1話 無話0
「危ない――!」
乾いた音が響いた。
悪役の放った魔法でも、ドラマチックな犠牲でもない。
逃げる途中で崩れた、ただの古びた教会の尖塔。それが、僕を庇ったアイリスの上に落ちた。それだけのことだった。
生温かい感触。
僕の額に傷ができた。
そこからの血の温もり?
それだけではない?
「……え…アイリス…?」
10分前まで笑っていた彼女の指先が、ピクリとも動かない。
10年。誰にも読まれない物語を書き続け、やっと見つけた「僕の言葉を待ってくれる人」が、こんな文字にもならない、何の意味もない事故で終わるのか?
「……!!」
僕は、彼女にしがみついた。
まだ温もりが確かにそこにある。
僕の額からの血と彼女の…。
脳裏に、真っ黒でもあり真っ赤なインクの文字が逆流する。
「嫌だよ…アイリス、僕のそばにいてよ… 僕が創るルール、手順から、居なくならないで…いなくならないでよ!そばにいないとだめだ!!」
そばにいないとだめだ!!という強烈な【拒絶】【執着】
「こんなのダメだ、こんなのダメだ、こんなのダメだ!!」
その瞬間、彼女から、地獄の底を叩き割ったような咆哮が上がった。
「…リ……ト…ッ!!」
「……アイリス…僕が……君を…君をルールという神にする!!」
なくなってしまった現実を受け入れられなかった結果…
「世界が彼女を消すというなら、僕が僕の血で、彼女を神として描き直し、そして…彼女の夢…世界平和を叶えてやる…!!絶対にっ…!!」
右にノリトの目、左にアイリスの目
その両目が開く
神綴禍録
———
続く
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