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ヘインズワースの街に来て三日目。
昨日の続きをしようとシュンが冒険者ギルドへ行くと、エレナが依頼票を見ていた。
「おはようエレナ。何か依頼を受けるの?」
「あら、おはようシュン。いいえ、依頼をする側よ」
「なんの依頼?」
「護衛依頼ね。山に薬草を取りに行きたいんだけど、一人じゃ危ないでしょう?」
「それなら一緒に行こうか? それとも俺ひとりじゃ心もとないかな?」
「そうね……もうひとりくらい雇いたいわ」
そう話していたら、「じゃあアタシも受けようか」と声をかけてきた女性がいた。
革鎧に腰にレイピアを差した女性冒険者だ。
歳は20歳くらいだろうか。
強い口調だが、線の細い美人だった。
「アタシはこの街を拠点に活動している“刺殺の”ビビ。アンタはシュンだね?」
「俺のことを知っているのか」
「ああ。凄い勢いでワイルドドッグを狩ってたと思ったら、次の日は大量のグレイリンクスを卸したことで有名人になっているよ」
「確かにそれは俺のことだな」
「アンタに興味があるんだ。冒険者で格闘家ってのはなかなかいない。それは武器なしで魔物とやりあうのが難しいからだけど、アンタはそれを苦にもしない。興味があるのさ」
「よし、じゃあ一緒に護衛依頼に行こう。いいかい、エレナ?」
「え? ええ……シュン。それはいいけど、あなたそんな奇行に走っていたの?」
エレナは呆れたものを見たような目でシュンをたしなめた。
依頼を受けたふたりと依頼人であるひとりは、山の方へ歩いていった。
さすがにふたりをおぶさる方法はない。
街の外を普通のペースで歩いたことがないシュンには新鮮に感じられた。
のんきなハイキングも悪くない。
「それで、エレナはどんな薬草を探しに行くんだ?」
「ハーブの一種で覚醒効果をもつものよ。眼鏡に付与して、徹夜眼鏡を作ろうかと思って」
「徹夜眼鏡?」
「そう。眠気を吹き飛ばす覚醒効果を、眼鏡に付与するの。そうすればかけている間は眠気を感じず、外せば眠くなる便利な眼鏡ができるわけよ」
「そんなことができるのか。錬金術って不思議だな。なあ、もしよければそれの付与、見学させてもらえないか?」
「いいわよ。うまく薬草が探せたらね?」
薬草と眼鏡がいまひとつどうしたら合体するのか想像できないシュンであった。
ビビはその話を聞いて、「面白いものを作るね、もし材料が余ったら私の分も作ってくれないかい。付与料は支払うからさ」と言ってきた。
「冒険者をやっていると野営中に交代で見張りを立てるんだ。そのときの眠気覚ましに丁度よさそうだ」
「ええ。きっと役に立つわ。まだ半人前だから私の付与料は銀貨1枚でいいわ」
「よし」
なるほど、そういう場面でなら使えるのかとシュンは感心した。
「もし三人分の材料が手に入ったら俺も頼むよ。ビビの話を聞いたら欲しくなった」
「いいわよ。材料が揃えばね」
エレナは快諾してくれた。




