ダメ冒険者製造器、心を折る
弩砲騎士が弩砲の引き金を引いた。
大型の弦が音をあげて唸れば、吐き出された矢弾が空を裂く。
黒鉄で出来た大矢は敵の集団の真っただ中の地面に着弾した。
向こうは少し動揺した様子だが、PKには誰一人として当たっていない。
再び装填された鉄矢がPKに放たれる。
今度は敵集団の目の前に着弾した。
「相変わらず命中精度が悪いですね」
「まぁな」
弓系最上位に位置するバリスタ系武器だが、その重量と装填速度の遅さもさることながら、命中率が極端に低いという欠点も抱えている。
大型エネミーならまだしも、距離のあるPK相手にマトモに命中できるものではない。
「どほーさん、森の中で動いてる」
「了解した。どの辺りだ?」
「あっちかな」
ミカの指さす方向に弩砲を放つ。
木に当たった音が聞こえるが、それ以外に変わった事はない。
「外したか?」
「ちょっと前すぎるわ。もう少し奥に撃てない?」
「具体的な距離が分からんと曲射もできんぞ」
「前衛の敵、来ますよ」
麗沙の言葉に反応して、弩砲の向きがグンと変えられる。
数十メートルと行った距離に近付くPKの前衛部隊に弩砲騎士が装填した鉄矢を放った。
風を裂いて……いや、まるで風を叩いて割って進むような勢いの鉄矢はPKの前衛……その最も前方を走っていた〈武士〉の男を鎧ごと貫く。
〈武士〉の男のHPはちょうど半分を切っていた。
「なにっ」
「〈守護戦士〉だろ!?どんな攻撃力してやがんだ!」
驚きながらも走ることを止めないPKに、弩砲騎士は再び弩砲の砲身を構える。
「はい、矢を装填したわ」
「ああ……発射」
ミカが弩砲に矢を装填し、弩砲騎士が狙いを変えずに鉄矢を放つ。
普段は一人で行ってる作業の一部をミカに代行させるだけで連射速度が上がっていく。
ミカの手助けに弩砲騎士が当たり前のような態度でいるのを見て麗沙は
「なんだかんだ貴方も毒されてますね」
「あ?俺に言ってるのか?」
「いえ」
そ知らぬ態度で敵した敵PKの一撃を麗沙が受け止める。
弩砲騎士の砲撃でPK前衛部隊はほぼ壊滅状態だ。
狙撃手─一人なのか部隊なのかは分からない─が未だ姿を見せずに攻撃を加えてくるが、〈守護戦士〉である麗沙と弩砲騎士どころかミカの防御力すら抜けずにいる。
向こうがどのような顔をしているかは分からないが、〈盗剣士〉の一撃をノーダメージで防いだミカをPK達がひきつった顔で見ているので、それと大して変わることは無いだろう。
むしろ防御力で言えば、三人の中では弩砲騎士が一番低く、〈森呪遣い〉であるミカに護衛して貰わなければならない程である。
ミカは、そのまま〈ガイアビートヒーリング〉を発動し自分と麗沙、そして弩砲騎士に持続回復のバフを付与する。
これにより、防御を抜いて削られたHPがその場で回復するのだ。
回復役であるミカの動きを止めようとPKが数人向かってくるが、防御力だけならば麗沙を超えるミカに有効打は入らない。
しばらくすると、PK達は顔をひきつらせてジリジリと退き始めた。
狙撃も、既に無い。
「もう終わりか?根性の無い奴らめ」
「私とミカさんが防御特化ですからね。ダメージが通らなければ、戦闘放棄もするでしょう。とはいえ、普通に戦えばこちらが……」
「そうか……ならこちらの番だな!」
「リソース切れで倒れ……話聞いてますか?」
弩砲騎士が嬉々として足を踏み出すと、弩砲を構える。
少し怯えた表情を見せるPK達を狙い、特技発動のスキルエフェクトが弩砲を包んだ。
しかし、後ろからミカがその弩砲を押さえ付け、攻撃を中断させる。
「おい、手を離せ。何をする?」
「もういいじゃない!向こうはもう、戦う気が無いんでしょ?」
「分からんぞ。隙を見せたら襲ってくるかもしれない。倒しておいた方が後々に響くまい?」
「きっと響くわ」
「ほう……?だが、我々だけでは倒されるかもしれないぞ?敵の心配をしている暇は無いだろうよ、なぁ」
「あ、話聞いてたんですね」
「敵の心配もだけど、私はどほーさんの心配もしてるのよ!」
「俺の心配……?」
「良いから私に任せなさい!」
そう言うとミカは両手にリーフシールドを構えながら、PK達の散発的な攻撃を弾きつつズカズカと渦中へと進み行く。
そうしてミカがPKに向けて大声で何かをわめき始めると、弩砲騎士は構えを解かずに、大きくため息をついていた。
「あの小娘は自分が死ぬとフジに舞い戻ることが分かってるんだろうな」
「貴方も大変そうですね」
「……そもそもミカさんのリスポーンポイントをアキバにしたいのはお前さんじゃあ、なかったか」
「まぁそうなんですが」
そこで麗沙はチラとミカを見た。
そこには、PK達を説得し続けるミカの姿が見える。
PK達は大半が既に戦意を喪失しており、ミカの言葉で完全に攻撃の手を止めていた。
「あれを見る限り、大丈夫じゃないかと」
「……」
麗沙の目が向く場所。
見える範囲のPK達はアキバへと帰るルートについていた。
正面には、ドヤ顔で立つミカの姿がある。
PKを倒さず、PKにもやられず。ただ撤退させるのを目的としたミカの言葉をPK達は─幾分3人の強さに心が折れていたとはいえ─聞き入れていた。
明日もまた彼らはPKを行うかもしれない。だが、死んでも復活する〈冒険者〉同士の戦いでは相手を倒しても同じこと。
不毛な争いの繰り返しになるだけ。
結局はどちらも問題の先延ばしだが、方法が違えば人の心象や今後も変わっていくものだ。
攻撃とは違う、優しい言葉をかけられたPK達の心は、別の方向に折れたのだ。
「今日だけは……そう言うことにしておくか」
弩砲騎士は、ソッと構えていた弩砲の砲身を下げる。
ミカの綺麗事な行動に、少々の称賛を込めて。




