15話 経路の中
パルムと話しながら精霊都市を歩くこと十数分。
精霊都市の住宅街から離れた場所に精霊の泉と呼ばれる場所はあった。
周囲を木々に囲まれた、円形の泉だ。
ここに来るまでの間、精霊の泉の水は、元々は爽やかな水色をしていて、周囲の木々の緑いろも相まって、とても奇麗な場所なのだとパルムから聞かされた。
神も気に入っている場所で、実際に場そのものが、清らかな魔力を持っている。
だから、魔力を込めた武器を精練し、武器に加護を与えるという使われ方をしていたのだ、と。
だが、その説明とは裏腹に、
「泉の水が、黒く濁っている……?」
俺が辿り着いたその『精霊の泉』の水は、どす黒く濁っていたのだ。しかも、
「……親友。なんか泉から、質の悪い魔力を感じるぜ」
「そうか。……これが、できない理由ってやつか?」
聞くとパルムは、残念そうに頷いた。
「はい。精霊道が不安定になると同時に、泉が汚れはじめまして。この通り、精練作業をすれば逆に武器が劣化するような場所になってしまいました」
「原因は分かってるのか?」
「一応、かつてもこれに近い、精霊道が不安定になり、泉が汚れる事態が発生したことがありまして。……その時は魔獣によって、泉の魔力が食われていた、という事でした」
魔獣は魔力を餌にする。
そのために、動物や人間を食らうこともあるが、この精霊の泉という場所も例外ではないようだ。
「となると、この近くに魔獣がいたのか?」
周りを見る限りでは、魔獣がいるような雰囲気は全くない。
だから聞いたのだが、
「いえ、それが探しても発見することができませんでした。魔獣を感知するスキルを持つ《狩人》系職業者に捜索してもらっても、全く成果もなく」
「なるほど……確かに今も魔獣の気配はしないな。デイジーはどうだ?」
「オレの方も全然、だな。魔術的な痕跡も残ってないし」
デイジーは、カーバンクルという狙われやすい種族のため、周辺を警戒する能力が高い。それこそ、俺の単純な気配を察知する力よりも広範囲にわたって、魔獣の存在なども分かる。
だが、そんなデイジーでも見つけることができないという事は、
「何らかのカバーをしてるか。もう逃げたか、か。その辺りもまだわかってないんだな?」
俺の言葉にパルムは眉を下げた、残念そうな表情で肯定した。
「はい。精霊道の不安定化など異常事態がいくつも重なっていて、色々な調査に追われてしまっていて……。発生時期が同時期である事は分かっていて、もしかして全ては同じものが原因になっているのではないか、という推測は立っていますが……すみません。不確定なことが多くて」
「いや、謝る必要はないさ。問題が起きているときは仕方がないんだから」
問題というのは、見つかったからといってすぐに解決できるものばかりではないし。調査を進めているのであれば、やることをやっているのだから、何も謝罪することはないだろう。
ただ、一つ確認しておきたいことがあり、
「……この問題を人間界の精霊都市の人たちは知らないみたいなんだけど。報告は出来ていないんだよな?」
向こうの情報がこちらに来ていないのだし。こちらの情報も向こうに送れていないだろう。確認のために尋ねると、再びパルムは肯定した。
「はい。精霊道が不安定で、情報を送るためのラインも確保できていないのです。それに精霊道を開くこと自体にも問題がありますから」
「また問題か」
「はい、本当に問題が多くてすみません」
「いやいや、良いって。……その精霊道の問題はどんなものなんだ?」
聞くとパルムは数秒、目を伏せて何かを考えるように動かした後、
「そうですね……いや、ここからは、私の口からではなく、この街の代表を務める方に話を聞いた方が確実ですね。その方が精霊道の管理もしているので」
「代表? 精霊ギルドのマスターのパルムが街の代表じゃないんだな」
「ええ、私はあくまでギルドの代表であり、この街を治めているわけではありませんから。……ですので、色々とたらい回ししてしまうようで何ですが、その方のもとに案内させてもらっても宜しいでしょうか?」
そうだな。泉が現状使えないという事がわかったのであれば、いつまでもここに留まっていても仕方がない。
出来ることからやっていった方が良いだろう。
「別に構わないぞ」
また、俺だけではなく、デイジーも同感のようで、
「オレも異論はないぜ。専門的な話は専門の人に聞いた方がわかりやすいしな」
「ありがとうございます。ではお二人を、この深奥の精霊都市インボルクを治める《精霊姫》がおられる宮殿へ、お連れ致します」




