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17話 帰路

 ローリエへの謁見、そして対談を粗方終えた後。


「あ、そうそう。人間界に戻るのであれば、一度、こっちに取り残された研究所の子たちに会って、話を聞いていくと良いわよ」


 との提案があり、俺はインボルグにいるという、魔術研究所の職員を紹介してもらい、情報交換を行った。


 大体はローリエとパルムに聞いた情報であった。けれども、それ以外に、精霊界に残っても元気にやっているという彼ら自身の情報が手に入ったのは、良い事だと思った。

 

  また、一旦、人間界に戻るという事で、研究所の職員達に輸送袋に入って、人間界に戻るか、と問うてみたが、


『まだやることがあるので。帰れません。交換した情報が全てですので。私たちが帰ってまで説明するような事は、何も得ていませんから』

『もっとこちらの役に立って、精霊道が安定するようになってから、帰ろうと思いますわ』


 とのことだった。

 

 ……彼らの目からは強い意志も感じられたし、本気で言っていることも分かったからな。

 

 そうとなれば俺に出来る事はカトレアたちに、『無事である』という事を告げるとか、それくらいだ。

 

 そんな感じで、持って帰る情報と、方針を決めた後、パルムらが精霊道を再び開くという時間になるまで精霊都市を軽く見てから、人間界の精霊都市に戻ることにした。

 

 そして、その再び開く時間というのは思った以上に早く来て、


「それじゃあ、これで一旦、さよならだな」

「はい。今日はありがとうございました」


 日が傾き始めた頃合いで、俺は精霊都市インボルグの中央にやってきていた。

 

「といっても、報告してから、必要なものとかあれば、すぐに持ってこようとは思うよ」

「それについても、ありがとうございます。こうして精霊道を開けて、魔力を循環させるだけでなく、人や物が来てくれるのは、本当助かります。ただ、負担のかからない程度で十分ですので」

「はは。まあ、運び屋の仕事らしいし、俺としては、殆ど負担はないから、そこは大丈夫だよ」


 輸送袋に物を詰め込めば、あとは両側の精霊道を通るだけだしな。


「あ、そうそう。今回の精霊道はこの中央の広場から開かれるらしいけど、向こうのどこに出るんだ?」


 インボルグに入ってきた時と、確実に場所が違うし。だから聞いたら、パルムは、そうですね、と頬を手に当てて、


「一応、魔獣に魔力を食べられないために、人間界で精霊道を開く場所はばらけさせているんですが……基本的に精霊都市の近くには出ると思います。精霊都市の何らかの建物内に出てしまう可能性や、魔獣の危険性を避けるために、都市内に出すことは避けているので」

「なるほどな。じゃあまあ、とりあえず渡り切れば精霊都市の近くに出れる、って感じか」

「はい。一気に走りわたって頂ければと。……こちらから精霊道を渡る際にも強風が吹きすさんでいて、渡り切れないと、こっちに戻ってきてしまうので」

「了解だ」


 こっちから人間界に行くのにしても、来る時とあまり感覚は変わらないらしい。

 ならば、気楽に進めばいいか、と思っていると、


「あ、それと、ですね。戻られる前に、これをお持ちください」


 と、パルムが服のポケットに手を入れて何かを取り出した。

 そして俺の目の前に出されたのは、


「これは……鈴か?」


 赤色をした掌に包める程度の大きさの呼び鈴だった。


「はい。精霊の呼び鈴という、本来は精霊道を出す座標を指定するモノです。もしも精霊道が必要になった場合は、この鈴を鳴らしてください。そのタイミングで、こちらから精霊道を開きますから」


 パルムは言いながら鈴を手渡してきた。

 持って見ると、見た目以上にそこそこの重みがある。魔力も感じられるし、魔道具の一種なのだろうが、


「これを合図に精霊道を開くって……そもそも開く時間を決めているんじゃないのか?」


 気になったのがそこだ。

 聞いていた話では、開くは朝昼夕の三度だったはずなのに。勝手にタイミングを変えていいんだろうか、と思って聞いてみると、


「ああ、開く最低回数自体は、決めていますが。時間そのものは融通が効くんです。あまり無計画に開けると、ローリエ様の負担も大きくなるので、定期的にやることにしていますが」

「なるほど。……じゃあ、使うタイミングには気をつけなきゃな」

「あ、いえ。ローリエ様からは『遠慮するんじゃないわよ。どんどんやりなさい! むしろ鳴らさなかったら、後で理由聞くから!』という言伝を貰っているので。まあ、必要な時があれば、程々に使って頂ければと」


 パルムの口から放たれたローリエのセリフに俺は思わず苦笑する。


「喋ってる姿が想像できるくらい元気な姫様だな。ともあれ了解だ。で、使い方はどうするんだ?」

「三回、鈴を手に握った状態で振ってください。そうすれば、アクセルさんの位置が分かるので。そこを狙って、開けるようにします。といっても、長時間の維持は難しいですし、不安定なのである程度ブレが出てきてしまうのですが……」


 申し訳なさそうにパルムは言ってくる。だが、


「いや、こっちのタイミングで精霊道を開いてくれるっていうのは、かなり便利だよ。位置については俺が合わせればいいだけだし、ありがとうよパルム。ローリエにも、後で直々にお礼を言わせて貰うよ」


 そういうと、パルムはほっとしたような笑みを浮かべた。


「お願いします。ローリエ様はフランクな性格をしておりますが、立場と状況故に、あまり人と喋ることができていなかったですし」

「あれ? そうだったのか?」

「ええ。この街の住民たちもなかなかあの部屋に赴くことができませんので。……それにアクセルさんと話していると、楽しそうだったですから」

「そうか? なら、良かったけどさ」


 色々と大変な状況の中、少しでも彼女の苦労を紛らわせられたのであれば幸いなことだし。

「まあ、出来るだけ早く問題は解決したいところだな」

「そうですね。……あ、ではそろそろ、道を開けますね?」 

「ああ、頼んだ」


 パルムは俺の返事を聞くと、


「開門座標確定。【構築:精霊道】」


 手を掲げ、唱えた。

 すると、その手の先の空間に、いつぞや見た光の長方形が現れた。


「これで、帰り道は良し、ですね」

「ああ。ありがとう。それじゃあ、また来るよパルム」

「親友に同じく。泉を治すためにも、色々と用意できるものはしてくるぜ」

「はい。お待ちしておりますアクセルさん。デイジーさん」


 そして、俺は人の世界に戻っていく。

 次元の異なる世界で得た情報を運ぶために。



 去っていったアクセルの後姿を見つめて。

 そして数秒もせずに精霊道が掻き消えて、アクセルが戻ってこないのを見て、


「ほ、本当に、この道を走り切れるなんて……」


 パルムはぽつりとつぶやいた。

 まず、この不安定で、危険な精霊道を渡れるという現実を見たことに驚きを得た。そこから更に、パルムは、心の中の思いを口にする。


「アクセルさんの脚力は、能力は本物なんですね。……ならば、もしかしたら……私の願いも叶うかもしれません……」


 そんな希望を抱くような声を、零していく。

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