忘れ去られた博物館
とある辺境にある石造りの建物。周りが苔や蔦で覆われているその長方形の大きな建物のひと際目立つ特徴は、カップケーキを思わせる形をしている中心部分。ドームになっている場所だ。そこだけはガラス張りになっていて、木で生い茂った森の中で異彩を放っている。
その建物は一体何だろうか? それは、忘れ去られた博物館だった。
「館長~、なんでこんなにも星が綺麗なのにここにはお客さん一人も来ないでんすか~?」
「そりゃあ閉館時間が過ぎているからだろう。いいから黙って掃除しろ」
その忘れ去られた博物館。しかし中は忘れ去られたという言葉は似合わない。磨き上げられた大理石、白く汚れの無い壁に止まる光の蝶、そしてなにより、柱も無く広がる展示室。少女と女性がいる場所、そしてガラス張りのドームの下にある展示品の数々。二足歩行の巨大な生物の骨格に、太古の海を支配していたとされる生物の骨格、古代文明の失われた道具の数々、過去の世界を求める者であれば誰もが釘付けにされるであろう品々が並んでいる。
「掃除もなにも、人が来ないんだから汚れませんって」
そんな展示品には目もくれず、少女は箒を持つだけ持って宙を見上げる。
ガラスドームの向こうに広がる数多の星々、その輝きに目を細める。
「お前がいるだろう。自分の汚れぐらいは自分で掃除しろ」
対して女性は展示品の前に立ち、手に持つ短杖を向けた。宙で輝く星のような光が、その短杖の先端に灯る。そして女性が杖を振るうと、先端から光が飛び出し、展示品を拭くようにゆっくりと飛んだ。
「そもそも、私はお前がここにいるのは反対なんだ。なぜならお前みたいな星好きが私に迷惑をかけた過去があるからだ」
「その人達とわたしを一緒にしないでください!」
「今日、ここ数十年で一番の迷惑に加え、今現在も迷惑をかけられているんだ。お前がここに来たことでな」
「なっ、それは館長がこの地図を処分し忘れたからじゃないですか!」
少女は懐から取り出した一枚の古びた紙を持って抗議する。
その古びた紙が、少女がこの忘れ去られた博物館へやって来てしまった理由だった。
「今すぐ燃やしてやろうかその紙を。嫌なら一生大事に二度と開くな」
女性が杖を少女に向けると、少女は慌てて紙を畳んで懐へ戻した。
「全く……なぜそれが残っているのか疑問だがそれより、お前は今日どうするんだ? この博物館にお前が寝る場所は無いぞ」
ちなみに、この二人が出会ったのは今日のことだ。そこそこ長い時間を過ごしているようなやり取りだが、今日出会ったばかりなのだ。
「えーっ! ここで働けって言っときながら寝る場所すら用意してないんですか⁉」
「当然だ。お前が働く理由は、壊した展示品の弁償のためだからな」
「それは分かってますし、こんな星が綺麗な場所で働かせてくれるのはすっごいありがたいんで一生働けますけど! っていうか館長はどうしてるんですか!」
少女は女性に指を突き付けた。今日出会ったばかりとは思えない蛮行である。
「私は館長であり魔女だぞ? 寝床の一つや二つ、どこにでもすぐに用意できる」
「じゃあその一つ分けてくださいよ」
「断る。言っただろ? 私はお前がここにいるのには反対なんだ」
「ただの私怨……!」
悔しそうに箒を握りしめる少女である。
「まあ、ここには誰も来ないんだ。ここは『忘れ去られた博物館』どこで寝るのも自由だ。そういうことにしといてやる」
さっきとは一転。女性は柔らかい声音で少女に言葉を伝える。
「ただし展示品には触れるな」
和らぎかけた少女の顔が一瞬で引き締まる。
「風邪をひかないように毛布だけは用意してやる」
そう言って、女性は少女を置いてその場から立ち去るのだった。




