3話 なつかしき仲
魔術研究所の一階はエントランスとなっており、中央に大きく横長のカウンターが設けられていた。
カウンターは、図書館利用、博物館利用、など目的ごとに分けられていて、それぞれの場所に、人々が並んでいた。
そして、そのうちの一つ、『面会』と書かれたカウンターの所に、俺たちは向かう。
「図書館カウンターとかはそこそこ並んでいる人がいるのに、ここはいないみたいだな」
「まあ、ここはいつも空いていますからね。有難い事ですし、このまま行っちゃいましょう」
サキはそう言うなり、受付に座る精霊種の女性の前に立つ。
ただ、精霊種の女性は何やら下を向いて、何かを書き込む作業をしているようで、こちらに気づいていない。だから、
「もしもし。用があるのですが、構いませんか」
サキはそう言った。すると、精霊種の女性ははっとこちらを向いて、
「あ、すみません。ご用件はなんでしょうか――って、え?」
言葉的には、いつも通りの業務をスタートさせようとしたのだろうか。だが、その発声は途中で止まり、表情に驚きが満ちた。
「えっ……と、あ、貴方様は……魔術の勇者様です、よね!?」
「ええ、まあ、そうですね」
「お、お久しぶりです。また、お会い出来て光栄です……」
と、何やら感動したようなか細い声を上げた後で、受付の女性は首をふるふると振り
「って、そうじゃありませんね。ええと……ここにお越しになられたという事は、もしかして所長に御用がおありですね?」
「その通りです。まあ、いつも通りですが、呼んでいただけますか?」
「かしこまりました。今すぐ、所長を呼んでまいりますので……今は奥の部屋でどうぞお待ちください!」
●
サキと話したあと、受付の女性は、カウンターの奥にある応接間に俺たちを通してくれた。
そしてお茶などをひと通り出した後、応接間からいったん退出した。
何とも手馴れている動きだった。面会カウンターの担当者だからかもしれないが、それよりも気になったことがあって、
「サキ。受付の人に、また、って言われていたけど。前から、この施設に来てたのか?」
俺は横でお茶を口にしているサキに尋ねた。
やり取りを見た限りでは、すでに見知った仲のように思えた。その考えは正しかったらしく、サキはこくりと頷いた。
「ええ、魔法大学にいた時代に、研究の協力などをしていたんですが。毎回、ここの所長に直接アポイントを取ってやっていたので。私がここに来ると、所長に顔を合わせるというのが定例になっていまして」
そんな彼女の言葉に、俺の隣でお茶菓子を食べまくっていたバーゼリアが首を傾げた。
「あれ? ということは、今回会いに来たっていうのは、所長さんなの?」
「そうですね。この研究所は魔術だけではなく、精霊都市の地理、地脈も調べていますから。この地にあるという精霊の泉についても知っていますでしょうし」
「そうそう。本当はオレが知っていればよかったんだけどさ。まあ、オレは直し方はしってるけど、その辺りは詳しくないからな。大人しくサキの人脈に頼るのが良いと思ったんだ」
俺の肩で苦笑しながら言うデイジーに対し、サキは小さく息を吐く。
「ふふ、アクセルの役に立てるのであれば何よりですよ。いろいろとやってきた甲斐があるというものです」
「リズノワールがここの所長さんに対して、研究協力していなかったら知り合いになれてなかったもんねー」
「ああ、正確には、そうではありませんよ、ハイドラ」
「ん? ボクなんか間違ったこと言った?」
「いえ、研究協力で貸し借りを作ったのは確かなのですが、ここの所長は、もともと違う職場にいまして。その前の職場時代からの知り合いなんですよ」
「サキと知り合える前の職場――っていうと大学関係か?」
サキの交友関係のすべてを網羅しているわけではないけれど、勇者時代は人付き合いというものが殆どなかったし。
勇者になる前と、魔王大戦の後に、彼女がいた場所というと魔法大学くらいだが、と思っていたら、
「その通りなのじゃー」
応接間の奥、ドアなしでつながるもう一部屋の方からそんな声が聞こえた。
そちらを見れば、奥の部屋から歩いてくる姿があった。
小さな体に、三角帽子とローブをまとった少女だ。
「いやはや、盗み聞きみたいなことをしてすまんの。聞こえてきてしまったもんでな」
彼女は、人懐こい笑みを浮かべながらこちらによって来る。
そんな彼女にまず反応したのはサキで、
「ずいぶんと早いですね。急がせてしまいましたか?」
彼女の言葉に少女はぷるぷると首を横に振る。
「わはは、かつての教え子にして、ワシを超えた大天才が来たのじゃ。忙しかろうと飛んでくるとも。――いや、ほんに、久しいのう。良く来たのじゃ。まったりしていってくれい」
そういって、両手を腰に当てて、うんうん、と頷いた。
その様子を見て、バーゼリアは目をぱちくりとさせ、
「えと、リズノワール? この小さな子が、所長さんなの? なんか教え子とか言ってたけど……?」
そんな疑問と共に発した声に対し、ええ、とサキは肯定した。
「そうですよハイドラ。彼女が現魔術研究所所長にして……私が在籍していた元魔法大学の学長だった人です」
サキの言葉に乗っかるようにして、ローブの少女はニカっと笑い。
「うむうむ。ご紹介有り難う、サキ。ワシはカトレア・ハンドレット。百歳をキリに学長は引退したが、まだまだ色々現役な魔女っ子じゃ。よろしくな、空飛ぶ運び屋パーティーの皆々よ」
いつも応援ありがとうございます!
面白いと思って頂けましたら、下のブクマ、評価など、よろしくお願いします!
また先週、2/19に、竜騎士運び屋のコミックス5巻が発売してます!
とても面白いので、ぜひ、お手に取って頂ければ嬉しいです。




