06
「あ、あなたね……【俊足】は一体、何レベルあるの?」
「8レベルあるよ」
「は、はち!? 嘘でしょ。馬じゃないんだから……」
「おんぶはやっぱり不便だなあ。あ、そうだ。人力車とか作ってもらえないかなあ」
「ジンリキシャ? それはどういうもの?」
突然、興味を示したエレナに不審さを感じながら、シュンは説明した。
「車輪のついた椅子に、俺が引っ張る取っ手をつけたものかな。ああでもアイテムボックスに入らないか……」
その辺はシュンも感覚で分かる。
背負子なら入っても、人力車は大きすぎる、と。
「アイテムボックスまで持ってるの!? あなた今日、登録したばかりの冒険者でしょ!?」
「そうだけど……色々事情があるんだよ」
「事情ね……まあいいわ。とにかく手紙を届けましょう。ええとヘレン・スタインバーグさんの家はどこかしら。誰かに聞き込みしましょう」
「いや? ヘレン・スタインバーグさんの家なら、この通りを真っすぐ行って左手に見える家だよ」
「え、あなた知り合いだったの?」
「違うけど、地理には自信があるんだ」
「いや、人の家は地理とかそういう問題じゃ……、あ、ちょっと待ちなさいよ!」
シュンとエレナは無事に手紙を届けて、昼食にすることにした。
いや先程食べた軽食も消化しきれていないのだが、あまりにも速く仕事が終わったのでエレナがシュンにおごることになったのだ。
「このカフェのサンドイッチが美味しいの」
「へえ、それは楽しみだな」
燃費の悪さはSUV譲りか。
軽く走っただけでもうサンドイッチを楽しみにしているシュンである。
「そういえばエレナはこの街に何をしに来たの?」
「錬金術師って言ったじゃない。ここにある学校の生徒よ、私は」
「ああ、錬金術の学校があるのか……うん、あるね。ヘインズワース錬金術専門学校」
「何よ。地理には自信があるとか言っておいて今更気づくの?」
シュンが学校の名前を知ったのは【ナビゲーション】を見てからだから仕方がない。
「錬金術師ってどんなことができるんだい?」
「そうねえ……例えば燃える火から熱の形質を取り出して、短剣に付与したものがヒートナイフよ」
ヒートナイフというものがどういうものかは見たことも聞いたこともないが、人並みにゲームを遊んでいたシュンはきっと刃が熱を帯びたナイフなのだろうと当たりをつける。
「結構、自由なんだな。しかも面白そう」
「そう! 面白いし自由なの。私はよくフィールドワークで面白い形質を持った物質を探しているの。あなた冒険者なんだからそういうのも見つけられるでしょう? 何かあったら持ってきなさいよ。付与とかオマケしてやってあげるから」
「いいね。何かあったら学校の……寮に住んでいるの? そこへ連絡するよ」
「ええ。そうして頂戴」
エレナにサンドイッチとコーヒーをおごってもらったシュンはエレナと別れて、この街の冒険者ギルドへ向かうことにした。