9話 普段通りに
「……え……?」
構築魔法か何かでも使ったのだろうか。
そんな思いと共に、その光景を見て目をぱちくりさせていると、アクセルたちが、こちらに気付いたようで、
「お、ローリエ。テントの設営は終わったのか」
そんな声を掛けてきた。
「え、ええ。向こうに」
ローリエが手で指し示すと、アクセルとデイジーは目を見開いた。
「おおー、デカいな。いい感じに休めそうだ」
「手足も遠慮なく伸ばせそうだぜー。助かるぜ、姫さん」
視線をやったアクセル達は嬉しそうにそう言った。
むしろ、その言葉はこっちが言いたいものだけれども。
「あ、ありがとう。そ、それにしても、凄い物資量ね……。これまさか、1日に使っていい量なのかしら」
「え? いや、これを全部使っても、半日分も、使ってないな」
予想していなかった回答がきた。
「これで? ……ちょっと待って、一体、何日分、持ってきているの?」
アクセルは、ええと、と輸送袋に触れながら、
「一応、長めに且つ多めに見て、四人分を二か月分の物資かな」
「四人分を二か月!?」
多めに持ってきているとは言っていた。
こちらが準備を整える間に、アクセル達の荷物詰めを手伝っていたパロムが自分の前に現れた時、やけに驚いていた表情を取っていたり、『本当にあれだけの量が……』と呟いていたけれども。
……これが理由だったのね……。
想像以上に詰め込まれていたという訳か。
「衣食住で困らないように、入れられるだけ持っていってくれってパロムにも言われていたしな。あとは、最大四人まで行けるって話だったから、念のため一人分多めに持ってきている。それでまあ、結局三人パーティーだし、今はとりあえず、一部分だけ出しただけって感じだ」
喋りながら、アクセルは調理を進めていく。
「そ、そうなの……」
「ちなみに、夕食は、こんなもんだけど。もっと多めに食べるか?」
デイジーが出来上がった料理を並べていくが、既にテーブルにはぎっしりと料理が並べられている。
スープに、パンに、肉料理。飲み物まで付いている。
普通に都市の料理屋に来ているのかと思わんばかりの、光景だ。
「い、いえ。これで、充分過ぎる位だわ」
「了解だ。じゃあ、今回はこの辺で打ち止めだな。あと、風呂に入りたくなったら言ってくれ。温泉も入れて持ってきてるから」
「温泉って、そんなものも!?」
ローリエの驚きに、アクセルは、いとも普通に頷いた。
「うん、ここの温泉は身体回復に有用だって言っていただろう? だから、便利だと思ってな。着替えとタオルもあるぞ。パロムさんが一式放り込んでくれたから」
「ちなみに湯舟は、オレが錬金術で作るから、好みの形、材質があったら言ってくれなー。この辺の物質を使って、どうにかするから」
デイジーが笑みと共に言ってくる。
「そ、そうなの……わ、分かったわ」
彼らの台詞に、正直ローリエは圧倒されていた。
……いや、もちろん、強さは分かっていたけれども……。
あのウロボロスを退治した時点で、護衛としての強さは保証されているし。
機動力という意味でも、彼らには期待していた。
けれど反面、期間中、道中の生活面においては楽ではない、と思っていた。
野宿か、少し厳しめの野営レベルの休息を考えていたのだ。
自分の力で、結界とテントくらいは張れるけれど、物資は限られているものだし。
それでも、彼らの強さというものを得られるのであれば、旅中の生活など引き換えにしていいものだと本気で思っていた。
……だからかなり、覚悟していたのだけれども……
蓋を開いてみたら、全てが予想外だ。
食事はおろか衣服も、まさか温泉まで入れるとは。
……まるで、大勢の補給部隊と一緒に活動しているような頼もしさがあるわね……。
まるで、ハイキングに来ているような。暖かな感覚もある。
……これまでで一番、安定していて、安心できる旅路になりそう、ね……。
今までの厳しさを予期させる道中とは全く異なる雰囲気に、ローリエは包まれていくのだった。
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