16話 湖にて
こちらに近づいてくる板金鎧を、ローリエも視認していた。
腰に剣の鞘を携えた、それは、ガシャンガシャンという音を立てながら歩みを続けていた。
「ひとまず調べるべきは、あの鎧になりそうね」
「ああ、みたいだな」
アクセルが頷くように、今回初めて見たのが、あの鎧だ。
先ほどから目の端に入れるようにしてはいたが、
「私たちが泉に触れた瞬間から、動き出したように見えたのよね」
あれがどういう存在なのか分からないが、少なくとも魔力が宿る存在であることは確かだ。
だから、どう調べたものか、と思っていると、
――フワッ
と、膝上に置いていた神書が光って、僅かに浮いた。
「次は何よ……?」
その光は、神書の中の一ページに移ると、
――ビッ!
という音を立てて神書の一ページが破れ、そのまま、板金鎧の方へ向かって突き進んだ。そして、
「――」
板金鎧の胸元に、吸い込まれるようにして、同化した。
「え……?」
一瞬の出来事だ。
あまりに突然起きた事に、ローリエは目を見開いていたが、
【我が泉へようこそ 人の子ら、精霊の子らよ】
板金鎧の胸元に、光の文字が生まれた事で、更に驚いた。
いや、正確には文字も描かれたが、頭の中に声が響くような感じがした。
「喋りかけてきたか」
「え、ええ。しかも、あの神書で文字を刻むってことは、精霊神様って事かしら……?」
こちらの喋りに答えるように、兜の目の部分にオレンジの光が宿り、口元が笑みの形を作った。
【いかにも。あくまで、これは我の媒介にして、化身にすぎぬ】
言いながら、兜を外して見せてくるが、
「――」
中身は空っぽだ。
がらんどうのまま、しかし手足を動いている。
そして板金鎧の騎士は、再び兜を頭に付け直して、こちらへの歩みを再開する。
「それで、神様がここにいるってことは、俺たちに何か用があるんだな」
アクセルの台詞に、鎧の騎士は頷きをもって返す。
【最後の、試練だ】
そんな声と共に、ローリエの手元にあった神書が光った。
見れば、そこには、
【どんな手を使ってでも、立ちふさがる化身を砕け】
との一文だけが、刻まれていた。
その文章を、目にした、瞬間だ。
「……え!?」
――グン!
と、身体を後ろに引っ張られた。
アクセルの手によるものだ。
一体何を、と思う間もなく、
――ギン!
という金属音が、眼前で響いた。
それは、鎧の騎士が持つ剣と、自分の前に出ていたアクセルが手にする剣が衝突した事によるもの。
切りかかられたのだ。
アクセルが防いでくれなければ、己の頭に当たっていただろう。
「大丈夫か。ローリエ」
「え、ええ。ありがとうアクセル……!」
剣を受け止められた騎士は、そのまま跳ねるようにして大きくバックステップを踏み、距離を取る。
そして、兜が表情を作る。
金属が不自然に曲がり、笑みのような形状を形作り、
【我は頑張っている姿を見るのが好きだ。だから、頑張っている姿を見せてくれ】
剣を血払いするように、虚空で二度三度振りながら言ってきた。
動きは素早く、空気を切る音がこちらまで響いてくる。それを見たからか、
「なるほど。かなり、やる気みたいだな」
アクセルは応じるように前に出て、剣を構えた。
その時だ。
デイジーが声を上げたのは。
「……あのよ、鎧の騎士が持ってる、あの剣、親友のに似てないか……?」
デイジーの言葉に誘われ、ローリエの視線はアクセルの剣と鎧の騎士の剣を行き来する。
「確かに、そうね」
装飾の部分は流石に違うけれども。
刃の金属の質感、そして含まれている魔力の感じはかなり酷似している。
「向こうの一振りも、アクセルの剣と同様、物凄い魔力を感じるわ」
「ああ……一応、これは神様から授かった剣と言われたからな。相手が神様なら、同じような剣は持っててもおかしくはないんだろう。打ち合った感じも、昔、槍と剣をぶつけ合わせた時に似てたからな」
先ほどの一撃で、アクセルも気付いていたのだろう。
こちらの予想に驚くこともなく受け入れていた。けれども、こちらとしては、とんでもない事実が確定したことでもあり、
「これって、神剣を持った神様の相手をして、倒せってことよね」
言葉にするだけでも、あまり想像したくない難度だ。
そもそも神様と戦って、まともであった例など、殆どないと言っていい。
……降神祭のような神様が現世に降りてくる力試しで、ちょっとだけ渡り合った人ですら、稀有なレベルだもの……。
それを今、求められているのだ。
「【見せてくれ人の子らよ。君たちの命の限りの精一杯を】
そんなことを言いながら、鎧の騎士は再びこちらへ向かってくる。
今度は歩きではない。
走りの勢いで。
バシャバシャと浅瀬を突っ切りながら、突き進んでくる。それを見て、
「鎧を倒す、か。それじゃあちょっと、チャレンジしてみるか」
アクセルは前へと大きく進み出ていく。
あまういが原作を務めます、「叛逆の血戦術士」のコミックス第一巻が、9月9日に発売されました(表紙画像↓から公式サイトへ行けます)
是非一度、お手に取って頂ければ嬉しいです!




