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ep.31 囁き

ルヴィーナに近づくヴァシルス。婚約を破談にさせようとする彼の思惑とは。

「……最近まで、ユラが旅に出ていたのは知っているでしょう?」


ヴァシルスは身を屈め、喧騒で聞こえないくらいの小さな声で言った。

「ええ」

「あれは見ての通り、色男ですから、星の数ほど女が寄ってくるんですが……」

ルヴィーナはユラを見た。ユラが近くを通り過ぎ、貴族の女性は色めきたっている。

「ユラは大層な女好きでして……。あ、いえ。やはりこれ以上言うのは(はばか)られますな」

ヴァシルスは勿体ぶって、言うのをやめた。

「言ってください!お願いです!」

ルヴィーナの目は必死だ。

「……実は我が国だけでは飽き足らず、世界各国の女と関係を持ってみたいと言って旅をしていたんですよ」

「なんですって!」

ルヴィーナは目を見開いた。

「今度の標的はあの女なのでしょうな」

ルヴィーナは肩を震わせた。

「……そんな方だとは! 汚らわしい!」

「私はあなたを思って打ち明けたのです。いや、しかし、異国へ嫁ぐ決心をされたこと、私は本当に感銘いたしますぞ。何かありましたら、バルドルアの王弟、ヴァシルスになんなりとお申し付けを」

「……ええ」

顔を曇らせるルヴィーナを見て、ヴァシルスはニヤリと笑った。


「何で笑ってるんだ?」

アレムは演奏しながら、ヴァシルスをずっと目で追っていた。そして、時折シロにも目を配った。シロはタンバリンを叩く事も忘れ、ヴァシルスをずっと睨んでいる。

まだ動くなよ、シロ。仇を討つのは今日じゃないぞ。アレムは念を送った。




パーティーが終わった夜 、ユラはそわそわして、室内を歩き回っていた。

「本当に来るんですか?」

衛兵が聞いた時、


コンコン。

部屋の戸を叩く音がした。

「来た!」

ユラがそっとドアを開けると、周囲を伺いながら、潜むように身を寄せ合う3人がいた。

(いらっしゃい)

ユラは、そう口を動かすと、3人を招き入れた。


「やっとここまで来れた!」

入るなり、アレムはソファに倒れた。

「ユラ、久しぶり!」

シロはユラに抱きついた。メイはシャンデリアや天蓋など、室内の豪華さに圧倒されている。


「この方々が殿下がお会いしたがっていた、家族、なのですか?」

「うん、そう。 やっと会えた。本当に嬉しい」

ユラは3人を見て、目を細めた。


「この2人はオゼンとヤシン。僕の部屋の衛兵さん」

「オゼンです」

「ヤシンです」

2人は頭を下げた。メイやシロ、アレムも頭を下げた。

「僕を見張るように言われてるんだろうけど。僕は2人のことを、友達だと思ってる」

ユラは照れ臭そうに笑った。

「いや、そんな」

「滅相もないです。殿下」

オゼンとヤシンは首を左右に振った。


「この座っているのはアレム。そして、シロと……」

「アレム? アレム様なのですか!」

オゼンが目を見開いた。

「王弟の息子、アレム様 ⁉︎ 王族の方なら、こんな侵入の仕方をしなくても」

ヤシンが言った。

「いや、それが。王族だと証明するものがなくて…… 」

アレムはバツが悪そうに腕組みした。

「アレムはしっかりしているように見えて、時々すごいヘマをするからなあ」

ユラはアレムに茶化すような顔を作った。

「いや、しかし。王宮にいた頃と、だいぶ印象が違いますね」

オゼンはアレムをマジマジ見て言った。

「まあ、あの頃は食に興味がなくて、ガリガリだったので」

「今じゃ、料理人になれそうなくらいの腕前だよね。ああ、アレムの作ったオニオンスープが飲みたくなってきた」

ユラはお腹を押さえた。

「またいくらでも作りますよ」


「なあ、オレはシロ!魔法使い!」

シロはオゼンとヤシンに向かって、ニカっと笑った。

「初めまして、シロ様」

「初めまして、シロ様」

オゼンとヤシンはお辞儀した。

「様なんて……」シロは鼻下を指で(こす)った。

「逞しくなったね、シロ。強くなったのが、見ただけでわかるよ」

ユラはシロの頭を撫でた。

「ふふん、だろ? 毎日アレムと戦って、強くなったんだ!」

シロはまたニカっと笑った。


「ユラ、今日は一緒に踊ってくれてありがとう」

ユラは振り返った。

「これを」

メイはパーティーの時にかけられた、白い布を渡した。

「かけてくれてありがとう。本当はあの衣装ちょっと恥ずかしかったから、嬉しかった」

ユラは布を受け取った。

「あの時のメイ、女神様みたいだったよね?」

シロがアレムに聞いた。

「さあ、私は見てないな」

アレムはツンとそっぽを向いた。


「え? まさか、あの時の踊り子の方?」

オゼンはメイをじっと見た。

「はい……一番下手だったのが私です……」

メイは気恥ずかしそうに(うつむ)いた。

「化粧でこうも変わるものなんだな」

オゼンがボソッと言ったので、ヤシンは肘で小突いた。

「僕は!化粧してない方のメイが……」

言いかけてユラは口(ごも)もり、顔を赤らめた。それを聞いたメイも顔が真っ赤になった。


アレムはそんな2人をチラッと見て、見ぬフリをした。

次回はアレムやシロの本音、婚約の行方などの回になる予定です。

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