表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/48

第二話:背尾つかさはここがどこだかわからない

 都内のコンクリートジャングルに居たハズなのに。

 会社の近くにこんな公園あっただろうか?

 だが、公園ならば花壇の他に歩道もあるはずなのに、私が立ち尽くしているのは一面のお花畑。

 ビビットな黄色から花弁の根本に掛けて薄っすらとオレンジにグラデーションしている大輪の華は野生の雑草とも思えない。

 いや、道端に咲くポピーとかも結構きれいだし、そんな事も無いのかな?

 チューリップのようにも見えるが花弁の数が多いし、なんて言う花なんだろう。


 自宅のベランダに作った秘密基地……ならぬ秘密の花園を思い出して溜め息をつく。

 近所のホームセンターでプランターと土をたくさん買ってきて、バジルやローズマリーにレモングラスの種をまいたのだが、ちゃんと間引きしなかった為に根本が細くなり全て倒れて枯らしてしまったのだ。

 その後には初心者向けといわれたナスとトマトを植えたものの、風で倒れて全滅した経験がある。


「せめて料理に自分で育てたハーブなりを少し入れるなんて事をしてみたかったなぁ……」


『好き』と『得意』の間に立ちふさがる大きな隔たりについつい落ち込んでしまう。


 ここに迷い込んだ原因だってそうだ。

 周りにはキリっとしたお姉さん風を装っているが、私の実態は極度の可愛いモノ好きなのだ。ヒヨコとかペンギンとかそういう小動物はついつい見入って時間を忘れてしまう。小学生の時の遠足で動物園のペンギンコーナーで足を止めてそのまま動けなくなった事があるし、大人になってからもヒヨコのふれあいコーナーで手のひらで眠ってしまったヒヨコを眺めてうっとりしていたら閉園になる事が度々ある。

 その中でもクマはいけない。

 毎年長期の休みになると伊豆や那須のテディベアミュージアムに通っているし、その度に自室のクマぬいぐるみが増えるのでベッドをぬいぐるみの為にダブルベッドにした位だ。

 中毒と言ってもいい。足りなくなっても手が震えたりはしないが、お散歩中のクマさんリュックを背負った保育園児達について行ってしまったりする。


 最近は忙しくてクマ不足になっていたのか、ついついフワフワのお尻に見入ってしまった。まるで変質者であった。


「いや、クマちゃんだ! あの子どこいった?」


 ぬいぐるみが歩いているという不思議現象にはあえて目をつぶろう。あの子についてきて知らない公園に入り込んだのだ。更に着いて行けば知っている場所に出るかもしれない。


 こうしてわたしは目をつぶってはいけない物に目をつぶり、クマを探してキョロキョロと歩き回った。

 そして……


「いっぱいいた」


 花畑の中で花をプチップチッと勢いよく抜いているクマちゃん。

 大きなうちわで樹を仰いでいるクマちゃん。

 小さな小川に足を付けてだらりとしているクマちゃん。

 よくよく目を凝らしてみると、そこら中にクマが居た。


 その中の、さっきのクマとはちょっと色が違う好みのクマちゃんに話しかけてみる。もちろん可愛い。


「あの、あんまりお花引っこ抜いたら……」


 おそるおそる話しかけてみると、ミントグリーンのクマはびっくりした様にこちらを見ると、よく見ろとでも言う様に肉球付きのおててで花を指さした。

 よく見てみると、クマが抜いているのは数本おき。それも茎が細めのを選んで抜いているようだ。


「もしかして、間引きしているの? 密集している所から弱いものを抜いて、他のがよく育つように?」


 ざっつらいと! とでも言う様にクマは親指を立てる。

 動物の熊の指ではなく、ぬいぐるみの肉球おててなので、ほとんど指は動いていないのだが、心の目で補完する。


「手伝いましょうか?」


 そう話しかけてみるが、クマは親指で自分のほっぺをぷにぷにと指すと、抜き終わった花を押し付けてきた。


「自分の仕事だから手出し無用? この花をくれる……いや、抜くの手伝うより処分してくれって事?」


 ざっつらいと・パート2!


「わかった。このお花は貰っていくね、ありがとう」


 次は川の水に足を付けているという奇妙な行動を取るクマちゃんに話しかけようと近寄ると、前足をつかって何かを指さす。

 言われるままに見てみると、クリーム色の熊がお尻を振りながら歩き去っていくのが見えた。

 あのクマちゃんの後ろをついてきたのを見ていたのだろう。


「ありがとう!」


 どういたしまして~。とでも言う様にゆっくり前足を振るクマに手を振ると、去っていくクマを走って追いかけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ