第七話:背尾つかさはスリッパがお好き? それとも……クマ?
「はい。これ飲んで落ち着きな」
「ありがとうございます」
あ。レモンティーだ、嬉しいな。
色喰蟲と呼ばれていた白い嫌な虫を叩き潰した後、ちょっと大騒ぎになった。
なぜなら、わたしの予想した通り、魔法は構文に則って発音すれば多少アバウトでも効果があるらしいのだけれど、効果の大きさが桁違いだったみたい。槍が刺さっていたとはいえ、一発で仕留めたのはかなり強いとか。
タバサさんの熱湯も効いてたと思うのだけど、魔法に対して祝福があるのでは無いかと言われていた。今まで魔法使った事無いのだし、好きなものが魔法って事は無いと思うんだけど。
あと、虫を退治した後、クマちゃんを抱きかかえようとしたのだけど逃げられた。周りの人に聞いても皆には見えていなかったようで不思議がられてしまった。
その様子を見ていたタバサさんは私が錯乱したのだと思って、休憩に下がらせてくれた。周りの人達にあの魔法はなんだとか、ナンデスリッパ? とか聞かれてもわからないので助かりました。
コクコクとお茶を飲んでいると、タバサさんと並んでお茶を飲んでいるバージルさんが恐る恐るといった風に声を掛けてきた。
「あの、スリッパお好きなんですか?」
ブハッ! 少しお茶を噴いてしまう。無言で拭いてくれるタバサさん。
「なんでですか!」
「僕はパズルに祝福があるんですよ。クローブ隊長は利き酒に祝福があるし、他にも絵とか歌とか裁縫とかに祝福がある人がいます。でも、魔法自体に祝福を受けているなんて聞いた事ないので。もしかしてスリッパかなって」
「なるほど。でも違いますから!」
「この子は迷い人だから、魔法を初めて見たんだよ。それで気分が高揚してたんじゃ無いかな」
タバサさんがかなり苦しい理由付けをするが、バージルさんは納得していないようで首を捻っている。
「気分が高揚して魔法の威力が上がるなんて聞いたこと無いんだけど」
「じゃ、初めて聞けたね」
そう言ってバッサリとバージルさんの追求を封じると、タバサさんがわたしの耳に顔を近づけて、誤魔化そうとしている理由を囁く。
「魔法が強いなんて思われたらアレが出てくる度に退治を頼まれちゃうだろ? 言いくるめておくから少し散歩しておいで」
それは困る。私が役に立てるなら頑張りたい所だけど、他に屈強な男の人達がいるのにゴキブリ出たら呼ばれるとか嫌すぎる。
ちょっと買い物に行ってきますと声を掛けて表に出る。
タバサさんのお店は雑貨屋で、街に入る橋を越えた目抜き通りに面している。物凄い好立地の場所じゃない?
でもコンビニだと思えば納得の場所なのかな。
道に迷わないように、通りに沿って他の店を見て回る。すると大まかな規則性がわかってきた。橋に近い側の靴屋には丈夫なブーツ類があり、中心に近い靴屋にはサンダルやデザインの可愛らしい靴が多かった。
つまり、街の外で使う物と街中用とで棲み分けているんじゃ無いかな。
そう思ってみてみると、橋の近くには車輪の修理屋やお弁当屋がある。調理前の肉や生鮮食料品は中心に近い店にあった。
そしてこの通り自体が商店街になっているようなので、きっと路地を入ると住宅街になっているのだろう。
そろそろお店に戻ろうかな。薬作る手伝いしないとだし。そう思って散策をやめて店に向かおうとすると。
ばったりと、あの時のクマちゃんに出会えた。
フワフワの薄茶色よりさらに薄いクリーム色の毛皮。わたしの膝くらいまでの身長。小さな足を元気よく振り上げてピコピコ歩いている。
二歳から三歳児のようなよちよちのバランス感。たまりません!
いや、可愛さに夢中になるだけじゃいけない。わたしはこの子の後を追い掛けてここに来たんだから、帰る方法も知ってるよね?
「あの、聞きたい事が」
話しかけようとすると、ひょいっと避けられた。寂しい。
「ねぇ、あなたに」
ささっ
「お願いが」
ひょひょいっ
「クマちゃんお願い逃げないでぇ~」
ピタっ
周囲の人に怪訝な顔をされながらも必死でクマちゃんに追いすがると、ようやく動きを止めると自分のほっぺを指さして『ぼく?』と言いたげに首を傾げた。
かわいい。
やっとヒロイン登場。




