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16話 再度のアクション

パルムの先導により俺たちがやってきたのは、精霊都市の中心部にある白色を基調とした建物だった。


 壁にはいくつかの紋章が刻まれており、魔力的な防護が掛けられているのが一目でわかる。 そんな建物の入り口であろう大きな扉の前に俺はいた。


 両脇には、警護だろうか、軽装鎧を着た精霊の女性たちが立っているが、


「どうも、お疲れ様ですパルム様」

「そちらが、お客人である勇者様パーティーですね? どうぞ中へ」


 パルムとデイジー、そして俺の顔を見るなり、すんなりと中へと通してくれた。 

 

「俺らみたいな外部から来た人間が、いきなり精霊姫っていうお姫様と会えるものなのかと思ったけど、パルムの信頼が凄いんだな」

「いえいえ、それ程でもありませんよ。確かにギルドマスターという点で信頼してもらっているでしょうが……それ以上に精霊姫様はフランクな方なので。立場と状況が許せば色々と話したいと常々仰られてますから」

「フランクなお姫様、か」


 俺の知っている姫と名の付く女性は、結構豪傑なタイプが多いのだけれども。どこの姫も特徴があるものなのかもしれない。

 

 そんなことを思いながら宮殿を歩くうちに、


「さ、この奥です」

 

 俺は宮殿の最奥にある一室へと通された。


 中に入るとその部屋は水色や翡翠色のクリスタルで装飾されており、そして奥には、これまたクリスタルで飾り付けられた一つの玉座らしき椅子が置かれていた。

 

 そして、そこに座っていたのは、


「この方が、精霊都市を治める《精霊姫》ローリエさまです」


 透き通るような色合いの煌びやかなドレスに身を包んだ、精霊の少女だった。

 彼女は、玉座の前まで歩み寄った俺を力強い瞳で見ると、


「初めまして。パルムから色々と連絡を貰っているわ。貴方たちが、この街に来てくれたっていう運び屋アクセル。そして錬金の勇者デイジーなのね」


 ハキハキとした声で言ってきた。


「ああ。こちらこそ初めましてだ、ローリエ姫様。俺がアクセル。こっちの肩にいるのがデイジーだ」


 何とも意志の強そうなお姫様だ、と思いながら、返事を返すと、ローリエは首を横に振った。


「そこはローリエでいいわよ。堅苦しいの、好きじゃないの」

「……そうか? じゃあ、ローリエと呼ばせてもらうよ」

「ええ、それの方がしっくりくるわ。……で、ここに来たのは、精霊の泉に用があっての事だったんだって?」

「ああ、だが魔獣のせいで汚されてるらしくてな。その用はまだ果たせそうにないんだ」


 いうと、ローリエも同意するように頷いた。


「そうなのよ。全く、失礼しちゃうわよね。私はしっかり精霊都市の管理をして、魔力の循環を保ちながら、精霊道を開いたり、やりくりしているのに。どこのどいつかしらないけど、精霊道や泉の魔力を食いまくるだなんて。もう、とっちめてやりたいわ」


 ローリエは鼻息荒く、感情豊かに起こっていた。

 

 ……ああ、なんだろうな。

 

 これは、今まであったことがないタイプのお姫様かもしれない。割とおてんば気質がありそうだ。

 ただ、それでいて、話しやすくて有難い事だ、と思いながら俺は言葉を返す。 


「それで、ローリエ。俺も魔獣についてはとっちめた方が良いとは思うんだが、その際になんかパルムの方から精霊道を開くこと自体に問題がある、って聞かされたんだけど。ちょっとその辺りの抱えている問題とか事情とか、教えてもらえるか?」


 ここに来た目的は、パルムよりも説明が出来る人がいる、と言われたからだ。

 その目的を果たすために質問すると、ああ、そうね、とローリエは首を縦に振って、


「精霊道の問題というのは、安定しないとか、開けば開くほど、私や精霊都市の魔力が削られていくとか、色々あるんだけどね? まず大前提の知識として話しておくんだけど、精霊道はね。絶対に、一日に数回は開けなければならないものなのよ」

「開かねばならない、っていうと、ノルマがあるってことか?」

「簡単に言ってしまえばそうね。精霊道は一日に数回開けないと、精霊界と人間界の魔力の循環が出来なくてね。そうなると人間界の精霊都市ともども、魔力が腐ったような状態になって、滅びに近づくの」


 魔力が腐るとは、俺としてはあまり聞いたことがないが、表現的に良くない事である事は分かった。そして俺とは異なりデイジーはそれを理解しているようで、

 

「魔力の腐敗か。そうなったら自然にダメージが行って、生み出される魔力が減ったりもするな」

「ええ。デイジーの言う通りね。あとはまあ、精霊都市に出ている温泉が、沸かなくなるとか、そういう事態も予想されるかしらね。あれは魔力循環による産物だから」


 実害の例としては凄く分かりやすい話がきた。

 

「それは、やばいな」

「ええ。やばいから、開けるしかないんだけど……開けば開くほど、魔力が食われているような感覚があるのよ。それに精霊道っていうのは、インボルグの住民たちから少しずつもらっている魔力と、私の魔力を組み合わせて作り上げてるから、無限に作れるわけじゃなくてね。完全に食われ損なのよ。……だから、精霊道を開く時間を短くしているのよ。魔力を食われすぎないようにね」


 ローリエの言葉に、俺はかつてカトレアから説明された言葉を思い出す。


「ああ、ってことは、やっぱり精霊道が開く時間ってのは短くないのか」


 昔はもっと楽に渡りきることができたとか言っていたし。


「もちろんよ。じゃないと色々な人が入ってこれないでしょ。……今は、危ないから、迷い込む人すら減らすためにも精霊道の開く時間を短くしていたのだけどね。……まさか人間界では魔獣が集まるような状況になっていたとはね」


 俺がパルムに話した人間界の事情は、ひと通り、ローリエにも伝わっているようではあるが。彼女も人間界の状況は、今の今まで分からなかったようだ。


「精霊道に本来あるはずの、結解がなくなってたらしいからな」

「それは、魔力を食われてることによる弊害ね。一応、開く個所をランダムにすることで、多少は被害が減ったのだけれども、それでも食われちゃってるから」


 どこに開いても、やられるのよねえ、とローリエは吐息する。


「ふむ……被害を与えてくる相手について、何かわかってることはあるのか」

「それがねえ、精霊道を開けるたびに、なんか何かに食いつかれているような感覚があるんだけど。どうにも正体はつかめなくてね。まったく、大変よ。――けほっ……!」


 喋っている途中で、ローリエは急に咳き込んだ。

 息が詰まった、とかではなく、若干苦しそうな咳だ。


「……大丈夫か?」


 ローリエはほんの一瞬だが、つらそうな表情をしていた。

 だが、ローリエはそんな辛さなんてなかったかのような、溌剌とした表情に戻り、


「このくらい平気よアクセル! 魔獣から生み出される質の悪い魔力にあたってるだけだもの! ちょっとお腹と胸が痛い程度よ」

「被害は魔力の減衰だけじゃなかったのか」

「まあね。精霊都市の管理をしているとね、都市への攻撃がフィードバックされてくるのよ。質の悪い魔力を流されれば、それはすなわち私に流れ込んでくるって感じでね」


 ローリエは胸をさすりながら、ふう、と息を吐く。

 それだけで、ローリエは表情を、元通りに戻した。


「これでよし。……街を統治する精霊姫の役割として、街の管理をするのは絶対だし。仕方ない部分もあるんだけどね」

「思った以上に、ローリエも大変な状況に置かれてるな」

「そうね。でも管理するってのも悪い事ばかりじゃなくて、精霊都市を操る権能を得ているという事でもあるからね。その力の代償と思えば大したことないわよ」


 ローリエは、自分の細い腕を曲げて、二の腕辺りをぽんぽんと叩きながら言う。


「権能って、特有のスキルか何かが使えるのか」

「ええ。精霊都市インボルグでは、住人から少しずつ魔力を貰っているのはさっきも言ったでしょ? その集めた魔力を私が代表して扱うことができるのよ。例えば精霊都市にある建物を動かすのに使ったり。魔力をこねて、新たな大地を作ったり。空中に道を作ったりとか、色々ね。精霊道の道も、そうやって作られているし――それ以外にも例えば、こんなふうな事も出来るわ。【構築:コンストラクト・リトルステージ】」


 彼女は椅子のひじ掛けに取り付けていた、杖を握って、唱えた。

 

 すると、俺たちの目の前に、白い光で出来た薄い円形の台が完成した。

 光は、硬質化しており、宙に浮かんでいる一枚板のようになっていた。

 

「この薄さでも、人が数人乗れるくらいの耐久力はあるのよ」

「おお、凄いな」

「精霊ってのは魔力の物質化とか、硬質化が種族単位で得意っていうのもあるんだけどね」

「道とか、台を作るレベルでの魔力物質化を軽々やるなんてな。オレでも色々とスキルを使わなきゃ難しいのによくやるぜ、お姫さん」


 デイジーも感嘆している。

 錬金でものを作れるデイジーがそこまで言うのだから、これは相当のレベルの事なのだろう。

 

 ……俺も魔力の物質化は、竜騎士時代の技でいくつかあったけど、こんな風に手軽にやれるものじゃなかったしな。


 そう思ってる間に、ローリエは杖を下していた。

 すると、光の台も掻き消えていく。


「ふう、デモンストレーションおしまい。……それで、貴方達はこれからどうするの? こっちに来たものの、精霊の泉は使えなかったんでしょ?」


 確かに、当初の予定である武器の修繕は、出来なさそうだけれども。


「そうだなあ……。とりあえず、情報を貰ったし。一度人間界に戻って、向こうの人らと共有しようと思うよ」


 向こうに行けたら色々と話を持ち帰ってくれ、とカトレアや牡丹から頼まれていたし。

 こちらに来た理由のもう一つは達成できそうだ。

 

 だから一旦戻る、そうローリエに伝えると、


「それは有難いわね。こっちに置かれている状況を伝えるすべがなかったから。あなたに運んでもらえるなら願ったり叶ったりよ」

「ああ。……といっても、帰るときはどうすればいいんだ?」

「そうね。もう少ししたら、そこのパルムが精霊道を開くと思うわ。そうでしょ、パルム」


 言われ、パルムは懐から懐中時計を取り出して、ハッとしたような顔になった。


「あ、はい。そうですね。もうそんな時間でした。小一時間もしないうちに、開く時間になるかと」

「うん。アクセルはそのタイミングで戻ると良いわ」

「ああ、了解だが……精霊道の管理をしているのはローリエなのに、パルムが開くんだな?」

 ふと気になったことを言うと、ローリエが苦笑した。

 

「あー、そこ難しい所なんだけどね。私があまり外に出ないから、基本的にパルムが良さそうな精霊道の座標を探して、指定してそこに私が精霊道を作ってるのよ。あと、魔力を流し込んでもらって、代理で開くこともあるわね」

「へー、そんな仕組みでやってるのか」

「はい。なので、私に付いて頂ければ精霊道については問題ないかと」

「了解だ。じゃあ、次に開くタイミングで帰らせてもらうかな」


 そんな風に俺たちは今後の方針を決めた。

 その後で、ローリエは再び口を開いた。


「さ、そういう訳で今後の予定も決まったことだけど……まだ時間はあるし。私については話をしたから、今度は貴方達の話をお願いしたいわ」

「俺達の話?」

「ええ、聞かせてほしいのよ。私はこの精霊都市から出れてないし、外部からくる情報も今は絞られちゃってるからね。パルムから人間界で何が起きてるか聞いてはいるけど、そういう事故や事件や問題だけじゃなくて、今の流行とか、色々教えて頂戴、アクセル。……ずっと問題調査ばかりだと、息が詰まっちゃいそうだもの」

「はは、了解だローリエ」


 そうして精霊都市の宮殿で、俺達は精霊の姫とのつかの間の会話を楽しんでいくのだった。

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