表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
知性次世人間性  作者: 真宮蔵人
26/28

020X.老婆の物語

 牧歌的な畑の中に、もう初老を過ぎた頃の女性が居た。女性は自分で「私はもうババアだよ」と開き直っている。

 

 老婆は現実世界で農業をするという時代錯誤な生き方している傍らで反AI団体の幹部格でもあった。

 

 あまり大きな農園は機械力を借りても老婆一人の身では大きく広げられない、作物を売るとしてもAIが管理する農業プラントの安価な作物や加工品、合理的な流通路には適わない。

 

 なので、自給分の作物以外はニッチな野菜や花を育てて出荷している、この収入だけでは農機の維持は出来ない。

 

 彼女の生き方は前時代でも古い部類の生き方だ、その生き方に感銘を受けた人々は彼女を反AI団体の広告塔にした。

 

 「まるで150年前の人間の様だ」とよく言われる。お陰であだ名は「150歳の婆さん」である。

 

 彼女自身もAIとは関わりたくないスタンスであった為に反AI団体のハト派的地位へ進む事にした。

 

 政府や公団、企業への抗議活動には「AIに火炎瓶なんて効かないからせめて選挙に行きなさい。」とか、「株主になったり不買運動で組織の方向性を変える努力をしなさい。」とか「暗殺? 人間を殺してどうするの?」などと若者を嗜める役を率先して取った。

 

 過激な反AI団体からは多少恨まれたが、慕ってくれる人も多く出来た。その中でこれといって気に入ったり温和な人々を自宅に招いてお茶会などをして人との繋がりの輪を広げた。

 

 反AI団体でよく上がる話題にジーンリッチ問題もある、これに対しては老婆は遺伝子治療のゲノム編集は一度受けているし肯定はしているが、延命やスーパーベイビーに関して老婆は語らない、後者の2つはもう関係ない話なのだから。

 

 反AI団体はとても大きい、世界規模の組織である。スポンサーも数多くいるし後進国の中には国を挙げて支援している場合もある。

 

 その大きな団体のなかで老婆が作り上げたサークルの中に「酒井淳子」という看護師が居た。

 

 医療や看護業界も機械化後にAI化が進んだが、老人の世代は人に愚痴を言うのが大好きなので、人間の医者と介護師は根強く残った。

 

 老婆は思う、何でも合理主義でAI化出来る訳でもないだろう、人が滅ぶまでは人は人を必要とする。

 

 自ら進んでこの手の仕事に就いた人間の多くは反AIスタンスをある程度持っている。酒井淳子もその中で周りに流されてここへ辿り着いた娘であった。

 

 この娘は温和で臆病な性格ではあったが、真っ直ぐで正直者であった。はずんだ話の中から両親の話題が出た、母の旧姓が赤松と言うらしい、老婆は念の為に自身の知っている赤松の性を持つ人物と淳子の関係を調べた。

 

 反AI団体の情報網は恐らく世界でトップクラスであろう、好き勝手に動けないAI群や国家間の緊張にある国々よりも優れた世界規模の情報網がある。

 

 AIが認識しにくい紙媒体、その中から淳子の両親の経歴を入手し追跡するとその母親が過去に「就職」させた子供の中に赤松敬という、一部の世界では有名な名前を見つけた。

 

 赤松と言う苗字はそれほど珍しくないが、点と点が繋がった、これは天啓なのだろうか。

 

 その後、老婆は淳子をVJP2へと誘った、自身の仮想娘である赤松恵子が中等部2年に入り性格が荒れている頃だった。

 

 淳子はスパイという名目で同じ学校同じクラスへ潜り込ませたが、そこまで重要な任務は与えていない。

 

 完全に組織力を私用した形となっているが追及された事は無い未だに無い。

 

 数年過ぎてもこの二人の兄妹はお互いに接点が無いようだ。私はいつかこの二人を呼んで事実を伝えたいと思っている。

 

 恵子は父親似だったのだろう、男前な顔立ちで気弱そうな淳子とは似ていない、淳子は母親似だろうか。

 

 しかし、その前提として、この二人の心には傷がある、癒すには長い時間を必要としている。

 

 私には子供が出来なかった、人工多能性幹細胞とやらから子供を作ることも可能だったのだが、当時は貧しい夫婦であった上、その事で悩んでいる間に夫には先立たれた、難病で治療できなくは無い病であったが、お金が無かった。

 

 死んだ伴侶の細胞で子供を作るという話も一時期合ったが、私は運命を受け入れたいと思った。

 

 夫の保険金を運用し、コツコツと働き、資産を貯めて、小さな農園を手に入れた。

 

 私の子供ではないが、この世界で唯一であろうあの二人の関係を知った私はこの道のりを達成したい。

 

 例え死後になっても達成出来る様に準備も進めたい、私は無理な延命を望まずに古い人々の様に死のうと思う。

 

 あの子達の様な若い世代は科学で古い運命を打ち破るだろう、その後に幸せな道のりがある事を私は祈る。

人物

・仮想名:赤松猫 本名:秋山きらめき 年齢:71歳 種族:生身の人間

所属:反AI団体ハト派 及び仮想家族赤松家の保護者


幼少期はその達観した性格から「あきらめちゃん」と呼ばれていた。豊かな時代に生まれたものの、彼女自身には特にそれの恩恵を受けず学校卒業後、薄給の公務員として働き、結婚をした。


仮想家族はある意味に第三の人生となるので、今度は猫になるという破天荒な選択をしたと思ったが、周りも似たり寄ったりじゃないかとは思っている。


AIが火星で独立宣言をし人類が農業回帰をする時に顧問として働き、その後に亡くなった。

あの兄妹へ事実を知らせたかどうかは当人達しか分からない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ