ep.11 家づくりの魔法
川で溺れている少年、シロを助けたメイ。記憶喪失だというその少年には何か秘密がありそうで——。
「あのクソガキをどう思いますか? 記憶がないなんて……」
シロが家にきた深夜、メイとシロが寝静まった後、アレムはユラの部屋を訪れた。ユラは蝋燭の灯りを頼りに魔道書を読んでいた。
「シロのこと?」
「ええ」
アレムはユラの横に立った。
「僕はね、魔法は科学だと思っているんだ。だから怪我を治す魔法とかも、治療法を学べば使えたりする。でも……記憶を戻す治療法って無いみたい。何らかのきっかけを待つしかないんじゃないかな」
「私は嘘じゃないかと思ってるんです」
「え? そもそも?」
アレムはユラに顔を近づけ、より小声になった。
「アイツの手下なんじゃないかと」
「ヴァシルスの? それはないでしょ。アイツが子ども嫌いなのは僕たちがよく知ってるじゃん。子どもを手下にする訳ないよ」
「そうなんですが……」
アレムはため息をつくと、部屋から出ようとドアノブに手をかけた。
「シロが魔力を抑えているから?」
ユラが魔導書を読みながら、サラリと言ったので、アレムは振り返った。
「気づいていたんですか」
「僕を誰だと思ってるんだよ。わかるよ、それくらい。解放すれば僕よりも強大な魔力の持ち主だと思うよ」
「やっぱり……」
「何か理由があるんじゃないかな?」
アレムは何かを思いついたというように、人差し指を立てた。
「子どもに変身しているのでは?」
アレムがそう言ったか言わないかの瞬間、ユラは部屋を飛び出した。メイが危ない。シロはメイと寝ると言って聞かなかったのだ。もしかしたらベッドで襲われているかもしれない。
足音も気にせずユラは階段を駆け下り、メイの部屋へ走った。扉を勢いよく開ける。
「メイ!」
ユラが叫んだと同時にアレムもやってきた。
「…………」
ベッドではメイがシロの顔を足蹴りし、ぐーすか寝ていた。シロは苦しそうな顔だが、ぐっすりと寝ているようだ。
「考えすぎましたね」
アレムが肩に、ぽんと手を置くので、ユラは顔が真っ赤になった。
翌朝、シロは首をさすりながらゆっくり起きてきた。「おはよう」と、3人は朝食をとりつつ挨拶した。
「オレ、明日からソファで寝ようかな」
シロが椅子に腰掛けてすぐそう言ったので、ユラとアレムは思わずスープを吹き出しそうになった。
「メイー!」
夕方、メイが庭で洗濯物を取り込んでいると、ユラが家の中で自分を探していることに気づいた。
「ユラー?どうしたの?」
窓を覗いて、ユラに声をかける。ユラはメイを見つけると、目を輝かせてメイの元へ走ってきた。
「ついに習得したんだ!家づくりの魔法!」
「ええ!?本当に?」
夕食の準備をしていたアレムとシロも、声を聞いてやってきた。
「できたんですか。家を作る魔法が」
「家を作る魔法って何?」
「まあ、みんな見てて。今から作って見せるね」
夕陽が木々を照らす中、4人は誰も踏み入っていないような、緑の生い茂った森の中を歩いた。家から少し離れた所で、「ここにしようかな」とユラは言った。
ユラは森の方を向いて杖を構え、深呼吸した。
「あなたのためにユラは毎晩、様々な魔道書を読み漁っていました」
メイの横に立っていたアレムが、前を向いたまま言った。
「あなたは、何が何でもこの魔法を取得してください。ユラに、ここまでさせているんですから」
アレムはユラを心配そうに見つめている。
シロはメイを見上げた。
メイは「わかった」と小さく言い、ユラの一部始終を見逃さないよう、小さく息を吐いた。
魔法で家を作れたとしても、彼らのように土地がないと無理だよなーと思いながら書いています。次回は家づくりではなく、視点を変えた回になります。




