8話 休息の違い
精霊都市を出発して半日。
出発した時にはまだ明るかった日も落ちかけていた。
暗闇での行軍は、危険も多くなる。
なのでローリエは、最初にアクセル達と取り決めた通り、休息を取ることにした。
場所は、森林地帯の中にある広場だ。
「それじゃあ、道中話していたように、野営用のテントは私が用意するわね」
「ああ。専用の魔法があるっていってたやつか」
「そう。だから、貴方達は料理の準備をお願い」
こういった休息では、宿泊場所は勿論、料理も重要だ。
話の中で、アクセルやデイジーは料理が得意だという事だったので、任せることにしていた。
「あいよ」
「オレたちに任せとけ、姫さんー」
「頼むわね」
役割分担もしたということで、ローリエは体の向きを反転。
先ほど見つけた、テントを張る場所に丁度いい広間へ向かう。
「こうしてキャンプするのは久しぶりだなあ」
「バーゼがいなかった頃は、よくやっていたっけなあ」
などという会話と、ガチャガチャという準備の音を背後に、ローリエは少し離れた場所奥へ移動する。
丁度よく木々が生えておらず、また地面の硬さもしっかりある場所だ。
下手に地面が柔らかいと、テントが沈むし、木々が多すぎても設置の邪魔になる。
……うん。見立て通りこの辺りが最適ね。
場所は決まった。
ならばあとは魔法を行使するだけ。
そう思ったローリエは、杖で地面を数回叩いてから、
「よいしょっ……と」
そのまま地面に突き刺した
行うのは、精霊界の大気に含まれる魔力を使っての、物の構築だ。
ローリエとしては得意魔法の部類に入る。
錬金術は物質を使うが、この魔法であれば自然の魔力だけで良い。
だからこそ、少人数での旅路では便利に使える。
……補給も期待できない訳だしね。
思いながら呪文を唱える。
「【簡易宿舎構築】」
杖から青色の光が迸る。
夕闇のオレンジ色を遮るように、光は肥大化していき、周辺を覆った。
やがて出来上がるのは――
「完成っと」
複数のドーム型テントを組み合わせたような、大きな宿泊施設だ。
天上周囲には天幕が付いており、雨も防げる。
入り口をめくって中を見れば、大人が十人入っても、ゆったりとスペースを保って眠れる広さがある。
床には柔らかな青色のシートが敷かれている他、中には仕切りがあるので、簡易的な部屋分けも出来る。
野営の時には便利な魔法だ。
……中の具合も、問題ないわね
あちこちを触って確かめたが、普通に使っている限り宿舎が壊れたりすることもないだろう。
「ふう、これでよし」
自然の魔力を使っての魔法だったので、自分自身の消耗もあまりない。
あとは何か簡単な食べ物でも食べて体を温めて眠れれば、それで回復するだろう。
……城よりは流石に食べ物も、寝るところもアレだから。万全とはいかないかもだけど。
けれど、試練なのだから仕方ない。
そう思いながらローリエは、アクセル達の元へ戻ろうと、
「そっちはどうかしら。アクセル――」
振り返いた。
すると、そこには。
「そっちの鍋の加減を見ておいてくれ、デイジー」
「おう、分かった。こっちの肉の下処理は終えてるから、スープの方やっておくぜ」
簡易的に組まれた木のテーブル、その上にどっさりと積まれた食材。そして魔法の大型コンロと、調理台。
つまりは、ひとつのキッチンが出来上がっていた。
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