捕縛という名の暇潰し
アキバの門前。
本来ならこの場所で†麗沙†の同僚─つまり〈D.D.D〉のギルメン─が出迎えてくれることになっている。
だが、出迎えにと呼んだはずのキャンデロロは今、部隊と呼んで差し支え無い人数で弩砲騎士を取り囲み、地面に押さえ付けていた。
「……キャンディ、私は出迎えを頼んだはずですが」
「そうね。だからこうして出迎えてんの。ほら、二人は早くこっちに来なさいって」
キャンデロロは弩砲騎士を睨み付けた視線を外さずに、麗沙とミカを手招きする。
それはこれから、この場所で手荒いことが行われる証左であった。
故に、麗沙は地面に押し倒される弩砲騎士のことを一瞥もせず
「お断りします」
そう突き刺すように言葉を放った。
「え……なんで?」
「私は捕縛と伝えた筈です」
「だから捕縛なんでしょうが!この危険の塊を安全に捕縛するためにここに来たのよ!」
麗沙は周囲を囲む、冷徹な雰囲気を醸し出すギルドメンバーを順に見ていく。
全員がフル装備で、まさしく全力で弩砲騎士を抑えに掛かっているように見えた。
「……捕縛と言った雰囲気には見えませんが」
「当たり前でしょ。暴れられたら困るんだから。押さえ付けんのよ」
「ちょっと!どほーさんから手を離しなさいよ!!」
「あまり手荒な真似はしないという約束でここに連れてきたのです。この様なことをしなくても彼は大人しく着いていきますよ。大体アキバの街では戦闘もままならないでしょうに」
「その言葉を信用できる人間が少ないってこと。街中でも暴れそうじゃん……ほら、早くこっちに来てってば!」
ミカがチラリと弩砲騎士に視線をやる。
「……行け」
「でも」
「気にするな。麗沙、行け」
「うーん……まぁ、分かりました。行きましょう」
「それじゃあどほーさんが」
「本人が良いのなら、とやかくは言えません。それにこの状況は多分……」
ぶつぶつと呟きながら、麗沙がミカの手を引いてキャンデロロの側に行く。
ミカは少し逡巡し抵抗とも言えない抵抗をしたものの、結局は連れられていった。
「はー、良かった良かった。友達が危険人物の横にいるのはやっぱ心配だったんだよ」
「友達?」
「え?」
「え?」
麗沙の意味が分からないという顔と、キャンデロロの絶望した顔が見つめあっている横の空間を気にせず、ミカは弩砲騎士へと視線を向け続けている。
地面に押さえつけられた彼の顔が上─見ているのは正面だが─を向く。そこにいる〈冒険者〉を割って出てきたのは、大鎌を携えた軍服風の皮鎧を着た女性。
彼女を見て、弩砲騎士が口を開いた。
「三羽烏の高山三佐か」
「自己紹介は不要な様ですね」
高山三佐は弩砲騎士をその感情の見えない黒い瞳で見おろしつつ
「ふん……たかが一人に物々しいことだ」
弩砲騎士が嘲笑う様な声を出すと、彼を押さえ付けていた武器に力が込められる。
少しずつ弩砲騎士のHPが減少していく。
「例え手負いの獣と言えど獣。そう言うことです」
「手負い?俺がか?」
「随分と憔悴している様ですが」
高山三佐は少し考えた素振りを見せるが、彼女のすぐ後ろから現れた人物によって考えは中断させられた。
新たに現れた人物は貴公子然としながらも、大柄な騎士鎧と禍々しい斧が一辺にその印象を台無しにする。だが、不思議とそれが調和する様な纏まりを持っていた。
「やれやれ。彼がこの様子ではせっかく準備をしてきたというのに面白みがありませんね」
「……ミ・ロード」
端正な顔立ちにかけた眼鏡を光らせて、まるで残念でも無さそうに口を開く。
彼こそが、ここに集うアキバ屈指の規模を誇る戦闘ギルド〈D.D.D〉のギルドマスター。
名をクラスティ。総統の名で呼ばれる、ヤマトサーバー屈指の怪物プレイヤーである。
「皆がわざわざ作ったリストに載るほどですから、どれほどかと思ったのですが……これは期待が外れましたね」
「そうか。それは悪かったなクラスティ?昔も言ったが、お前に娯楽を提供できる程有能じゃないんでな」
「存じてますよ。だからこそ、〈大災害〉からこっち少しだけ楽しみにしてたんですよ。まぁ、その少しも今となっては無くなりましたがね」
クラスティはそう言って肩を竦めるとまるでとぼけた顔で言ってのけた。
弩砲騎士はしばらく無言になった後に
「……失せろ」
とだけ口にする。
クラスティは曖昧に頷くと、高山三佐に場を任せて立ち去ろうと背を向けた。
その瞬間だった。
弩砲騎士の身体から、突如として爆裂と爆風が噴き上がった。
「な、なんだ!」
「どけ!」
「あぐっ……!」
爆発に乗じて、弩砲騎士は自らを押さえていた3~4ばかしの〈冒険者〉をそのSTRパラメータに任せて弾き飛ばすと、腰にくくりつけていた小型の弩砲を即座に構えてクラスティに撃ちつける。
クラスティはまるで予期していたかの様に鉄矢を避けると、腹のたつ様なアルカイックスマイルを浮かべていた顔に、今度は獰猛な剥き出しの笑顔を浮かべていた。
「自爆装置で脱出とは」
「呆れたか?」
「いいえ」
自爆装置とは、ゲーム時代から存在する消耗アイテムのひとつであり、発動すると自分を巻き込んで範囲に攻撃を与える代物。
ポーションを浴びてHPを回復しつつ、弩砲騎士は今度はマジックバッグから取り出したメインの大型弩砲を構える。
敵は〈狂戦士〉クラスティ……と、周りの〈D.D.D〉メンバー。
「やっとそれらしくなってきましたね」
「お前とはやりあって見たかったんでな!」
無謀に思える戦闘の空気に、弩砲騎士は自らを飛び込ませた。




