第3章 追憶の夜想曲≪セレナーデ≫Ⅲ
今回は若干グダグダになってる気がします……(-_-;)
スイマセン。
ちなみに、今回で夜想曲編は最後となります。
それでは、
はじまり~はじまり~
とある路地裏突き当たり
「ガアアアアァァァァ!!」
それは、叫びというよりも咆哮。
大切な者を守れなかった事に対して。
大切な者を傷つけた者に対して。
それは、怒り。
それは、後悔。
それは、悲哀。
それら全てを、たった一つの行動に凝縮する。
ただ、命を刈るという行動に……。
天地を揺るがすほどの咆哮と共に、久吉の姿がその場から消える。
否、消えたのでは無い。
消えたと思うぐらいに高速で、建物の壁を駆け上がり天空に舞う。
そして、何も無いはずの虚空を足場に力を溜めると、地上目掛けて隕石が如く降下する。
やっとの事で久吉の位置を把握した男たちが、それぞれに魔法を放つべく口を開こうとするが、その僅かな時間さえ久吉は許さなかった。
三人いた男たちの中で一番背が低かった男の顔面を掴み、地面に打ち付ける。
その事に唖然としている残りの二人をそれぞれ空中に放ると、地面に倒れている男の顔を思いっきり踏んで上空へと飛翔する。
空に放り投げられた二人は久吉から逃げるべく魔法を使う。
「『強化・速度上昇!!』」
魔法を発動させた二人は、身体を緑色に輝かせながら脱兎の如く逃走を開始する。
先程の三倍近くの速さで壁を蹴って、屋上を目指す。
しかし、その程度では今の久吉から逃れるのは不可能だった。
男たちが屋上に上がって一息つこうとした所に、久吉が下から飛び上がってきた。
そして、一瞬で男たちとの距離を零にすると、片方の男の足を掴みもう片方の男ににぶつけた。
「ガッ!?」
急に横からの力が加わったので衝撃に耐える事が出来ず、二人は先程の路地裏へと落ちていった。
しかし、それで終わらせる久吉では無い。
再び路地裏の上へと舞い戻ると、右手を前に出し呪文を唱えだす。
「『黒き地獄の炎たちよ、焼け!燃やせ!灰と成せ!我が前に立ち塞がる愚民に辛辣なる罰を!!攻撃・黒龍怨炎波』!!」
久吉の右手から現れた“ソレ”はまるで意志が在るようにうごめき、真っ直ぐに男達の方へと向かっていった。
“ソレ”に気づいた男たちは我先にとその場から離れようとするが、黒龍が地面に到達する方が、圧倒的に速かった。
ドゴォォォォォォォン!!
大地を揺るがす様な轟音と共に、男だった物は地面の染みと化した。
それを確認した久吉はゆっくりと地面に降下する。
そして、染みを一瞥すると急に力が抜けた様にその場に倒れこんだ。
数日後………。
川戸江区内大松川病院
あの日、路地裏で気絶していた久吉は、轟音を聞いて駆け付けて来た魔警察地域課の職員に保護されていた。
余りにも衰弱の激しかった久吉は、奈々と一緒に病院に運ばれてそのまま入院した。
久吉の方は衰弱の回復と、倒れた時に打った頭の傷で入院一週間。
奈々は大きく切られた背中と、その他少量の擦り傷などで、入院二週間となっていた。
病院で目が覚めた久吉は急いで奈々の下へと行こうとしたが、医師に止められたのと、何故か身体が全く動か無かったとで入院して三日は大人しくベッドに沈んでいた。
ちなみに、男たちを殺した事は誰も知らない。
現場に証拠が何も無いのと、久吉自信が忘れてしまっているので、捜査のしようが無いのだ。
そして、四日目の今日。
やっと動く様になった身体を酷使して、奈々の病室に来ていた。
しかし、久吉は病室に入れないでいる。
どんな顔をして奈々に会えば良いだろうか?
どうやって謝ればいいだろうか?
そんな考えが久吉の頭の中で渦を巻いていた。
「……考えてどうにかなる事じゃ、無いよな…」
「そうそう」
が、
「だったら腹を決めて行くべきか?」
「うんうん」
世界は久吉が考えている程、複雑では無かった。
コンコン。
「奈々〜、入るぞ。良いか」
「はーい」
「!?」
久吉は余りにも驚いた為に、病室の扉に頭から突っ込んでしまった。
何故に驚いたのか、それは思いもしなかった場所から奈々の声が聞こえたから。
発信源は病室では無く、久吉の背後。
奈々が居たのは病室では無く、外。
外に散歩に行った帰りだったのだ。
頭から突っ込んだ久吉に対し、奈々はいつもと変わらない笑顔を向ける。
「アハハハ、大丈夫?ナッツ」
「な、奈々。お前、傷は大丈夫なのか?」
「うん、余り激しい運動をしない限りは大丈夫だって!」
いつもと変わらない笑顔。
しかし、逆にそれが久吉の不安を煽った。
「無理をしているんじゃないか?」
「してない、してない!ナッツは心配し過ぎだよ」
「でも……」
俯く久吉。
そんな久吉に奈々は優しく声をかける。
「ねぇ、ナッツ」
「ん?」
「もしかして、私を守れ無かったとか思ってない?」
「!?」
図星だった。
余りにも的確な指摘に久吉は表情を偽る事が出来ずにいた。
「やっぱりね。でもね、ナッツ」
「なに?」
「そんなに自分を責めちゃ駄目だよ。今回の事だって、ナッツにはどうしようも無いもの」
「でも、俺が一緒に帰ってさえいれば、あんな事は起こらなかったし、お前の背中に傷が残る事も無かったのに!!」
「でもね、もう済んでしまった事をいつまでもゴチャゴチャと言ってもしょうがないんだよ」
「だったら、俺は、どうすれば……」
「だからね、ナッツ」
奈々は優しく微笑みかける。
「これから先の未来で私の事を守ってよ」
「!」
奈々からの提案に息をのむ久吉。
だが、次の瞬間にはとっびきりの笑顔と自信に満ちた顔で、大きく返事をする。
「オウ!!」
そんな久吉をニコニコと見つめていた奈々は急に、久吉に僅かな違和感を覚えた。
その違和感の正体は顔にあった。
「あれ?ナッツ、なんで眼鏡なんかしてるの?」
「ん?あ〜、これか」
久吉は自分の目にかけている眼鏡を指指した。
「これな、何か知らないけど爺ちゃんがいつもかけとけって言って渡された伊達眼鏡なんだよ。特別な術がかけてあるらしい。この前の事件の後に貰ったんだ」
「ふーん」
この時、奈々は感心しつつも、特に興味は示さなかった。
習魔学園大講堂
小学校4年生の時の事件を思い出しながら、奈々は久吉の身を案じていた。
「ナッツ、大丈夫かな?」
「多分大丈夫だ、ヒサは強いから」
「でも………」
沙輝に連れられて大講堂に到着した奈々たち三人は、置いてきてしまった久吉の身を心配していた。
先程別れてから一時間。
もう勝負がついていても不思議ではない。
そんな重い空気の中、大講堂の入口がワッと騒がしくなった。
何事かと三人が目を向けるとそこには、先程から見回りに出ていたゴツイ体育教師とその肩に担がれた久吉の姿があった。
それを見た三人は急いで体育教師へと走りだした。
…………。
いかがだったでしょうか?
次回からは、休息の間奏曲編を始めたいと思います。
これからもお付き合いいただけたら幸いです。