第八話:背尾つかさは餌付けする
呼び止めたクマちゃんを連れて、道端のベンチに腰掛ける。今更ながら、周りから自分がどう見られているかの視線に気が付いたからだ。クマちゃんを膝の上に乗せてしばしの歓談タイム。
「ねぇ、クマさん。これ確認なんだけど、あなたは他の人には見えていないの?」
両手を上にあげて〇のポーズ。すごい、頭の上まで手が届いてない!
このコミカルの可愛らしさにクラクラきたわたしは少し呼吸を整える必要があった。
「なんでわたしには見えるんだろ。他の世界からの迷い人だから? それなら田畑さんにも見えてるはずだよね?」
さぁ? と言わんばかりの、困りまゆ毛とお腹の真ん中から体を横に折っての盛大な首かしげポーズ。
「わたし、あなたに付いて来てこの世界に来ちゃったんだけど、元の世界に戻る方法わかる?」
あっち! っと前足で指さす。やった、帰り道わかるんだね! と思ったら、その指さし方向がすすすーっとずれて行き、たぶんあっち、あれ、もしかしてあっちかな。といった風にあちらこちらを彷徨う。
わかった。クマちゃんが方向をよくわかってないことがわかった。
「あと、えーっと」
聞きたい事。そもそも可愛いからという理由でフラフラ付いて来てしまっただけで、帰り道がわからないのならわたしとこの子に接点は無い。どうしよう。引き留めてしまったけど、会話が無い。
困っていると、膝の上に乗せたクマちゃんがクンクンと鼻を動かしているのに気が付いた。
「おやつ、いりますか? 会社で食べてた残りしかありませんけど」
ずっと手に持っていた通勤用鞄……ああ、貰ったお花がそのまま入れてあるので草の汁とかついてる! これ、落ちるのかなぁ。少ししょんぼりしながら、花を掻き分けて目的の物を取り出す。
定期券や社員証、財布に薬入れなどと一緒に入っていたのは小腹が空いたとき用のカロリー〇イトと、小箱に入ったチョコレート。
「どっちがいいかな?」
確か、猫とかにはチョコレートあげたらダメなんだっけ?
害になるといけないから、とチョコレートを仕舞おうとすると、その手を肉球で押さえるクマちゃん。キラキラしたおめめのうわめ使いでおねだりオーラ全開です。
「平気?」
ぶんぶんと音がしそうに首を縦に振るクマちゃんの手にチョコレートを乗せると、ぱくっと口の中に。
半目になって、背景に『うっとり』という飾り文字が見えるかのような幸せな表情を見せてくれる。その表情だけでわたしもうっとりしてしまう。御馳走さまです。
ニコニコと見つめあうと、そっちも食べたい、と催促される。両方食べるんですね、いいですけど。
袋を剥いてあげてビスケットを渡すと、これも嬉しそうにモクモクと食べる。
もっと。そんな顔で見られても、もう無いです。
「材料さえそろえば、クッキーくらいなら作れるけど」
キラキラのお目目で見上げられる。もしかしてわたし、餌付けしちゃったのかな?
もちろん、クマちゃんのお願いとあれば自分の食費削ってでも作るけど。
「元の世界に戻る方法がわかるまで暮らしていかないといけないから、生活基盤整うまで待ってくれる? そうしたらお菓子作るから」
うんうん。大きく頷いてくれるクマちゃん。あ、そうだ!
「ねぇねぇ、お名前なんて言うの? 教えてくれる?」
きょとん。またしても『さぁ?』のポーズ。ちょんちょんとわたしの手を叩いて、自分のほっぺを指す。
ちょんちょん、ぷにぷに。ちょんちょん、ぷにぷに。
可愛い。
いや、そうじゃない。これは名前つけていいよ、って事だよね。
何て名前が可愛いだろうか?
うーんと悩み始めるわたしの膝の上で、チョコレートの空き箱を名残惜し気に匂いを嗅ぎ、箱を飾っていた緋色のリボンをクルクル巻き付けて遊ぶクマちゃん。一瞬たりともじっとしていない。
そのリボンをクマちゃんの首にくるりと巻いて、可愛く形を整える。
「クリーム色だけど、このリボン気に入ったみたいだし、ヒイロ君でどうかな?」
再び両手を〇にしてのおっけーのポーズ。おっけー頂きました!
感想とか、書いて頂いてもいいんですよ!
書きにくかったら「くまかわいい。」だけでいいのです。
もしくは「クマはそんなじゃない」「もっと尻尾を」なんてのでもいいのです。
うちのクマが喜びます。




