ep24. 重大発表
メイ、アレム、シロが、それぞれに力をつけようともがく一方で、ユラは家族ランチに呼ばれた。そこで国王からの驚きの発表にユラは —— 。
「後で重大な発表があるからね〜」
ユラが席に座っていると、遅れてやって来た女王は得意げに言った。
家族ランチというのは、バルドルア王室が昔から、月に1回は必ず開催している恒例行事である。今回列席しているのは国王とユラ、ユラの双子の妹、ユーリとユリヤ、そして第2王子であるユリック、それに第3王女であるエミリーの6人だ。
「重大発表って何かしら」ユーリは言った。
「何かしらね」ユリヤは答えた。
ユーリとユリヤは16歳とは思えないほど、幼女のような、フリフリのピンクのドレスをお揃いで着ている。ユラが王宮へ戻って最初に再会した際は、知り合いに不幸でもあったのかと思うほど、2人ともシックな黒の装いだったのに。きっと女王に会うときだけ、こうして女王好みのドレスを着るのだろう、とユラは思った。
全員がジュースの入ったグラスを掲げ、乾杯が行われた。
「ん〜! 美味ち〜!」
いち早くそう言ったのは第3王女のエミリーだ。エミリーは現在2歳だそうだ。家を出ていたユラには、この家族ランチで初めまして、となった妹だ。エミリーは介添人に料理を食べさせてもらい、無邪気に喜んでいる。
女王好みのランチは甘く、全てがお菓子のようだ。ユラはそれを口にしながら、アレムのご飯を懐かしく思った。ああ、今頃みんなはどうしているんだろう。3人で仲良く暮らしているんだろうか。
「ご馳走様でした」
早々に食べ終わったのはユラの隣に座っていたユリックである。ユリックは現在12歳だ。幼かったユラに眼鏡を掛けただけのような、ユラとそっくりの弟だ。
「僕もう自室に戻ってもいいですか?」そう言ってユリックは席を立った。
「待って! ユリックにデザートを用意して!」女王は慌ててシェフに指示を出した。
「みんながいるうちに、重大発表言っちゃうね!」
立ち上がった女王に全員が注目した。
「あのね、実はね〜」
女王は体をくねらせ、モジモジしながら発表を焦らした。
「じ・つ・は〜 ユラの婚約者が決まったの!」
ユラは持っていたナイフを床に落とした。今なんて言った?
「あら、兄様婚約なさるのね」ユーリが言った。
「どなたと婚約なさったの?」ユリヤが尋ねた。
「それがね、お手紙が届いたの! 西のアナカイリヤ国王から」
女王は執事から手紙を受け取り、みんなへ見せた。
「ここにね、私の第2王女であるルヴィーナと、そちらのユラ王子を引き合わせてはどうか、って書いてあるの! アナカイリヤはとても大きい国でしょ? 外交的にも、とってもいい話だとママは思うんだ!」
「そんな突然言われても……」
ユラは誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
「ユラにはサプライズしちゃおうかなーって、エヘヘッ」
女王は嬉しそうに照れ笑いしている。
「ルヴィーナ様はそれは美人で聡明らしいですよ」
ユリックはデザートもいつの間にか平らげて言った。
それからユラは自分が何を食べたのか、ほとんど記憶に無いまま、重い足取りで自室へ戻った。扉を開け、倒れるようにソファーに横になった。
「殿下、大丈夫ですか?」
衛兵の1人がピピを抱え、駆け寄った。ユラはピピを受け取り、ピピに頬ずりして泣きついた。
「ピピ…… 僕は一体どうしたらいいんだろう…… 」
「どうなさいました? 殿下」
もう一人の衛兵も心配そうに駆け寄って来た。ユラは言いたいことが喉元まで出かかっていたが、飲み込んだ。
「何でもないよ。ありがとう」
ユラの言葉に、衛兵たちは、残念そうに「そうですか……」と言い、扉の前へ戻った。
きっと国のためにもこの縁談は受け入れたほうが良いのだろう。でも僕は……。
ユラはメイの笑顔を思い浮かべた。満月の夜、手を繋ぎ、微笑みあった、あの時のメイだ。
自分がヴァシルスを追い払えなかった事、メイの命を守るためとはいえ王宮へ戻ると言った事、毎日後悔しているが、まさか自分が婚約するなんて。
今頃メイはアレムやシロと仲良く暮らしているんだろうか。
「一つ屋根の下か……」
ユラはピピを見つめて呟いた。
次回からやっと3人が王都へ向かって動き出します。




