第十五話:背尾つかさは山ほど収穫する
茶色いクマ!
ちょっとてっぷりとお腹が大きくて、ぼんやりした顔をしていて、フッサフサ。思わず後ろから追い掛けて抱き着いてしまう。
はーなーしーてー! とじたばたするが、わたしは癒しが欲しいし、欲望に忠実なのです。
右腕にいつの間にか抱えていたひいろ様と、茶色いクマ君に顔をうずめてスリスリする。
もー、しょうがないなー、と呆れた顔を浮かべると、茶色いクマ君は空気を入れて膨らませたかのように大きくなっていく。そのままわたしをお姫様抱っこにするとノシノシと歩いていく。
大きなクマのぬいぐるみに抱っこされ、自分の胸にも可愛いクマを抱っこしているとか、なにこれ天国? わたしどんな善行つんだの?
ちょうど数日前にも焼いた、会社でおやつに食べるように持っていくカロリーやや控えめクッキーと同じような色。オーブンなんてないだろうけど、何とかしてお菓子作りたいなぁ。
そんな事を考えているわたしを抱えて、茶色いクマちゃんが歩くとドンドン道ができていく。力持ちだし頼もしい。魔法を使ったから一時的に現れた精霊さんなのだろうけど、ひいろ様みたいにずっと傍にいてくれないかなぁ。
「ねぇねぇ、また魔法使ったら出てきてくれるの?」
そう尋ねてみると、キュっと頷いてくれる。
「あの粘土だと君が来てくれるの? 使う絵の具と同じクマちゃんが出てくるみたいだけど、同じ色なら君が来るのか知りたくて。おんなじ色の精霊がたくさんいるのか、それとも同じ色の子は君だけなのか」
わたしの事を片手で抱えなおすと、空いた手で自分の事をフニフニと指さす。
この子が来てくれるって事でいいみたい。
「じゃ、帰りにあの粘土絵の具採って帰って、また君の事を呼ぶね?」
キュっ!
「クッキーみたいな色だからクッキー君って呼んでいい?」
ピタリ、と足を止める。あれ、かってに名前つけちゃダメだったかな?
そーっと、わたしを地面に下ろすと、そこはあの多弁チューリップ……ナオリ草の群生地だった。え、もうついたの?早くない?
そうおもって、茶色クマちゃんをみると、ぴょんぴょん飛び跳ねながらバンザーイしている。着いたから、じゃないよね。名前嬉しかったのかな? それならわたしも嬉しいな。
クッキー君とひいろ様を引き連れて花畑の中をうろうろすると、花をどっさりくれたミントグリーンのクマちゃんが見つかった。
モクモクとお仕事をしていたのか、周囲には山ほどのナオリ草が積まれている。彼の正面と後ろでは花の密集具合が違うので、やはり間引きをしているようだ。
そういえば私が育てるのに失敗したハーブも、種から芽が出たら少し隙間を開けてあげないと大きく育たないとガーデニングのHPに書いてあった。
「あの、この抜いたナオリ草また貰ってもいいですか?」
クルリと振り向くと、前足を掲げて見せる。
……多分だけど、親指を立ててくれたんだよね。そんな雰囲気がする。
使うのは花以外の部分だからここで取ってしまってもいいのだけど、それもなんだか失礼なので一度に鍋に入る量として10把ごとにまとめてズダ袋に入れる。九本分のナオリ草を集めて、一本の草で束ねるのだ。
わたしがせっせとナオリ草をまとめて袋に詰め始めると、ひいろ様とクッキー君が手伝ってくれる。瞬く間に袋はいっぱいになった!
「干して使う事も出来るらしいから、その方がたくさん運べるかな? いやいやあんまり欲張ってもよくないか」
そう呟いて束ねた1把を木の枝に引っかけておく。木陰に干して置いたらちょうどよくドライフラワーみたいにならないかな、という期待をして一つだけ試しておくのだ。生のナオリ草と乾燥ナオリ草で効果に違いが出るのかとか試してみたい。
「じゃ、ひいろ様、そろそろ帰ろうか」
声をかけてズダ袋を抱えようとすると、立ち上がれない事に気が付いた。
「あ、重い……っ?!」
45ℓ入りのごみ袋くらいの大きさがある袋にパンパンに草を詰め込んだらどれくらい重くなるかわかりそうなものなのに。ついつい調子に乗ってしまった。せっかく手伝ってもらったけど、半分くらいにしようか。
そう思った矢先、クッキー君が袋を軽々と持ち上げてくれた。動物園の熊は大きな木の丸太を片手で転がしていたけれど、クマも力持ちなんだね。いや、わたしをお姫様抱っこにできる時点で力持ちだよ。太ってはいないけどごみ袋よりは重いもの。
ひいろ様に手を引かれ、クッキー君に荷物を持ってもらって街へと帰る。なんなのこの子たち物凄く紳士っ!ひいろ様はきっと通り沿いの道を歩く時は車道側を歩いてくれそう。クッキー君は電車の中で角を譲ってくれそう。
「ふたりともありがとうね!」
そう声を掛けると、どういたしまして、と言った風にむにっと笑った。可愛い。
普通の魔法と絵魔法の違いは、絵の具という触媒を使う事で魔法の結果がその場に残存します。
堀を掘ったり道を作ったり、はしごを作ったり。
色喰蟲に齧られたところを治す場合、絵の具が必要になるので絵魔法必須になります。




