13
山に入ると、エレナは眼鏡を装着して薬草を探し始めた。
「その眼鏡はなんなんだ?」
「これは視力増強を付与した眼鏡よ。腰をかがめなくても地面の薬草を見られるから重宝しているわ。難点はそのくらい視力が強化されるから、本を読んだりするのには向かないってことかしら」
眼鏡型の虫眼鏡のようなものだとシュンは思った。
確かに普段使いはできない。
「色々な効果を付与した眼鏡をかけかえするのが私の錬金術師としてのスタイルなのよ」
「へえ。他にはどんな眼鏡があるんだ?」
「かけると眠くなる眼鏡とか」
「それ、意味があるのか?」
「すぐに寝付けて便利よ? 寝返りで壊したことがあるから、何本か予備を部屋に置いてあるけど」
「それ、まくらに付与したんじゃ駄目なのか?」
「…………。あなた、頭がいいわね」
どうやらエレナはちょっと抜けたところがあるようだ。
エレナが地面を眺めていると、ビビが寄ってきて「魔物が近くにいる」と言い出した。
シュンも【全周視界】で確認すると、たしかに魔物がこちらを伺っているのが見えた。
ハルピュイアという魔物で、両腕が翼、足が鉤爪になっている女性の体をした魔物だ。
睡眠をいざなう歌を歌い、眠らせた人間を喰らう魔物である。
そのハルピュイアが樹上からこちらを伺っていたのだ。
「おいエレナ、魔物がいるからこっちに来い!」
「え? それなら早く退治して」
「無茶を言うな、相手はハルピュイアだ。飛べるんだぞ」
「ハルピュイア!? それならそうと言いなさいよ!!」
急いでエレナは耳を塞いでこちらに走り寄ってきた。
ビビも片耳を塞ぎ、レイピアを抜いた。
どうやら歌を警戒しているらしい。
気づかれたのを理解したハルピュイアは、美しい声音で歌いだした。
すると不思議なことにまぶたが重くなってくる。
シュンは「これはマズい」と思い、大声で歌い出した。
ハルピュイアの歌を打ち消すために、カーナビに入っている曲を歌い出したのだ。
その歌声は大きくリズミカルで、ハルピュイアも驚いて歌うのをやめてしまうほど上手かった。
ハルピュイアが歌を歌わなくなったのを確認したビビは、急いで地面に落ちている石を投げてハルピュイアを追い払おうとしだす。
ハルピュイアは歌で眠らせられない以上、勝ち目はないと見てさっさと飛び去っていった。
「おいシュン、アンタ歌が上手いのは分かったけど、もう止めていいぞ」
「~♪ ……あ、もういいのか」
「しかし凄いな。歌い返してハルピュイアの歌を無力化するだなんて、熟練の吟遊詩人にしかできないと聞いたことがある」
「ああ。歌い返せばハルピュイアは歌わなくなるって資料にあったから試したんだけど、上手くいったな」
「馬鹿。熟練の吟遊詩人じゃないとできない、と言っているんだ。お前は格闘家だろう。なんでそんなに歌が上手いんだ?」
「そんなこと言われてもなあ……」
スキルに【歌唱】があるからなんとかなるとは言いづらい。
なぜ【歌唱】があるのか訊かれても困るからだ。
エレナは耳を塞いでいた両手を元に戻して、「もういいから薬草探しをするわね。周囲の警戒をお願い」と言って、仕事に戻った。




