ぷろろーぐ
世界救う系主人公に飽きました!
仲間のために戦う系主人公に飽きました!
関係ない人は殺したくない系主人公に飽きました!
見下されたから復讐する系主人公に飽きました!
そんなあなたにおすすめです。
どだだだだだ、と騒々しい足音が響く。それは下町の通りならともかく、格式ある王立第一図書館で立てて良い物音では決して無かった。
館内の人々は、本から顔を上げて一斉に非難の目を飛び込んできた二人に向ける。そして、その目を丸くし、息を飲んだ。
なぜなら、その二人は性別も年齢も違うが、どちらもそら恐ろしいほどの美しさを誇っていたからだ。
年上の青年は、甘く蕩けるような顔立ちをした銀髪碧眼の美青年だった。目元の黒子がさらに艶めかしさを添える。すらりとした長い手足に、貴族のように豪奢な服装。どこかの貴族の三男―――要は遊び人、といった印象を受けた。
そんな青年に抱きかかえられているのは、一人の幼女だった。相当な速度だったためか、振り落とされないようにしっかりと青年の首に手を回している。
幼女の方は打って変って、質素な黒のローブ姿だった。鮮やかな金髪を無造作に結い上げ、深紅の瞳は楽しげに煌めいている。小さな顔は、将来大輪の華を咲かせることを確信させる。今ですらその容貌は、宗教画の天使も裸足で逃げだす可愛らしさと神聖さに満ちていた。無邪気な笑顔が何よりも魅力の美少女だった。
呆然と人々が二人に見惚れる。その中で視線を気に掛ける風でもなく、二人は書棚の奥に飛び込み、大きな本を何冊も抱えてまたすぐに戻って来る。
急くように本を広げ、貪るような勢いで読み始めた。
10分ほどたっただろうか。
その頃には人々も二人に興味を失い、各々の読書に集中し始めていた。
「きゃはははは、あ――っははははははははははははは!」
「クハハ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
そこに響き渡る、二人の高らかな笑い声。どこか嗜虐的で愉悦を含んだ、楽しくて嬉しくて仕方がない、といった感じだ。
「これで私達、お金持ちね!」
「そんなもんじゃないぜ、億万長者ってやつだ!」
「これで豪華なドレスも好きなだけ買えるわ!」
「これでどんな高い酒もいくらでも飲める!」
「誰にも従わなくていい!」
「むしろたくさんの人間をこき使ってやるぜ!」
「毎日薔薇を浮かべたお風呂に入れるの!」
「美女を何人も侍らせた風呂の方が良いだろ!」
「天蓋付きの柔らかいおっきなベッドも買って、毎晩そこで寝ましょう!」
「小せぇな! どうせなら城買おうぜ! 何十部屋もある、でっけぇの!」
「良いわね! 毎晩そこでパーティーを開きましょう! 何処探したって見つからないくらい、誰にも負けないくらい盛大なパーティーを!」
「おう! パーティーなら女がわんさか集まって来るぞ! 綺麗なのだけを集めて楽しもうぜ!」
「どうせなら身分とかも買い取ってしまいましょう! でも爵位ってお金で買えるのかしら?」
「そこまで来たら、国作ろうぜ? 俺達が王様の、でっけえ国!」
「小さいわ! ここまで来たらそう、」
「「世界征服!!」」
ぱぁん、と手を打ち鳴らす。まるで仲の良い兄と妹のように、その様子はどこまでも息が合っていた。
「「「「「「「「「うるさい!!」」」」」」」」」」
そうして二人は図書館からつまみ出された。二人の頭の悪そうな会話にうんざりした司書たちの手によって。読書家達は無言で司書の行為を称賛した。
ぽいっと図書館から放り出された二人は、それでもニタァリとお互い嫌な笑みを浮かべ合った。
二人は兄妹でも何でもないが、こういったところは良く似ていた。いや、そもそも片方は人間ですらない。
「ねぇヴィレジー、図書館の人達って案外厳しいのね」
「そうだなエリーザ。これから世界の王になる俺達になんつー態度だ」
「でも私は寛大だから、あれくらいの無礼は許してあげるわ」
「世界の王だからな、あれくらいは見逃してやってもいいな」
ヴィレジーとエリーザ。
それは、これから世界を揺るがす大騒動を引き起こす―――かもしれない二人の名前だ。
……あくまで可能性の話である。
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