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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第6章

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11話 乗り越える

ローリエは、眉を顰めてその光景を視認した。 


「え……ここが崩れるなんて……一体……」


 このトンネルは、精霊都市でも指折りの《坑夫》や《職人魔術師》、《設計士》たちの力を結集させて、比較的最近作った頑丈なものだ。

 

 ちょっとやそっとの衝撃で壊れる事は考えられず、耐用年数的にもまだまだ、壊れる筈がないもの。

 それが壊れた要因があるとすると、


「……ウロボロスの影響、か?」

「多分、そうね」


 自分と同じ発想に至ったアクセルの言葉に、ローリエは小さく呟く。


 奴が襲っていたり、暴れていたりしたのは決して都市部だけではない。

 

 こういう場所でも暴れて局所的な地震が起きていたりしたって、何らおかしくはない。

 

 ……あの巨体にしてはむしろ被害が少ないくらいだから。もしかしたら直接暴れた訳じゃないのかもしれないけれど……

 

 見た感じでは地滑りのような状態も発生している。

 魔力を食いつくされたことで木々の根が弱まり、トンネルを崩すほどの勢いで滑ったのかもしれない。

 

 ただ、今はそんな仮定を考えている場合ではない。

 原因はこの際、あとから解明するとして、今大事なのは、

 

「チェックポイントは、この山の奥――というか、このトンネルの奥にある、平地なのよね」

 地図上で示されたポイントは、山々に囲まれているように存在する平地だ。


 そこを通らなければいけない。けれど、


 ……周囲は山に囲まれているから回り道も出来ないのよね……。

 

 他にトンネルはない。

 それが崩れた今、自分が取るべき手段は――


「じゃあ、登るか」


 こちらが言おうとする前に、アクセルがそう言った。


「え……」


 あまりに軽く言われたことに、思わずローリエは聞き返した。

 

「上るって、ここを?」

「うん。ここを」

 

 どうやら聞き間違いではないらしい。

 

「見ての通り、ほぼ崖よ、ここ」

「だな。けど、そうするしかないだろう? トンネルを掘るのが、早いっていうんなら、そうするけども……もっと崩れる可能性すらあるし。もしくは、他に上りやすい山はあるのか? もしくは、チェックポイントに最短で行ける山とか」


 言われ、ローリエは地図を見て、そして今までの記録にあった地形を頭の中で合わせて考えた。そして結論は直ぐに出る。


「……ううん。他の山は整備されてなさ過ぎて地理が分からないし、基本的に標高が高いから。正直、登れるのであればこの山を登るのが一番だと思うわ。ただ、傾斜は、見ての通りだけど……行けるの?」


 最短距離である事は間違いないが、元々はトンネルを作らねばならないほどの山だ。

 だから問うたのだが、


「問題ない。触れた感じ、山肌もしっかりしているところが多いしな。安全なルートは見て分かるし」


 トンネル近くの岩肌を触りつつ、アクセルはトンネルの上を見ていた。


「そこまで分かるの……?!」

「まあ、こういう山は、竜騎士時代は何度も登ったからな。……あと考えるべきは登坂姿勢だが……背負うのが良いんだけど。構わないか」

「え……?」

「いやだって、魔導椅子でここはきついだろう」


 アクセルはこちらが座る椅子を見ながら言った。


「私を背負って、いけるの?」

「ああ。一人二人抱える位なら平気だ。デイジーは――」

「――あ、五分程度で良ければ獣形態に戻れるから。親友のポケットに入っていいか?」

「了解。じゃあ、合図で獣形態になってくれ」

「オーケーだぜー」


 デイジーとの話し合いは、それだけで終わった。

 けれども、


「5分で、この山を登り切るつもり……?」


 今目に見えている岩肌だけでなく、それよりもまだ上に山は続いている。

 

 少なくとも普通に登ったら数時間は掛かると思うのだが、


「んーというか、この距離なら、そんなにもかからないと思うぞ」


 アクセルはそう言うのだ。


「ただ、念のため、道を聞く場合もあるから、背中に乗ったまま案内してくれると助かる」

「わ、分かったわ」


 こちらの答えに微笑で頷いたあと、アクセルは近づいてきて、背中を向けてしゃがんだ。


「さ、乗ってくれ」


 こちらが足を動かさずにいいように、膝をつくようにした姿勢だ。


「あ、ありがとう」


 そんな彼の背を手繰るようにして、ローリエはゆっくりと体を預けていく。


 アクセルの肩に手を置き。

 足は腰の周囲に回す。

 そうすることで体重が、ゆっくりとアクセルの背中に乗せられていくが、


「……思った以上に、肩も背中もガッシリしているというか、硬いのね」


 自分が乗っても、身じろぎ一つしないというか、本当にビクともしなかった。

 

「ああ。だけど、乗り心地はそこまで良くないぞ」

「そんなことないわよ。充分安心感あるもの」

「お、話が分かるなローリエー。親友の身体に乗ってると、安定感がちげえからな」


 言いながら、デイジーもこちらに近づいてくる。

 

「好評なようで何よりだ。それじゃあ、デイジー」


「あいよ。変わるぜ」


 デイジーは獣の姿になると、すぐさまアクセルの肩に乗った。


「姫さんが落ちないように、もしもの時はオレもサポートするぜー」

「頼んだ。じゃあ、登るか」


 そして、そう言った瞬間だった。

 

 ――ドッ!

 

 という音共に、地面が一気に遠くなったのは。

 

「――ッ!?」


 次に感じたのは風だ。

 

 頬や髪に、前と上から風が来る。


 そう思った時にはもう、アクセルの足は、トンネルの上の山肌に付いていて、

 

「さ、行くぞ」


 一気に、坂を上り始めたのだ。

 

 地面を――否、急斜面を這うように。

 

 アクセルは前傾姿勢で、しかし、こちらの身体を腕でしっかりホールドしながら突き進む。

 ……魔導椅子でも出ない速度よ、こんなの……!

 

 そして、椅子に乗っている時よりも視点が高い。

 それこそ、久しく味わっていなかった、自分の脚で立って走る視点に近いものがあった。


 ただ、速度の感覚は自分が持っているものと全然違うが。


「こ、こんな速度で動くの?」


 背負われている中で思わずつぶやくと、肩のデイジーが微笑みと共に首を振った。


「いやあ、親友にしちゃ大分ゆっくりめだぜ」

「これで!?」


 こんな馬車のような速度で斜面を走っているのに、それでいて、木々の枝葉が自分に当たる事もない。

 

 ……背負っている私に当てないように、空間を把握しながら走っているの……!?

 

 理屈は分かる。

 だからこそ、とんでもない技術で走っているのが分かった。


 そんな二言三言を話して、感想を抱いている間にも、


 ――ドン! 

 

 という音と共に、景色がどんどん流れていく。

  

 一歩で十数メートル飛ぶ。

 音が鳴るごとに、それが連続していく。

 

 そんな感じが続くのだから、当然と言えば当然だが、


「山頂踏破――っと」


 あっという間に、山の向こう側が見える位置までたどり着いた。


 †


 山の上と言えど、木々は多く、周辺の見通しは悪い。

 ついて直ぐに俺はそう思った。

 

 だから、


「ローリエ、次はどっちだ?」


 背中のローリエに聞いた。すると、


「あ、あっちよ。ちょっと、木々の少ない平地が見えるでしょ」

 

 肩越しに指をさしてくれた方向を見る。

 

 確かに、木々の合間から、平地が見えた。だから、

 

「おお、意外と近いな。なら、このままいくぞ」

「え……ひゃあ!」


 俺はローリエを背負ったまま、滑降する。

 

 先ほど上ってきた斜面よりも急ではない分、加速も容易だ。

 

 斜面を蹴り、下方向の加速を得て、そして木々と枝葉を回避しながら突き進んでいき――


「――到着、だな」


 数秒で、俺は山を越えた先の平地へとたどり着いた。

 

 そして俺たちの視線の先には、鮮やかな紫色をした花々と、

 

「あ、チェックポイント……」


 オレンジ色の光の姿があった。


「あ、アクセル。一旦降りて触るわ」

「おう、了解」


 俺はチェックポイントの近くまで行き、やや身体を強張らせたローリエを降ろした。

 彼女はそのまま神書を開き、片手で光に触れた。そして、

 

「……うん。これで、ここのチェックポイントは終わりで、次はあの山の向こうになったわ」

 神書を見ながら、ローリエは、来た道とは反対側の山を指さした。 


「なるほど。……それじゃあ、次のチェックポイントに進むために。もう一度、登山と下山するか」

「え、ええ、よろしくお願いするわ」


 そうして、俺はローリエを背負って、再び山の方へと進むのだった。



最近、「叛逆の血戦術士」という作品の漫画原作を始めまして。コミックス第一巻が9月9日に発売されます(表紙画像↓から公式サイトへ行けます)。


是非一度、読んで頂ければ嬉しいです。


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