第十四話:背尾つかさは着飾る意味を知る
一着目はデニムに近い堅めの生地の青いパンツに、グレーの地にライトグリーンで文字のような紋様が染められたチュニック。
もう一着は緋色にクリーム色の糸で民族衣装風の刺繍が縁に入った重めのロングスカートと落ち着いた茶のブラウスだ。
もっと白っぽい物は無いのかと聞くと、白は「色を失った状態」だから縁起が悪いと教えられた。
そう言う理由があったのか。道行く人の服も街の装飾も、やたらと色彩がうるさいのだ。全体的に濃い。
とはいえ、灰色やクリーム色はあるのでそれが白の代用にはなるのだけど、色は沢山身に纏った方が良いらしい。
これにはピンときた。色は精霊の与えてくれる物だからなのだろう。
「じゃあ、黒もあまり良くないんですか?」
「全部の色を重ねれば黒くなるだろう? 欲張りの印象があるからかね、あまり身につける物には使わないよ」
また、あんまりシンプルにするのもお薦めしないと言われた。
街の外で遭遇した色喰蟲。あれは一度に一色を齧り取るらしく、多くの色を身につけることでお守りになるそうだ。
そう聞くともう一枚羽織るのもが欲しくなる。あんなのに齧られたくは無いけれど、色を多く身につける事が色喰蟲対策の防具になるのなら仕方ない。
服は買えたけれど、自立した生活をするにはまだまだ必要な物はたくさんある。質の高い薬を作って買い取って貰おう。
そうして、タバサさんのお店の掃除を手伝い、一緒に簡単な炒め物の料理で夕飯にしてから半分倉庫になっている二階の一室を借りて眠った。ひいろ様を抱っこしながら。
そして翌日。
動きやすいパンツスタイルの服装にタバサさんから屋外用の革のコートと軍手と大きな袋を買い、ナオリ草の採取に向かう。
なぜかひいろ様が前足を突き上げてやる気にあふれている。サイズの小さいリュックとか作ってあげたら喜ぶかな?
いやいや、その前にこの袋を改造して自分用のリュックにしよう。両手を空けないと。気をつけないとついついクマ中心に考えてしまう。
パレットの街の南門から出てみると、昨日の戦いの場所に大勢の人が集まっているの見える。バージルさんとクローブさんもいる。見ていると、ベレー帽をかぶり絵筆を魔法の杖のように振り回している人がいる。
「蒼よ碧よ、失われた色を埋め、再び在りし日の姿に戻る事を願う」
絵筆と反対の手には固まった絵の具のような青と緑の塊を持っている。
その塊がキラキラ光ると、絵の具と同じ色のクマちゃんが現れて昨日の蟲との戦いの後に狭くなっていた川の辺りに肉球をペタペタし始める。しばらく見ていると、数分で川幅が元通りになっていた。
どうやら昨日の蟲との戦いで川幅に変化があったのは、齧られたからのようだ。そしてあの魔法は齧られた部分を修復しようとしているという事なのかな。
空間ごと削り取るとか、蟲怖いな! 治せる魔法も凄いけど。魔法もやってみたら使えたし、わたしも絵の具があればあんな魔法も使えるだろうか。ちょっとやってみたい。クマちゃん出てきてくれるみたいだし。
いや、予想するばかりじゃなく聞いてみればいいのか。
今も足元には弾むように歩いているひいろ様がいるのだ。
「ねぇねぇ。あの魔法ってわたしにもできる?」
しゃがみ込んで聞いてみると、ひいろ様は不思議そうな顔でわたしを見上げると、何処から取り出したのか大きな絵筆を取り出した。
「これ、つかっていいの?」
こくこく。うなづく身長60cmくらいのクマのぬいぐるみ。歩いて踊ってしぐさの全てが可愛らしい。持って帰りたい。持って帰ってるけど。
ひいろ様から絵筆を受け取ると、絵筆は杖くらいの大きさにいっきに膨らんだ。ホウキみたいだよ!
「あ、でも絵具が無いか。今度試させて貰ってもいい?」
もー、しかたないなー。と言わんばかりに腰に手をあてて、ふ~とため息を吐くと、裾を掴んでテクテク歩き始めた。歩きにくいんで、離してもらってもいいですか。今度コートの端に持ち手を付けておくので……
そうしてひいろ様に連れられて行くと、街に来る前に抜けた森だった。けもの道というより藪の隙間と言った部分で、ひいろ様は地面に手をついてわたしに見せる。黄土色をした粘土だ。
「あ、これを絵の具代わりにして使えっていう事?」
絵の具代わりどころか、染料の原材料にはこういうのもあった気がする。
やや褐色じみた粘土を筆に付けると、けもの道をなぞる様に筆を動かして、魔法を使う。
「大地の色よ、道になって、わたしとひいろ様が歩きやすいように」
キラキラと光る粘土から茶色いもっふもふのフカフカなクマちゃんが現れると、けもの道を先導して歩いていく。彼の通った後は二人で並んで歩ける幅の歩きやすい平らな道になっていった。
わお、凄い! さすがクマ凄い! さすクマ!
絵の具の材料とか、いろいろ資料を……とも思いましたが、ここは不思議な世界です。
全部、鉱石とか植物とかから作ったり、掘ったりして手に入れます。難しいのナシ!




