第十二話:背尾つかさは初収入を得る
どうやらナオリ草というのは地球の薬草とは完全に別物の様だ。
そりゃそうか。怪我は二時間では治らないものね。
お茶のような液体状のまま傷口に掛けてもいいけれど、それだと効果が薄いらしくて軟膏に加工する方が売れ行きがいいらしい。プルルン樹液はワセリンに近いものっぽい。保湿とはに使う化粧品にも使えたらいいな。
「この瓶、サイズわりとバラバラですね?」
「そりゃ、規格が統一されているわけじゃないからね。手作りで作ってるガラス瓶だし、だいたい同じ大きさにはなってるけど、誤差は気にしちゃダメ」
工房が集まった地区があるらしく、その中でガラス工芸が得意な人が瓶を作っているのだとか。
『好きこそ物の上手なり』って凄いな。趣味が確実に仕事にできるし、下手の横好きってこの世界に居ないんだ。
好きなものは上手になる。その事自体が祝福だと思う。好きな事と素質とが噛み合わなくて苦しむ人のどれだけ多い事か。この世界ではその苦しみは無い。それだけでここが好きになりそうだ。
とはいえ、わたしの趣味って可愛いクマのぬいぐるみを集める位で、夢中になるものって無かったりする。
料理とかお菓子作りとか、そういうモノで何とか仕事にできるといいけどなぁ。
「つかさは火は多少扱えるとして何が特技になるんだい?」
「なんなんでしょうね。履歴書に書いたのはワードとかエクセル使えますとか、情報処理の資格とかですけど……」
「パソコンないからねぇ」
「料理もやりますけど、すごく好きって程じゃなくて、美味しいもの食べるのが好きなんですよね」
「そりゃ、私も好きだよ」
「ですよね。そのうちお菓子焼いてきますね」
わたしの持ってきたナオリ草も半分ほど薬草汁にしたところで、ガラス瓶がなくなったのでいったん中止。薬に使う瓶は使い終わったものを、回収できないだろうか。瓶持ち込みなら次の薬を割引とか。
「まさかつかさがナオリ草をこんなに持ってるとは思わなかったからね、容器が納入されたらまた手伝っておくれ」
「はい」
「じゃ、これ、手伝いの分と、こっちがナオリ草の買い取り金額だよ」
緑銅貨という苔色の硬貨を何枚か渡される。シンプルな円形の物と、穴が開いているものと、四角形の物がある。
「これ、100円くらいの扱いかな。でも全体的に物価が安いからこれ一枚で安い食事くらいはできるよ」
「おにぎり一個分と思えばコンビニで買える値段だからわかりやすいですね」
「四角形のは十枚分の価値がある。穴あきはクォーター。250円だね」
「なんでそんな中途半端な金額で取引するんですか?」
意味が分からなくておもわず首をかしげる。ひいろ様の動きがつい移ったかな。
「日本だと足し算引き算が普通にできるから10進法のお金で不便には思わないけど、教育が徹底していない場所だと『このお金とこの商品を交換』っていう風に取引するのよ」
「はい」
「そうすると、『半分』と『半分の半分』っていう単位がよく出てくるんじゃないかってのが私の予想」
なるほど、買い物の基本は四角緑銅貨と思っておく方がよさそうだ。半分買うときは穴あきを二枚。さらに半分なら一枚。穴無しの丸緑銅貨は、細かいものを買う時の小銭。
「もっと高い金額になるとこういうのもある。こっちは1万円くらいかな。四角いのは10万円だね」
タバサさんは黄色い硬貨も見せてくれる。
「金貨っていうより黄色貨ですね。あと銀貨って無いんですか?」
「金と銀ってあんまり見ないのよ。金属自体あまり使われてないみたいね」
紙幣も使われていない様だし、色と形でわかりやすくなっている方が使う分には楽でいい。
ただ、硬貨が日本円より少し大きいので元々使っていたお財布は使えなそうだ。皮の袋とかにジャラジャラいれるだろうか。ちょっとアイテムっぽくてテンションが上がってしまう。
「店番と細かい手伝いをやるなら、うちの店の二階に住んでもいいよ。食事処が遠いけど、井戸までは近いし便利だよ。だから、とりあえず服とかの身の回りの物を買っておいで。なるべく通り沿いの店でね」
やった!タバサさんのこの言い方だと、貰った数千円で服は買えるのだろう。楽しみだ!
四分の一貨幣とかは、ただのフレーバーです。特にお話の中で使う設定でもありません。