23話 精霊の餞別
「助かるよ。とはいえ、ローリエたちには結構、無茶をやって貰うかもしれないが、本当に大丈夫か?」
俺は先ほど話した作戦について思い返しながら、彼女たちに改めて尋ねた。しかし、ローリエは冷静な表情で言葉を返してくる。
「無茶って、そのもう一個の頭が見つかったら、そこにもしものためのセーフティネットとして、精霊道を構築して維持すること? それくらいなら別に問題ないわよ?」
そう。作戦会議の話の中で、念のため、ウロボロスの体以外の道もあった方が良いだろう、ということになったのだ。
精霊都市インボルグに協力を求められるのであれば、龍の体の近くに道を作って貰おう、と。
それをあっさり受け入れてくれたけれど、
「魔力の消費とか、結構するから。頼んだ手前で言うのもなんだけど無茶はしなくて大丈夫だぞ?」
そういうと、何を言ってるのよ、とローリエが目を細めた。
「貴方こそ無茶なことをしようとしているのよ? 古代種の龍の体を走って渡るだなんて。……本当にやれるの?」
「やってきたし、今回もやるしかないだろう?」
それがウロボロスの第一頭を倒すのに、最も確実なのだから。
「……そう、分かったわ。なら全力をもって、無理やりにでも精霊道を維持させてもらうわ。少しでもウロボロスを倒しやすくなるはずよ」
「ああ、ありがとう」
「そして――あなたの無茶に私も応えたいから、もう一個やれることを告げるわ」
ローリエは人差し指を突き出して見せながら言ってくる。
すでに十分に協力してもらっているのだが、
「更に、もう一個援護してくれるのか」
「ええ。狭間の世界でウロボロスの頭を見つけたら、鈴を五回鳴らして。そこから最も近い場所に、こっちの世界への出口を作るから、そこに叩き込んで頂戴」
「……叩き込むって、そんなことしたら、ウロボロスの頭が本格的に精霊界に来るぞ?」
そうなると、当然、戦闘は精霊界で行われることになる。
出来るだけ周辺に攻撃が及ばないように戦うようにするが、余波は避けられないだろう。
しかも、どこか広い戦闘が出来る場所があるならともかく、この辺りには街と、小さな森林地帯しかないし。
被害が出てしまうのではないか、そう思っての問いかけだったが、
「良いのよ。だって、泉の魔力を食ってるんだもの。どこかにやつ専用の出入り口がもうあるのだから、一緒だしね。それに――この地は、戦える都市として作られているからね」
ローリエは自信ありげな笑みと共にそう返してきた。
「戦える都市?」
「ええ。精霊都市の管理者たる自分には、代々受け継がれてきた面白い巻物があるの。そこに書かれた魔法の名前は『戦場構築』っていうんだけどね」
ローリエは、言葉と共に座る椅子の手すりに着いたスリットから、一本の巻物を抜き取った。
「精霊道を作るときと同じ要領で、この都市のどこにでも戦場を作ることが出来るの。精霊界に敵が降って来ても存分に戦える場所に切り替えられるように、って代々言われてきたものなのよね。どこに出てこようが、即座に戦場を作れるわ」
「……街の近くに戦場を作るって、結構血の気の多い魔法だな」
「ええ。でも、戦場を作れば、街を守ることもできるもの。周辺に被害を及ぼさないようにする、しっかりとしたもの作り上げられるから。狭間の世界の不安定な場所で戦うよりもずっと勝算が上がるはずだから。やらせて頂戴。……街の皆も守りたいし、精霊道も守りたいのに、貴方の勝利を指をくわえて待ち望むだけなんて、いけないもの」
ローリエは力強く俺に告げてきた。
その目からは、凄まじい熱を感じた。ウロボロスに対して、何らかの感情をひっかく部分でもあったんだろうか。
ただまあ、俺としても、強風の吹きすさぶ場所よりも、普通の空間で戦った方がより素早く、より効率的に倒すことが出来るというのは確かだし、
「ありがとう。それじゃあお言葉に甘えることにするよ」
だから、今回はその戦場とやらは使わせてもらおう。
そう決めて言うと、ローリエは微笑と共に頷いた。
「全然かまわないわ。こっちが抱えている問題を、解決してくれるといっている人に何もできない方がつらいからね」
なんというか、本当に元気で筋の通ったお姫様だな、と思いながら俺も笑みで頷き返す。
「ああ。それじゃあ、また明日にな」
「ええ。無事に作戦が進行することを祈りながら、待っているわ」




