第三十四話:背尾つかさはそそっかしい
「タバサさん、シーナさん、カルダ君、今日はありがとうございました。助かりました。後日改めてお礼を」
「いやいや、いいから。早く行ってお店開けてあげな」
追い払う様に手をシッシッと振るタバサさんに追い立てられるようにその場を立ち去る。
本当は一軒一軒覗いて吟味して買いたいところだけど、左右をキョロキョロしながら早足で歩いて、目に留まったものを値段交渉とかしないで即買いする。
懐が温かいと財布の紐が緩くなるどころの話ではない。かなりの散財だ。でもこうして大盤振る舞いでの買い物が経済を回して……いや、きっと後で後悔するんだろうな。見比べて安い方買ったりするの好きなんだもの。
「そのジャム下さい。あと隣の瓶はハチミツですか? レンゲの? 下さい」
「これは胡桃ですよね? ざる一山で銅貨一枚? それなら、あるだけ下さい! あと奥の瓶から甘い匂いするんですけどハチミツありませんか? 巣ごと入ってる? 買います」
「白い粉……上物……ペロリ……これは、小麦粉っ!」
瓶の中の蜂蜜の匂いはいくら何でもわからないけど、ひいろ様が『ここ! こ↓こ↑!』ってテシテシ叩いて知らせるので一目でわかる。
背中のリュックサックと左手の自作買い物バッグの他に、ドワーフ製トートバッグにも買い物を入れていく。あっという間に持てないくらい買っている気がするけど、なぜかバッグの中に入れると重くない。不思議。バランスがいいからかな。
露天の開かれている中央広場を抜け出そうとした時、ナオリ草を吊るしているお店が目に入った。
「これは、ナオリ草ですよね」
「ああ。10本銅貨一枚でいいよ。在庫が無いって聞いて探してきたんだけど、在庫がダブつくほど採ってきた人がいるみたいで買い取って貰えなかったんだ。だからドライフラワーにしてある。効能はそんなに変わらないはずだよ」
「買います」
大量に採ってきたのわたしです。ごめんなさい。
紐で括ってぶら下げてある乾燥ナオリ草を受け取ると、ほんの少しの違和感。
あれ、もしかして。よく見てみると葉っぱの形が少し違うような気がする。これ、わたしの命名するところの『オイシ草』が混じってる。ちょうどいいから、またお菓子に使おう。いや、せっかく乾燥してあるんだから燻製に使ってみる? 確かお茶の葉を使った燻製とかもあった気がするよ。
大量の荷物を抱えて自分のお店の前に戻ると、困った顔をしたお客さん達がウロウロしていた。わたしを見るとギョッとしたようだ。たったの10分足らずで山ほど荷物を抱えていたら驚きもするか。
それはそうと、工房メインで販売用のスペースをあまり取っていなかった事もあって、すっかり忘れていたのだけど。お店の看板だしてないね、わたし。そりゃお客さんもお店の場所わからなくて困っちゃうよ。
この街の人たちはお店の名前がとてもシンプルだ。そのネーミングルールに則ると『つかさの回復薬屋』になるのかな? それとも『つかさのアトリエ』それはなんかいけない気がする。『つかさとクマの回復薬入りお菓子屋』なにがなんだかわからない。いやいや考えてる場合じゃ無かった、お客さんを待たせているんだから、店名や看板は後回し!
「すいません、いま開けます!」
製菓材料に気を取られて染め油を買い忘れていた事に気が付くのはお客さんの対応が終わってからだった!
お店の名前、どうしよう?




