刮目・1
「俺宛ての仕事…ですか?」
「そう、君の能力って鑑定でしょ?見て欲しいものがあるんだって」
「もちろんやりますけど、その見て欲しいものっていうのは?」
初仕事から約一週間後。
現在の第一部隊は、かえでさんが第二部隊の仕事に駆り出されたので機能していない。
やる事もなく支部の掃除をしていると、隊長が俺宛ての仕事をとってきてくれたらしい。
この仕事を断っても支部の掃除位しかやることがないので二つ返事で了承するが、せめて仕事の中身ぐらいは聞いておきたい。
「仕事の内容は昨日東京都内で起きた殺人事件の調査、君の能力で不自然な証拠の真実を暴いてもらいたい」
「不自然な証拠?」
「それは俺も気になってたんだけど詳細は話してくれなかったよ、まぁ実際に行ってみて調べるしかないだろうね」
「なるほど」
関係のない部外者に捜査の内容を教えるはずも無く、隊長の言う通り行ってみるしかないだろう。
「それで現場は何処ですか?」
「お、もう行くのかい?」
「勿論です。俺も負けてられないので」
今回のかえでさんの仕事は要人の護衛、それも襲撃が予告されている状態で行われるそうだ。
焦ってはいないが、同期として置いていかれるわけにはいかない。
「オーケー、じゃあ準備してくるから車に乗って待ってて」
「はい!」
支部から車を走らせて一時間、到着した現場は一般的なマンションの3階。
既に諸々の作業を終えたのか、少数の警察官しか既に現場にはいなかった。
居ても意味がないから、と隊長は車から出たがらないので、一人で現場に向かうと初老の人の良さげな刑事に声をかけられる。
「すいません、練さんが紹介してくれたACT部隊の隊員さんですか?」
「はい!東京支部第一部隊所属雅宮はじめです」
「あ、すみません私から先に名乗るべきでしたね。私警部の権田敬之と申します。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそまだ一年目の新人ですが、よろしくお願いします」
権田警部と軽い世間話をしながら殺人の起きた現場に向かう。
権田さんと隊長は古い知り合いで、たまに一緒に飲みに行くそうだ。
面倒と言って車から隊長が降りてこない、と権田さんに話すと、『いつも通りです』と笑っていた。
「移動中に何ですけど、事件について話しますね」
「お願いします」
「はい事件の発生昨日の昼頃、被害者はマンションに住む三人家族の夫で、家族構成は岳母、妻、夫です。第一発見者は妻でリビングで横たわった状態で亡くなっていました」
「なるほど」
現状ならまず身内から疑うが、俺が呼ばれているという事は違うという事だろう。
話の途中でついた犯行現場では既に遺体は回収されており、亡くなっていたであろう場所に白線が引かれている。
「遺体には胸部に焼けた様な痕があり、周辺に凶器も確認できなかったので自殺ではなく他殺と予測されます」
「もしかしてですけど証拠が一切出てこないんですか?」
「その通りです。他の家族にはアリバイがありましたし、被害者以外の痕跡はこの部屋では特に発見されませんでした。所謂密室殺人です」
基本的に人は行動を起こす時に何かを残す。
髪、指紋、皮膚、微粒子レベルで存在するそれを残さない様な格好をすれば、当然ながら目立ってしまう。
もしそれを隠す事が出来るとしたらそれは
「可能性があるとしたら、それはリバースによる犯行と考えるのが筋ですね」
「はい。それとここ最近、東京都内では空き巣事件が頻発してるんです」
「関係があると見た方が良さそうですね」
情報を整理すると、ほぼ間違いなくリバースの犯行。
そして事件が起きたのは昨日の昼、今ならまだ鑑定で痕跡を辿れるかもしれない。
「とりあえず私の能力でリバースの犯行かどうかを確認しますね」
「はい!離れていた方が良いですか?」
「居てもらっても大丈夫ですよ」
能力の使用の為に、俺は一度目を閉じる。
すぐに鑑定を起動して視覚範囲の微調整を始める。
【鑑定】は視覚に適用される自強化系の能力で、強化した状態で見た物体、及び概念の、確定した情報を得る事が出来る能力だ。
鑑定によって得られる情報の量や質は、自身が持っている対象への知識、理解度や、見る範囲を指定、制限を行う事で変化する。
(対象を昨日この部屋で行使された能力の残滓に絞れば…)
鑑定の対象、範囲の指定を終えて再び目を開く。
鑑定の効果で色素が消滅した部屋の中には、黒いモヤの様なものが漂っている。
(良し!)
黒いモヤにピントを合わせると、空間から文字列が浮かび出す。
まず、これまでの連続した証拠のない空き巣事件はやはり今回の事件と関係があった。
犯人の名前は青柳 杏、能力はステージ5の【透明化】で、周囲のモノを一定時間透明化する事が出来るようだ。
今回の事件では複数人を徹底的に着込ませて透明化させ、証拠を残さない様に反抗を起こしている。
そしてもう一つ…
「犯行時刻は昨日の13時22分で合ってますか?」
「はい。推定死亡時刻がその付近なので合ってるはずです」
「犯人達の能力が分かりました」
要が済んだので能力を解除して、視界を元に戻す。
能力を使用していて気づかなかったが、権田さんがとても困惑している。
どうやら隊長は俺の能力を権田さんに伝えていなかったらしい。
「すいません急で申し訳ないんですけど、一旦説明は後にして戦えそうな人だけ集めて移動の準備をして貰えませんか?犯人確保の為に人数が欲しいです」
「分かりました!5分あればいけると思います」
「助かります」
車まで走って戻りながら、通信用の端末をつけて隊長と通話を繋ぐ。
「終わったー?」
「すいません、急を要する案件だったので移動の準備をしてください」
「え?……マジ?」
すぐに終わって帰れると思っていたのか、電話に出た隊長は呑気だった。
申し訳ないが今日は夜まで仕事をしてもらうことになりそうだ。
「未登録のリバースが活動してます。このまま追跡をして今日中に捕縛します」
「…了解」




