ep.26 暗殺者
王都へ向かう旅の途中で、3人はユラが婚約することを耳にした。一方、ヴァシルスは国王から遠征するよう命令が出て——。
「いったい、いつになったらワシの戴冠式があるのだ?」
ヴァシルスは、東の小国との争いを収めるよう国王から言われ、遠征先にいた。
「ユラを連れ戻せば、次の王はワシだと誓約書も書いたのに —— ん? 」
突然、敵兵が暗闇から襲いかかり、ヴァシルスは斧を振った。敵兵が2人、胴体から真っ二つに切れた。
続こうとした兵士らは『ひえぇー!』と、悲鳴をあげて逃げ去った。
「ふんっ、もう終いか? 腰抜けどもが。わざわざワシが出る争いでもなかったな」
ヴァシルスは椅子に腰掛けた。味方の兵士たちはヴァシルスに怯え、距離をとった。
「なんだってあの女は、ワシをこうもこき使うのだ?」
1人の騎士が、ヴァシルスに水を持って来た。
が。
ヴァシルスはその騎士の胸ぐらを掴んで立ち上がった。
「貴様、何を入れた?」
「ひぃぃ……」
「かすかに水から毒の香りがする。貴様は敵国のスパイか?」
ヴァシルスは毒の入った水を、頭から騎士にかけた。騎士は首を左右に振った。
「この毒は誰から貰った?」
「すみません!すみません!」
ヴァシルスが騎士を持ち上げた。騎士の足は空を掻いている。
「言え。言わぬと殺すぞ?」
「……いえ、言いません!」
「言えば配下にしてやる」
「っ…………こ、こ、国王陛下——」
ザンッ。
ヴァシルスは騎士の胴体をはねた。
『 ‼︎ 』
その場にいた兵士たちは悲鳴をあげぬよう、両手で口を抑えた。
「やはり、あの女か……。ユラを探させたのも、ワシを暗殺するためだったな!」
ヴァシルスは拳を地面に叩きつけた。まるで地震でも起きたように、辺りはグラグラと揺れた。
「おかしいと思った。何度も命を狙われ——」
「ヴァシルス様」
1人の騎士が、ヴァシルスに駆け寄った。
「ん? シェリか? 久しいな」
ヴァシルスはシェリを見下ろした。見上げたシェリは、幾らか痩せてくたびれた印象に変わっている。
「なんだ、シェリ。ワシの愚息にでもやられたのか?」
ヴァシルスは鼻で笑い、椅子に腰掛けた。
「いえ、あの異国の女に飛ばされまして……」
「ほう?」
「ずっと東の小国におりました。それはもう屈辱の日々そのもので……」
シェリは苦々しい顔になった。
「あ、いえ。そんなことより、お伝えしたいことがあるのです」
「何だ?」
「ユラ王子が明日、アナカイリヤ王国のルヴィーナ王女と婚約パーティを開くそうです」
「なんだと?」
「婚約されれば、名実ともにユラ王子は次期国王に相応しい立場となります」
ヴァシルスは眉間をぐっと寄せ、立ち上がった。
「やはりユラは幼いうちに殺しておくべきだった」
ヴァシルスは斧を出し、それを眺めた。
「婚約などさせてたまるものか。ワシがパーティなど、ぐちゃぐちゃにしてやる」
メイとシロが野鳥に餌を与えていると、関所で門番と話していたアレムが帰って来た。
「問題が起きた。王都へ入れない」
「え? なんで?」
「私は王弟の息子、アレムだと名乗ったんだが、証拠がないとダメらしい」
「そりゃそうでしょ」
シロは呆れた声で言った。
「証拠はないの?」
「そうだな、証拠なら置いて来たローブに、王家の紋章が入っている」
「何やってんだよ、アレム。顔パスできるとでも思ってたのかよ」
「ああ。流石に6年前と顔も体格も違ってはいるが……」
「痛っ」
メイの目の前で女の子が、膝を抱えてうずくまった。
関所を通過しようとしていた、楽士団の一員のようだ。
「大丈夫?」
メイは彼女に駆け寄った。
「長旅で痛めてしまったみたいで」
痛みのせいか、笑顔が引きつっている。
「私が魔法で治しますよ」
メイは彼女の膝に手をかざし、回復魔法をかけた。「すごい!ありがとうございます!」彼女が屈伸しているのを見て、楽士団の人々は、「俺は腰が痛い」「私は肘を怪我してるんです」と次々に手をあげ、不調を訴えた。メイはその全ての不調を回復してまわった。
「メイ、こんな図々しい輩に、そこまでする必要はないんじゃないか」
アレムは不満そうにメイに耳打ちした。
「いいの。私の魔法が、人の役に立てて嬉しいの」
メイは滴る汗を拭わず、二コリと笑った。
『ありがとうございました!』
楽士団が一斉に、メイに向かって頭を下げた。
「ここまでよくしてもらったので、私たちにできることはありませんか?」
団長らしき男性が前へ出て言った。
「あの、もし関所を通れずにお困りなら、我々の一員になりませんか?」
次回はユラと婚約者ルヴィーナの話になる予定です。




