二話 地獄の様な歩行
二話です。
はぁはぁ、息が上がる。もう駄目だ、そろそろ何処かで休みを摂らないとまずい。足の裏がじんじんとして痛い、食べる物が何も無いのでお腹がすいた、そして普段はこんなハードな運動なんてしないのにいきなりこんなに体を動かしたので疲れた。まさに三拍子揃っている。
急斜面を登り始めてから三時間、俺は小川に出た。小川の水は美しく澄んでいて飲めそうな雰囲気がある。念願の水だ。本当はお茶が飲みたいがそんな贅沢なんて言っていられないという現状に悲しみを覚える。お茶が飲めない。ただ、それだけではなく安心して水を飲むため、水を温めて沸騰させることすら出来ない。そんな簡単なことすら叶わないなんて悲しい。
この川の中に魚はちゃんといた。しかし、俺には魚を捕ることが出来ない。例えば魚を釣るという方法。しかし魚を釣るための竿がない、糸もない。自然の物を使い、どうにかして釣り竿を作れたとしても、肝心の餌がない。川に入って魚を捕まえるという方法もある。しかし魚は早い。とてもじゃないが俺には出来ない。俺は熊みたいに素晴らしい技術なんて持っていないからだ。熊は意図も容易く魚を捕っているが、普通の人間には出来やしない。熊って本当に凄いんだなぁ。俺は今、熊を心の底から尊敬している。
この日の夕食は結局、水を湯飲みですくって飲んだだけだった。食べ物が全く無いというのは悲しい、そしてひもじい。むなしい。そしてお茶が恋しい。
湯飲みで掬い取った川の水を飲み、足の休ませていると辺りが少しづつ暗くなってきた。時間が気になり、懐中時計をみると七時辺りを指していた。それが意味することは、悲しいことに野宿をしなければならないことだ。あ、野宿するのか。そんなことに今さら気づいた。夜に動き回ると非常に危ないから先へ進むことも出来ない。そうなるとこの小川の側で野宿するのがまだ一番安全だ。
俺の考えではもう家に帰っているつもりだった。……あれ、何で俺は上に登っていたんだ。俺の家は別に山の頂上にある訳でもない。ならば普通下に降りていくだろう。……俺の間抜けさに深い悲しみを覚えそうだ。ただもうここまで来たら頂上まで行ってここら一帯を見渡そう。そうすれば何処に行けば良いか分かるだろう。
明日の方針も決まったので、今日はもう寝よう。しかし、俺は正しい野宿の方法なんてほとんど分からない。夜寝る前には火を起こせばいいことは知っている。だがしかし、火の起こし方は知らない。……いや、知っているが実際には出来なかった。やり方としては、木と木で擦り合わせて摩擦熱を起こし、その熱を使って燃えやすい物、例えば綿や紙のような物に着火させればいい。だが出来なかった。今までそんなことを練習したこともないので当然である。
どうしようもないので俺は、色々と考えながら横になった。明日は絶対に家に帰ろう。帰って秘蔵の最高級玉露を飲もう。それに、この間買ったとあるアクション映画の日本語吹替完全版コレクターズBOXもある。最高級玉露を味わいながら、映画を見て楽しむ。そんな至高の楽しみがあったのに何もせずに死んでなどたまるか。そんなことを考えていると相当に疲労が溜まっていたのか、あっという間に意識が飛んでいった。
どうか明日まで特に何事もなく、無事に起きられますように……




