ep.10 溺れている男の子
1ヶ月間の修行をこなし、魔力を引き出すことに成功したメイ。喜ぶのも束の間、川で溺れている男の子を発見し——。
「これに掴まって!」
メイは走りながらワンピースの袖を自分の手に巻きつけた。そして、裾の方を溺れている男の子に向かってを投げた。男の子は気づいたようだったが、手が届かず、水面を叩いてバタバタした。
「これじゃ駄目だわ」
メイは辺りを見回し、太くて軽そうな枯れ木を3メートル先に見つけた。ワンピースを投げ捨て、走ってその木を取る。そしてその木を男の子の手前に放り投げた。
「その木は浮くから、それに掴まって!」
男の子は必死に枯れ木を抱きかかえると、少しだけ落ち着きを取り戻した。
「うわーん」
「助けに行くから、待ってて」
メイは川に入り、ゆっくりと男の子に近づいた。
「もう少しよ。もう少しだからね」
メイは男の子に後ろから近づき、抱きかかえると、岸まで泳いだ。
「もう大丈夫。もうすぐ岸よ」
「かはっ……、はぁっ、はぁっ」
「よく頑張ったね」
「ふぇーん」
男の子はメイの胸に飛び込んでわんわん泣きじゃくった。メイは男の子の背中を優しくさすった。これだけ泣けるなら、大丈夫そう、良かった。嫌々やっていた読書や植物の観察が役に立ったのだろう。アレムに少しだけ感謝したい気持ちになった。
「メイー?」
遠くでユラの声がする。洗濯から戻らないから心配したのだろうか。
「ユラー!ここにいるよ!」
メイは崖の上に向かって叫んだ。男の子はそっと顔を胸から離し、メイを見上げた。
「お姉ちゃん、メイって名前なの?」
「そうだよ。キミは?」
「……オレは……シロ、かな。たぶん」
「え?多分?」
名前を悩んでいるように見える。何故だろう。
「よかった、ここにいたんだ」
ユラは川岸まで降りた。
「……あれ? どうしたの? その子は?」
メイと、抱きかかえている男の子がずぶ濡れだ。
「この子、さっき川で溺れてたの」
「ええ⁉︎ 大丈夫?」
ユラが近づくと、男の子は眉間にシワを寄せた。
「メイが助けてくれたから大丈夫」
「そっか……」
ユラは威嚇するような男の子の目に、少したじろいだ。
「ねぇ、メイ、オレのお嫁さんになってよ」
透けた衣服からわかる、メイの大きな胸に男の子が飛び込んだので、ユラはほんの少し悔しかった。
「誰なんですか? この汚いガキは」
メイとシロが玄関の戸を開けようとしたところ、半裸のアレムが背後からやって来た。
剣の鍛錬をした後のようだ。ユラが乾かしてくれる前のメイとシロのように、全身汗でビショ濡れだ。
「まさかこの家に入れるつもりか?」
「うん……、ダメ?」
アレムの視線が痛いので、メイはシロの肩を引き寄せた。シロはアレムを怪訝そうに見上げた。
アレムはそんなシロの目つきなど知らんというように、シロの顔をジロジロ見た。
「お前は誰だ? なぜここにいる?」
「オレは、シロ……。なぜってことは、わからない。オレ、記憶がないんだ。なんで溺れたのか覚えてない」
「名前はわかるのに記憶がない?」
アレムは眉間にしわを寄せた。アレムが怒鳴る気がしてメイは焦った。
「今! ユラが、記憶を戻す魔法はないか、魔導書で調べてるの!」
「そうだよ、おじさん。記憶が戻るまでここにいさせてよ」
シロはメイにピッタリとくっ付いて言った。
「それは許さない。今すぐ街へ行け。他の大人に頼れ」
「嫌だ!」
シロは案外、気が強そうだ。アレムの鋭い目つき、厳しい声にも動じない。
「それなら1人で暮らせ」
「——!」
メイは我が耳を疑った。
「なんて? 今なんて言ったの? アレム」
メイは肩を震わせた。
「1人で暮らせと言った」
「……何でそんなにアレムは冷たいの? 1人で暮らせって? こんな小さい子が? 頼る大人がいない子どもが、どれほど辛い思いをするか……」
メイはそう言って目に涙を浮かべた。シロを、昔の自分と重ねているのかも知れない。メイの力強い視線にアレムはひるんだ。
「……勝手にしろ」
アレムはそう言って、家へ入った。
次回はいよいよタイトルにもある、魔法で家を作ろうとする回です。




