に助力した逆徒に間違いありません」
ダズは鉄格子越しに立つカイナに向けて膝をつき、頭を下げた。カイナよりも10歳以上年上でありながらも、その態度にはラノイよりもよっぽどカイナへの敬意が込められており、とても国を裏切った人間の所作には見えなかった。
「して、王子様が斯様な場所にて何の御用でしょうか?」
「わかっているだろう。貴公が裏切った理由、それを知るためにここまで来た」
「……」
頭を下げたまま口を噤むダズ。その頭部から足に至るまで、全身には拷問の痕が刻まれていた。足の指にまで拷問は及んでおり、赤黒く染まった爪ではもはや痛みでまともに歩くことも難しいだろう。
他国の捕虜に対する拷問は国際問題になりかねないが、自国の兵士の扱いまでは他国は干渉できない。ダズは裏切りが発覚してからずっと鞭打ちを受け続け、それでも裏切りの理由を吐露することはなかった。
裏切り者ではあるものの、カイナはダズの忍耐力に感服しており、同時に自国の兵士たちに対する恐怖も感じていた。
ダズは今朝までは仲間であった兵士だ。それにも関わらず、裏切りが発覚した途端にここまでの拷問をできるものだろうか。
「そこまで痛みつけられても尚、貴公は喋らなかった。自身の裏切りはあっさりと認めておきながらも、その理由はどれだけ拷問を受けようとも話さない。だから、わざわざ俺は此処まで来たんだ」
「……まさかとは思いますが、御身になら私が口を割るとお思いで?」
嘲るような物言いをしながら、ダズは頭を上げた。カイナを見上げるその瞳には、確かな敵意が宿っていた。
「違うな。そもそも、貴公が裏切った理由を知るのに拷問など必要無く、むしろ逆効果だ。素性を調べれば自ずと推測できる……よほどチェルに心酔した人間でもなければな」
ダズはしばらく押し黙った後、観念したように自嘲気味に息を漏らした。
報告を受けなくともわかる。ダズを拷問したのは、悪事を働いた人間であれば老若男女問わず殺すチェルの思想に感化された兵士だ。
「ダズ・ブラウン、貴公はその両親をチェルに殺されている。チェルによる犠牲者の数も合わせて考慮すれば、貴公の正義心に火をつけ、チェルの暗殺に協力する理由としては十分だと俺は判断している」
彼らにはわからないのだ。チェルに対して国を裏切るほどの恨みを持つ人間が居るなど露ほども思っていない。チェルの行いは絶対的な正義であり、例え家族であろうとも悪人なのだから殺されても仕方ないと本気で思っている。だからダズの真意に気づいた上で、ありえないと捨て置き、意味の無い拷問を続けてしまう。
仇であるチェルの信奉者からそんな拷問を続けたところでダズが口を割るはずも無く、その意思をより強固にするばかりだったことろう。




