11話 光の道
精霊道を前にして、俺は形を見ながらぽつりと言葉をこぼした。
「道、というよりは、扉みたいな形状だな」
長方形という形から連想されているだけだろうが、なんとなく直感的にそう思っていると、
「うむ。細かい分類をすると、『精霊門』とかいう名前がついておるからな。その認識は正しいぞ。話がややこしくなるから、精霊道で統一しとるだけじゃしな」
「そうだったのか。……まあ、確かに話がこんがらがりそうだしな」
「そういうことじゃ。――で、じゃ。精霊道が出現したばかりで申し訳ないが、早速説明に入ろうと思うんじゃがな」
「ああ、以前言っていた、難しい問題を抱えてるってやつか?」
聞くと、カトレアはうむ、と頷いた。
「これは見せねば分からぬものじゃと思ってな。まず、今から見せるのじゃ。精霊界への行き方も合わせてな。――速力が高めの《シーフ》系職業者はこっちに来てくれ」
カトレアはそう言って、職員らを見て手招きする。
そして呼ばれたのは、三人の軽装をした、速力重視で構成されていると思われる職業者たちだ。
「所長。今回もやるのですね」
「うむ。悪いが、いつも通り、行ってくれ」
カトレアに言われた職業者三人はお互いに顔を見合わせて、
「了解です。……皆、合わせていくぞ」
言葉と共に精霊道の前に並んで立った。
そして地面に膝をつき、ダッシュの姿勢を作り、
「セット……ゴー!」
掛け声とともに、三人が一斉に走りだし、光の渦の中に突っ込んだ。
瞬間、
――グアッ
と光の渦が拡大した。
そして、俺達の目の前に光の道が現れる。
「これは……」
「この世界と精霊界をつなぐ狭間じゃ。ここをつないでいるのが、あの精霊道じゃよ。こちら側から侵入したことで、見えるようになったんじゃ」
横にいるカトレアが指示したのは、暗闇の中に浮かび上がる青い光の道だ。
その道の彼方には岸が見えた。
……向こうが精霊界か?
と、思った瞬間、強烈な向かい風が来た。
三人は、その中を走ろうとしていく。
だが、数秒、数歩歩いただけで、
「うおおおおああ?!」
道が崩れ落ちた。
そのまま、暗闇へと落下していくかと思われた。
瞬間。
――バッ
と、目の前から光の道は掻き消えた。
あれほど強かった向かい風もなかったかのように、ただの平原が広がっていた。
そして、その平原に、
「……うう……」
走っていた三人は転がっていた。
それを見て、カトレアは小さく吐息する。
「やはり駄目じゃなあ……」
「カトレア。これが、問題、なのか?」
聞くと、カトレアはそうじゃよ、と声を返してくる。
「午前に話した、『問題』……精霊道の不安定化、というやつじゃな。向こう岸まで渡れば精霊界なのじゃが、短時間で消えてしまうから、渡り切る前に消えてしまうんじゃよ。……これまで、何度かチャレンジして、最近は大体こんな感じでな」
「話を聞くに、昔からこうじゃなかったんだな」
最近は、というのを強調しているし。
「その通り。半年前までは普通に徒歩で行けたくらい余裕があったんじゃ。あんな向かい風もなかったしの。じゃから、今日こそは安定するかと思ったんじゃが、やっぱり駄目じゃね……」
「原因は分かってるのか?」
「あー、それがな。数か月前に、向こうに駐在している職員からの緊急念文で、『精霊道の長時間維持が出来ず。原因究明中~』という二文が来たのみでな。それ以上の念文ですら、通せない程、維持が難しい様でなあ。……こちらの調査では、消えるまで10秒前後はあるんじゃが、精霊道は強風が吹き荒れてて、先ほどの《シーフ》の動きを見て貰えれば分かると思うが、走るだけでも大変なのじゃよ」
「不安定の精霊道を使って精霊界に行くためには、消える前に強風の中、走り切る必要がある、か」
「ああ。見た方がわかりやすいといったのは、強風の度合いや距離感も含めての話だったのじゃ」
確かに、これは実際に見なければ把握が難しい事態だ。
口頭説明だけで済ませようとしたなかったカトレアには感謝だな、と思っていると、
「まあ、とはいえな。わりと希望はあると思っていての」
「希望?」
「うむ。……お主の事じゃな。アクセル。お主の健脚と高速っぷりは、これまでしっかり見せてもらったからの。お主なら、行けるかも、とそう思ったのじゃよ」
どうじゃろ、とカトレアは俺の目をじっと見ながらそう言ってくる。
その視線に俺は、少し考えてから、
「やってみないと分からない部分はあるが、とりあえず走り切れそうな距離ではあったとは思うな」
「おお、そうか。それはよいな。……何せこちらとしても、精霊界に一度行って、渡しておきたいものがあっての。そのために、精霊道を渡れる人材を探していた所じゃからな」
「そうだったのか」
「うむ。なのでまあ、様々な観点から分析していたのじゃけどね。誰もいけなかったらまた何か方法を考えるしかないしの」
カトレアはカトレアで、色々と頑張っていたようだ。
「ま、とりあえず、アクセルは明朝、チャレンジしてみる感じで良いか? 精霊道は、一度出たら丸一日、同じ場所に出現するのでな」
「おお、そうなのか。じゃあ、一度チャレンジさせて貰おうかな」
元より精霊の泉に行きたいというのが自分の目的であるし。
チャレンジさせて貰えるなら、したいところだ。
そう思って伝えると、
「そうか」
カトレアは、小さくうなづいた後で、
「あ、それとアクセル。後出しで申し訳ないが、その際は、可能であれば、運び屋アクセルに対して、荷物の輸送を頼むかもしれんのじゃ。向こうに行ける可能性を持つものとして。……それも、良いじゃろか?」
「ああ。それくらいなら別に問題ないよ。輸送袋に入れられるものなら、何か入れても重量も変わらないしな」
そう答えると、カトレアはほっと息を吐いて、ほほえみを返してきた。
「うむ、では、明朝、朝焼け時によろしく頼むのじゃ」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ」
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