第十話:背尾つかさは仕事する
ひいろ君……ひいろ様の案内で石像を見て回ると、根源の三精霊は別格扱いではあるものの、広場の中心のモノリスみたいな石版を囲むように、中間色やパステルカラーの精霊像があった。
どうやら、精霊は色ごとにたくさん居て、その色に近い物を司るらしい。魔法の構文にも色が出てきてたし、この世界は色が大切なのね。
だからなのか、絵の具は大切な物として扱われるようだ。精霊への奉納に、お守りに、贈答品に。周囲のお店では様々な名目で売っていた。
絵は子供の頃は大好きだったのだけど、上手には描けないのでちょっと苦手意識がある。
祝福を受けた絵の具を使って絵を実体化させるという、絵魔法なんて物もあるらしくて、ちょっと残念に思う。絵の上手い……つまり絵を描くことが好きな人は、とても大切にされて居るのだそうだ。
絵が上手に描ける人は良いなぁ。わたしも、下手とか言われて拗ねないで、描く練習すれば良かった。
「何処に行ったのかと思ったよ。あんたノンビリし過ぎだろう」
「ごめんなさい。ご心配お掛けしました」
タバサさんのお店に戻るとため息をつかれた。二時間くらいウロウロしてたものね。散歩にしても長すぎた。ひいろ様の観光案内は言葉ではなく身振りなので時間が掛かってしまったのです。
バージルさんはもう傷の痛みも引いたそうで、職場に戻ったそうです。ざっくり切れていた傷が縫ってもいないのに二時間で塞がって痛みも無いとか、凄い。これも魔法の力なんだろうね。
さっそく、というには時間が掛かったけど薬のお手伝いをすることになる。
「ナオリ草という草の葉と茎の部分を煮出した汁を、プルルン樹の樹液に混ぜるだけだよ。プルルン樹液は無味無臭で薬効も何も無いけど乾燥しにくくなるから保存用に混ぜるとジェル状になるんだよ。気をつけなきゃいけないのは、ナオリ草の汁は沸騰させると熱で変質しちゃうから低温で煮出す事。そしてこの世界にはガスコンロは無いので火加減が難しいの」
作り方のレシピはとても簡単。ただし火加減の調節が厄介だった。
「差し水をすれば沸騰は防げるけど、薄まった分を煮詰めるのが手間だからあまりしたくない。火元から離して調節するから、その間につかさは葉っぱの破片とか浮いてきたら掬いながら、火を絶やさないようにしてね」
お茶を煎れる時にも、確か玉露は低めの温度で煎れないと甘みが出ないとか聞いたことがある。
お店の裏手にある薪置き場から手頃な大きさの薪を抱えて戻ると、大きな竈の中に組んで配置する。火が付き易くする為に小さな木片を段階的に置いていき、火種に息を吹きかけて火を熾す。
うん、これは大変だ。キャンプとかでやったことがあるけれど、適度な不便さを楽しむ為の遊びと日常の労働では大きな違いだ。
「ライターとか着火剤とか無いんですか?」
「あるけど、魔道具だからね、毎日使うには割高なんだよ。道具に頼らずに火が扱えるように普段から練習して置いた方がいいよ」
なかなか楽をすることは出来ないようです。考えてみると、電気とガスと水道がごく普通に使えるって物凄い事だね。現代の生活ってチートなんじゃないかな。
「さっきの戦いの時にやってたみたいに魔法で火を出したりはしないんですか?」
「してもいいけどうんと火加減を微調節しないと火事になるよ。火種が消えてて急ぎで火を付けたいときは庭で『火の赤よ、種火となって燃えあがれ』ってやってね」
「火の扱い大変ですね」
「そりゃそうよ。水道も無いのに火事になったら一大事だもの。ウチは薬も作るから竈の許可がおりているけど、一般家庭は火を使う許可はおりないのよ?」
なんと。一般家庭では台所も無いのが普通だとか。火を扱うには広めの土間と竈を作って役所に申請する必要があるらしい。食事の支度も外食をするのが普通で、お風呂も公衆浴場。現代日本みたいな生活は無理のようだ。
そんな雑談をしながらコトコトとナオリ草の茎と葉を煮込んでいく。
この葉っぱ、そういえば見覚えがある。カバンの中の多弁チューリップ、見せてみようかな?




