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最強職《竜騎士》から初級職《運び屋》になったのに、なぜか勇者達から頼られてます  作者: あまうい白一
第5章

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11話 光の道


 精霊道を前にして、俺は形を見ながらぽつりと言葉をこぼした。


「道、というよりは、扉みたいな形状だな」


 長方形という形から連想されているだけだろうが、なんとなく直感的にそう思っていると、

「うむ。細かい分類をすると、『精霊門』とかいう名前がついておるからな。その認識は正しいぞ。話がややこしくなるから、精霊道で統一しとるだけじゃしな」

「そうだったのか。……まあ、確かに話がこんがらがりそうだしな」

「そういうことじゃ。――で、じゃ。精霊道が出現したばかりで申し訳ないが、早速説明に入ろうと思うんじゃがな」

「ああ、以前言っていた、難しい問題を抱えてるってやつか?」


 聞くと、カトレアはうむ、と頷いた。


「これは見せねば分からぬものじゃと思ってな。まず、今から見せるのじゃ。精霊界への行き方も合わせてな。――速力が高めの《シーフ》系職業者はこっちに来てくれ」


 カトレアはそう言って、職員らを見て手招きする。

 そして呼ばれたのは、三人の軽装をした、速力重視で構成されていると思われる職業者たちだ。


「所長。今回もやるのですね」

「うむ。悪いが、いつも通り、行ってくれ」


 カトレアに言われた職業者三人はお互いに顔を見合わせて、


「了解です。……皆、合わせていくぞ」


 言葉と共に精霊道の前に並んで立った。

 そして地面に膝をつき、ダッシュの姿勢を作り、


「セット……ゴー!」

 

 掛け声とともに、三人が一斉に走りだし、光の渦の中に突っ込んだ。

 瞬間、

 

 ――グアッ

 

 と光の渦が拡大した。

 そして、俺達の目の前に光の道が現れる。


「これは……」

「この世界と精霊界をつなぐ狭間じゃ。ここをつないでいるのが、あの精霊道じゃよ。こちら側から侵入したことで、見えるようになったんじゃ」


 横にいるカトレアが指示したのは、暗闇の中に浮かび上がる青い光の道だ。

 

 その道の彼方には岸が見えた。


 ……向こうが精霊界か?


 と、思った瞬間、強烈な向かい風が来た。

 三人は、その中を走ろうとしていく。

 

 だが、数秒、数歩歩いただけで、


 「うおおおおああ?!」


 道が崩れ落ちた。

 そのまま、暗闇へと落下していくかと思われた。

 瞬間。

 

 ――バッ


 と、目の前から光の道は掻き消えた。

 あれほど強かった向かい風もなかったかのように、ただの平原が広がっていた。

 そして、その平原に、

 

「……うう……」


 走っていた三人は転がっていた。

 

 それを見て、カトレアは小さく吐息する。


「やはり駄目じゃなあ……」

「カトレア。これが、問題、なのか?」


 聞くと、カトレアはそうじゃよ、と声を返してくる。


「午前に話した、『問題』……精霊道の不安定化、というやつじゃな。向こう岸まで渡れば精霊界なのじゃが、短時間で消えてしまうから、渡り切る前に消えてしまうんじゃよ。……これまで、何度かチャレンジして、最近は大体こんな感じでな」

「話を聞くに、昔からこうじゃなかったんだな」


 最近は、というのを強調しているし。


「その通り。半年前までは普通に徒歩で行けたくらい余裕があったんじゃ。あんな向かい風もなかったしの。じゃから、今日こそは安定するかと思ったんじゃが、やっぱり駄目じゃね……」

「原因は分かってるのか?」

「あー、それがな。数か月前に、向こうに駐在している職員からの緊急念文で、『精霊道の長時間維持が出来ず。原因究明中~』という二文が来たのみでな。それ以上の念文ですら、通せない程、維持が難しい様でなあ。……こちらの調査では、消えるまで10秒前後はあるんじゃが、精霊道は強風が吹き荒れてて、先ほどの《シーフ》の動きを見て貰えれば分かると思うが、走るだけでも大変なのじゃよ」

「不安定の精霊道を使って精霊界に行くためには、消える前に強風の中、走り切る必要がある、か」

「ああ。見た方がわかりやすいといったのは、強風の度合いや距離感も含めての話だったのじゃ」


 確かに、これは実際に見なければ把握が難しい事態だ。

 口頭説明だけで済ませようとしたなかったカトレアには感謝だな、と思っていると、

 

「まあ、とはいえな。わりと希望はあると思っていての」

「希望?」

「うむ。……お主の事じゃな。アクセル。お主の健脚と高速っぷりは、これまでしっかり見せてもらったからの。お主なら、行けるかも、とそう思ったのじゃよ」


 どうじゃろ、とカトレアは俺の目をじっと見ながらそう言ってくる。

 その視線に俺は、少し考えてから、

 

「やってみないと分からない部分はあるが、とりあえず走り切れそうな距離ではあったとは思うな」

「おお、そうか。それはよいな。……何せこちらとしても、精霊界に一度行って、渡しておきたいものがあっての。そのために、精霊道を渡れる人材を探していた所じゃからな」

「そうだったのか」

「うむ。なのでまあ、様々な観点から分析していたのじゃけどね。誰もいけなかったらまた何か方法を考えるしかないしの」


 カトレアはカトレアで、色々と頑張っていたようだ。

 

「ま、とりあえず、アクセルは明朝、チャレンジしてみる感じで良いか? 精霊道は、一度出たら丸一日、同じ場所に出現するのでな」

「おお、そうなのか。じゃあ、一度チャレンジさせて貰おうかな」


 元より精霊の泉に行きたいというのが自分の目的であるし。

 チャレンジさせて貰えるなら、したいところだ。

 そう思って伝えると、


「そうか」

 

 カトレアは、小さくうなづいた後で、


「あ、それとアクセル。後出しで申し訳ないが、その際は、可能であれば、運び屋アクセルに対して、荷物の輸送を頼むかもしれんのじゃ。向こうに行ける可能性を持つものとして。……それも、良いじゃろか?」

「ああ。それくらいなら別に問題ないよ。輸送袋に入れられるものなら、何か入れても重量も変わらないしな」


 そう答えると、カトレアはほっと息を吐いて、ほほえみを返してきた。


「うむ、では、明朝、朝焼け時によろしく頼むのじゃ」

「ああ、こちらこそよろしく頼むよ」

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