18話 青色の広がり
アクセルの戦いが終わるのを、エドガーら考古学ギルド探索班は、背後から見ていた。
「隊長、今のは……」
「ああ、嵐を断ち切るだなんて凄まじいものを見させてもらった。……剣が振られる瞬間、自分は、巨大な竜の姿を幻視したよ」
竜の神の姿を垣間見た気がした。
「これが、元勇者の、運び屋の力なのか……」
目の前で起きた事に対する驚きと、勝利の喜びが混じり合い、頭が上手く回らない。
ただ、そのごちゃごちゃになった気持ちは、直ぐにもう一つの驚きに塗りつぶされた。それは、
「ああ……見てください、隊長」
「分かっている。――久方ぶりの、青空だ。あの人が取り戻してくれた空だ」
数か月間ずっと天を塞いでいた雲が消え去り。
青い空が目の前に広がったのだ。
●
魔人を打ち倒した俺たちが砂漠から考古学ギルドに戻ると、
「お帰りなさい、アクセル。竜王ハイドラ」
「戻って来たか、親友達ー」
仲間二人が出迎えてくれた。
「ああ、ただいま、二人とも」
「ご主人と一緒に、戻って来たよー!」
「考古学ギルドに来た念文を見たけど、魔人と戦ってたんだな。二人とも、お疲れ様だぜ」
デイジーはそう言って、俺の肩に昇り、もむように手を動かして来る。
「はは、ありがとうよ、デイジー。戦っている間、街の方は問題なかったか?」
聞くと、答えてきたのはサキだった。
「全く、何事もありませんでした。精々、私がアクセルの雄姿が見れなくてかなり残念だったことぐらいですが。それを除けば特に攻撃も来ませんでしたからね。むしろ、天気が改善したので、良い方向に騒がしくなってる気はしますが」
「そうか。なら、良かったよ」
魔人は撃破したとはいえ、街がどうなっているかは、戻るまで分からなかった。
敵を倒したけれど戻る場所がなくなる、とかになっては悲しすぎるし。
被害が出ていないというのであれば、それで良い。
そんな事を思っていると、
「アクセル・グランツ。この街の問題を、解決してくれたのですね」
そんな声がした。
聞こえた方向――考古学ギルド所有の倉庫を見ると、その中から、蛇神が出てきた。
「おお、蛇神様か。外に出ていたのか」
「ええ。皆が戦っていると聞いたので、私も出来る事をと思い、霊水の水瓶や魔法具の調整をしておりました。……それを使うまでもなく、アナタが原因の魔人を倒してくれたそうですが」
「まあ、原因である事を見つけたのは、エドガー達だけどな」
「ええ、エドガー達にも感謝をしますが、それ以上にアナタたちの働きに。心からの感謝とお礼をさせてください」
そう言って、蛇神は保管庫から出てきて、俺たちの近くまで来た。
そして、その体を折り、一礼をした後、
「アナタ達のお陰で、私も以前の姿に戻れます」
彼女は頭を上げて、空を見た。
そのタイミングで、俺は気付いた。
「身体の色が、変わっていく?」
蛇神の体色が変わっていくのだ。
最初にあった時から今の今まで、真っ白だった。
それが今や、美しい水青が混ざったものへと変化していた。
どことなく、きらめきを持った青と白色の体躯になったのだ。
まるで空の色を、吸収しているように。
「これが、以前の姿ってやつなのか?」
「はい。本来の私の色なんです。日の光を浴びないと真っ白になってしまいますが。そして――その色を活用したモノを、貴方達にお渡しします」
言いながら蛇神は目を瞑った。
更に、その首元を空に掲げるように身を折る。
行為そのものは以前も見た、陽鱗を作り出すモノ。しかし、
「どうぞ。お使いください。求められていた、青い『陽鱗』です」
今回、彼女から産出され、俺の手の上に落とされたのは、空の色をそのまま地上に下ろしたかのような、鮮やかな青色のインゴットだった。
「これが光をしっかり浴びた陽鱗――か」
「はい。この色になった時、構成は安定して、完璧な素材になります。ご自由に、お使いいただければと」
その言葉を聞いて、肩にいたデイジーが青い陽鱗に触れる。
そして力強く頷いた。
「これはばっちりだ。間違いなく修復作業に入れるぜ、親友!」
「おお、そりゃ助かる。……有り難う、蛇神様」
礼を言うと、青と白が混じった、美しい煌めきを持つ体となった蛇神は、微笑と共に首を横に振った。
「礼を言うのはこちらですアクセル・グランツよ。アナタはこの街に数カ月ぶりの、待望の、綺麗な青空を運んできてくださったのですから。アナタしか、出来なかった事なのですから」
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