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Proto:分断から繋がるこの世界での生  作者: 惰子兎/惰怯晴真
第一章 『恐怖に満ちた初日』

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第一章8 『クソみたいなスープとの交渉』

 ——この「賞金屋」にいる者たちの間で、取引は成立した。ディーゼルという名の男が仲間たちを連れて現れるという、クロードの約束とともに。その男はまだ姿を見せていない。


 彼が現れれば、日向は求めている答えをきっと手にすることになる。


「いいか、てめぇ。俺もマデリンも、てめぇのくだらねぇ事情に首を突っ込む気はねぇ。あいつがてめぇの外国の硬貨を引き取ったなら、探してる答えは間違いなく手に入るぜ」


「現金が使えないのは分かってるけど、全部持っていかれるのはマジで勘弁してほしいんだけど……。それ、普通に最悪じゃん。だって、もし私が元の世界に帰ることになったら? 一文無しになっちゃうし! ……ちょっと、そんな目で見ないでよ! 別にケチとかじゃないんだから、そういう目で見ないで! ってか、私のこと下に見たりしないでよね……」


 二人の視線に必死で狼狽える日向の様子と、頬を伝う汗を見て、クロードは呆れたように目を回し、手つかずのままの日向の食事をじっと見つめた。

 その視線の理由はおそらく、二十分以上も前に出されたこのクソみたいな食事に、日向がたった四口しか手をつけていないことにあった。正直、本当にクソみたいな代物だった。


 日向もチューリップも、自分の分を食べるのに苦戦していた。その酷い味のせいで、二人の顔はほとんど青ざめている。スープは吐き気を催すもので、それでもクロードが何も言わなかったのは、無理に食べさせ続ければ床に吐かれることになるからだろう。


「マジで、てめぇら恩知らずだな。腹を鳴らしておきながら、俺が作ってやった上等な飯に手もつけねぇとはよ!? まったく、とんだクソアマだぜ……。今この場で半殺しにしねぇよう、必死に堪えてるところなんだぞ!」


「——落ち着けって、クロード。ってか、これマジで美味いぜ、アネさん。何で気に入らねぇのか、俺には分かんねぇよ。俺とディーゼルは毎日これをガツガツ食ってるんだぜ! クロードは本当に料理が上手いんだからな!」


 左手に器を持ち、もう片方の手に食具を握って、マデリンは残りをかき込むと、飲み下してから、まるで世界一の御馳走であるかのように息を吐いた。その何気ない仕草に、日向は思わずえずいた。


「えー……私とチューリップは遠慮しとく。マジで、こんなクソよく食べられるよね……。あ、『クソ』って言ったのは褒め言葉だから。だって、クソ以下だし」


「おい、俺の儲けになるはずだったガキを奪っておいて、今度は俺の料理にケチつけやがるのか!? てめぇは本当にクソ野郎だぜ。今マデリンが庇ってやってること、ありがたく思いやがれ!」


 唾を飛ばして怒鳴るクロードに、日向は眉をひそめ、盛大にしかめっ面をして片目を細めるという、嫌悪感丸出しの表情を作った。そして目の前に並べて置かれた、中身の詰まった二つの器を見下ろす。片方は自分の分、もう片方はチューリップの分だ。


 この料理は悪しざまに言われて当然の代物で、見ているだけで目が焼け落ちそうなほどだった。どろりと粘ついた物体で、見た目は糞そのもの。手渡された器はろくに洗われておらず、目に見える汚れがこびりついている。喉が拒絶反応を起こすたびに日向は「ぐっ」と噎せ、八分かけてやっとスプーン半分を口へ運べるという有様だった。

 水も勧められ、チューリップにも同じものが差し出されたが、二人とも断った。見た目は透き通っていても、どうせ料理と同じくらい酷いものだろうと思ったからだ。一方、隣のマデリンはクロードにおかわりを二杯、三杯と要求し続け、勧められたのと同じ水で喉を潤していた。今の時点で、五杯ほど平らげている。


 日向はクロードのほうへ向き直り、その姿を上から下まで眺めた。だが返ってきたのは、蔑むような視線だけだった。


「何で一杯でやめてるわけ? もしかして小食なの? デブなのに小食って、どういうこと? 意味分かんないんだけど」


「ふざけたこと抜かすな、このクソガキが! もう腹が減ってねぇだけだ! だいたい、てめぇには関係ねぇだろうが!」


「——ああ、分かった気がする……。この食事の前に、前哨戦の食事をしてたってことでしょ? 今お腹すいてない理由なんて、それしかないじゃん……。ねえ、その前哨戦、何杯食べたの? 八杯? それとも二十杯?」


 からかっているだけのように見えて、日向は本気で、あからさまに侮辱していた。この太った男への好感度が地の底なのだから当然だ。日向は指を突きつけ、負け犬でも見るような目で睨みつけた。


 侮辱にうんざりしてきたクロードは、拳を握りしめてカウンターへ叩きつけ、唸り声を上げた。それから怒りに燃えた顔で、カウンターの裏へ手を伸ばし、ワインらしき瓶を一本、その上へ置いた。

 日向へ向けられた殺意のこもった目つきのまま、クロードは瓶の栓を抜き、それを頭上へ掲げると、紫がかった液体を口の中へ流し込んだ。液は顎にも頬にも飛び散った。


「おい、マデリン。てめぇも飲むか?」


「あぁ? おお、飲む飲む!」


 クロードのワインの誘いに、マデリンはすかさず身を乗り出して瓶をひったくり、口元へ傾けた。だが唇に触れたその瞬間、二人はふと日向のほうへ目をやり、こちらへ向けられた咎めるような視線に気づいた。


「何だよ」


「あんたたち、お酒飲んじゃだめじゃん。未成年でしょ。違法だし。賞金稼ぎな上に、これでもう二重に犯罪者だから」


 日向の淡々とした、いかにも知ったふうな口ぶりに、クロードとマデリンは眉をひそめ、それから顔を見合わせた。どういうわけか、日向の言っていることがまるででたらめであるかのような反応だった。この二人の育ちの悪さのせいで、社会の法律にも疎いのだろう——日向にはそう推測することしかできなかった。

 沈黙がさらに数秒続いたあと、二人は視線を日向へ戻した。どうやら、日向の言うことが正しいと気づいたらしい。


「何の話だよ、アネさん。俺はもうとっくに大人だぜ——とっくにな。俺の知る限り十六だ! だから未成年なんかじゃねぇ。うるさく言うんじゃねぇよ」


 自分の年齢を、いかにも自信たっぷりに、自分の言っていることが正しいと分かっているかのように宣言したマデリンを前に、日向は首を傾げ、顎に指を当てた。

 ここは実際に別の世界なのだから、常識が違うことくらい当然分かっているべきだった。とはいえ、あの年頃の子どもが酒を飲んで路上で酔っ払うなんて、さすがに眉をひそめられるものだろうと思っていたのだ。


 それから何かを思いついたように、日向は黒い眉をわずかに上げた。


「待って、ここって何歳から大人なの?」


 ちょうどマデリンが酒瓶へ舌を突っ込んでぐるぐる回しはじめたところでその質問が飛んできたので、マデリンは吸いついた唇をぽんっと音を立てて瓶から離し、そんなことも知らないのかという目で日向を見た。

 それから、右手の指を五本立ててみせた。


「十五歳だ。何だ、あんたはそれ以下なのか? 正直、そう見えるぜ」


「——待って、私十五だし! ってことは、ここでは合法的に車を運転できるってこと? ってか、あんたが私より年上なのがマジで恥ずかしいんだけど……」


「車ってのが何なのか知らねぇが、蛇引き馬車なら腕さえありゃ何歳でも動かせるぜ。十五未満で金を取ってやらねぇ限りはな」


 クロードの返事を聞いて、日向のピンク色の唇から小さく「あ……」と漏れた。


 聞きたかったことがすべて解消されると、残りの時間は黙って過ごすことになった。日向は会話が得意なので、当然この場を明るくすることだってできたはずだ。当然。だが今は、この二人に話したいことなど何もなかった。


 マデリンとクロードは酒瓶を回し合い続け、日向は膝の上で黙り込んでいる少女の髪を撫でていた。だがその沈黙も、扉を叩く音が部屋に響いた途端に消え去った。


 ノックからほどなくして、警戒の気配が日向の鼻先をくすぐった。おそらくそれは、ゆっくりと立ち上がってカウンターの裏から小ぶりの刃物を掴み取ったクロードから漂うものだったのだろう。いつでも振り下ろせるよう肩の上に構えたまま、クロードは扉へ耳を寄せた。


「誰だ、そこにいんのは」


「——俺だ」


 扉の向こうの人物からその返事を聞いて、クロードは警戒を解き、扉を開けた。そして扉が開いてから一秒も経たないうちに——


「よう、戻ったぜ。二人とも待たせて悪かったな。ここへ来る途中で、賞金首に興味があるって女に声をかけられてよ。あんたらのいる場所を教えといた——仕事を回してやったってわけだ。もうすぐ来るぜ」


 男は感情のかけらも見せずにそう言うと、クロードには目もくれずその横を通り過ぎた。ずいぶん偉そうな態度で、日向はうんざりした。

 背の高い男で、紫色の髪は中くらいの長さだった。顔には大きなたれ目のオレンジ色の瞳が収まっていて、その顔じゅうに傷跡が走っている。痩せていて、日向とチューリップを除いたここにいる全員と同じく、服はぼろぼろで薄汚れていた。


 それでも見た目は若々しく、二十代半ばくらいに見えた。


 三人の姿を見比べて頭の中に並べてみた日向は、突然、吐き気の波に襲われた。——長身で痩せ、太っていて、それから背が低い。まるで九十年代のありがちなアニメに出てくる主人公三人組だ。

 ようやく何かに視線を定めたその紫髪の男——「ディーゼル」としか考えられない男は、訝しげな表情で日向を見た。それから、その隣に座っているマデリンへ目を向けた。


「こいつは誰だ? 賞金稼ぎの手伝いに誰か雇ったのか?」


「いやいや。アネさんはあんたに用があるんだよ、だからここにいるんだ。外国のもんを持ってるんだぜ」


「外国のもん」という言葉を聞いた瞬間、それまで無表情だったディーゼルの顔がぱっと明るくなり、わずかな喜びが覗いた。


 日向もその視線を受け止め返し、頷いた。


「タダで物をくれるつもりはねぇんだろうし、交換ってことか? で、あんたは何が欲しいんだ?」


 片目をつぶり、講義でも始めるみたいに指を一本立てて、日向は言った。


「街の道案内をしてほしいの。この子の親のお店を見つけたいから」


 そう言って差し出すように、日向はチューリップの腰の両脇を掴み、左右へ軽く揺すってみせた。ディーゼルはたれ目の視線をチューリップへ細めて眉をひそめ、それから困惑した顔で日向を見上げた。


「……王都の道が分からねぇなら、通りすがりの奴に聞けばよかっただろ……。それなら完全にタダだったのによ……」


「——うるさい! 嫌だったの、それだけでしょ!?」


 全部自分一人でやりたかったから——その理由を認めるのが、日向にはあまりにも恥ずかしすぎた。



                △▼△▼△▼△



「よし、私が持ってるのはこれ!」


 汗を顔に伝わせながら、日向は緊張した様子でそう言った。自分の交渉能力は一流だと日向は分かっていた。なにしろ、厳しい駆け引きが出てくる映画をたくさん観てきたのだから。最後には絶対に勝てる、そう確信していた。

 そして日向は、自分とディーゼルが着いているテーブルへ財布を置いた。その向かいには、ディーゼルが肘をゆるく突いて座っている。


 少し前に、日向は賞金屋の奥のテーブルへ移ることを提案していた。理由は、クロードを警戒しつつ、チューリップを自分の目の届くところに寝かせておきたかったからだ。

 日向は眠っている少女を近くのテーブルへ横たえ、毛布の代わりに自分のパーカーを掛けてやった。


 ディーゼルはテーブルに並べられたものをじっと見つめた。そのたれ目のオレンジ色の瞳には、衰える気配のない好奇心が宿っている。日向がこれから見せようとしている外国の品を、じっくり観察したくてたまらないようだった。その熱意は、落ち着いた物腰の裏に隠されていた。


 それからディーゼルは、ほんの一瞬だけ、隣のテーブルで眠っているチューリップへ視線を移した。


「あのガキのこと、ずいぶん気にかけてるんだな……。まるで母親みてぇだ」


「そう言われるの、あんたで二人目なんだけど……。私はただ優しくしてるだけ。当たり前でしょ、私は心根がまっすぐなんだから。ってか、それより大事なのは、あの子を親に返してこのクエストを終わらせることなの。さっさと進めよう」


「ふん、分かった」


 痩せた男は目を閉じたまま頷き、手で日向を促して、品物を見せるよう合図した。


 その背後では、マデリンとクロードが人生でいちばん静かにしていた。二人なりに、うまくやっているらしい。貧しい人間同士は自然と仲良くなるものなのだろう、と日向は推測した。


 さっきテーブルへ置いた財布を掴むと、日向はファスナーを開け、中身を一気にテーブルへぶちまけた。前回と同じように、札束も会員証もデビットカードも、そこらじゅうに散らばった。

 それらを整理しながら、日向は一万円札を一枚ディーゼルへ手渡した。ディーゼルはそれを念入りに調べた。


「これは……?」


「外国のお金だよ! 感心したでしょ? そのお札に描かれてるのは、日本の資本主義の父なの。私の故郷で会社とか団体をたくさん作った人だよ」


「なるほどな。どこの国のものなんだ?」


 答えられない質問をされて、日向は言い訳を考えながら視線を逸らした。

 この紙幣が「日本」という未知の国のものだと、正直に言えるわけがない。そんなことを言えば、この世界に「日本」など存在しないのだから、偽札だと思われて取引を断られるのが関の山だ。


「えっと、その……はるか東の国のもので、私もそこの出身なの」


 できるだけそれらしく聞こえるように言った日向の言葉に、ディーゼルは数秒間、無表情のまま彼女を見つめ、それから目を細めて札へ向かって頷いた。

 こんなものは見たことがなかったので、ディーゼルは一万円札の隅から隅までを検分しはじめていた。その放つ空気からして、日向の安っぽい言い訳を信じてはいないようだった。だが幸いなことに、興味のほうが疑念を上回ったらしく、ディーゼルは口をつぐんだままでいた。


 勝ったと悟って、日向は緊張の残る勝ち誇った笑みを浮かべ、顔の汗を拭った。


「こいつは収集価値がありそうだな……。ほかのもんも見せてくれ」


 ——チンピラみたいな喋り方するのに、そこまでチンピラっぽくないんだよね……。


 その求めに応じて、日向はさっき別々の山に分けておいた残りの品を滑らせて差し出した。テーブルの上、自分のほうへ押し出された品の山々に、ディーゼルは虫眼鏡でも覗き込むように目を細めた。


「……こいつら、どれも妙な記号だらけだな。おまけに変な絵まで描いてある」


「——え? それって外国のものだって証拠じゃん。むしろいいことなんじゃないの?」


 ディーゼルが手にしていたのは日向のデビットカードだった。どれにも彼女のフルネームが刻まれていて、それに漫画みたいなデザインの会員証が交ざっている。その表情は、不快と喜びの間で揺れていた。何を考えているのか読めなくて、日向は吐きそうなほど緊張したが、腹に力を込めて必死に堪えた。


 それからディーゼルは顔を上げ、テーブルへ肘を突いた。


「よし、こいつらは俺のコレクションに加える価値があると思う。全部もらおう」


「全部!? どんだけ強欲で自分勝手なわけ——いい、いいから! 好きにして、持ってって」


 一瞬爆発しかけてすぐに自分を落ち着かせると、日向は腕を組んで大きくため息をついた。それから今の沈黙を晴らすために、片眉を上げてディーゼルを上から下まで眺めた。


「で、あんたってさ、錆びるまで物を溜め込むタイプなわけ? それとも……?」


「ん? ああ、単純な話だ。大半は自分のもんにして取っておく、そりゃそうだ。だが残りは、たいていスラムの連中と交換するのさ」


「じゃあ実質ギャンブラーじゃん。賭け事なんてよくないし、無責任だよ」


「まあそう言ってもいいな。スラムじゃ収集家も盗人も、ありとあらゆる連中が——交換できるもんを持ってる奴なら誰でも——奥まで潜り込んで、金だの物だのと引き換えに互いに競り合うんだ。スラムってのは安全地帯でな、王国があんまり目を向けねぇ場所なんだよ。だからクロードとマデリンがあそこから移ろうって決めた時は、ちょっと寂しかったぜ。それと、何か大事なもんを失くしたら、大抵はあそこにある」


 その説明に日向が頷くと、ディーゼルは「よし、それじゃあ」と言って立ち上がり、カウンターのほうへ歩いていって、その裏から何かを掴み取った。かさかさと音がした。それからテーブルへ戻って、また腰を下ろす。

 掴んできたもの——少し皺の寄った紙を広げてみると、それはどうやら地図のようなものだった。当然、これが王都と呼ばれる街の地図なのだろうと推測するほかない。だが、ひどく未完成で、粗雑な代物に見えた。


「あんたが探してるのは店だろ? なら商業区だな。この辺だ」


 ディーゼルは地図の一点を指した。そこは建物が立ち並んでいる区域だった。


「あのガキが親と一緒にいるのは前に見たことがある。だいたいその辺のはずだ」


 それから小さな地図を日向のほうへ滑らせてよこし、受け取った日向はじっくりと目を通した。そして頷くと、地図を丸めてポケットへしまった。

 ほかの話が始まる前に、部屋の静けさはまたしても、突然響いた三度の鋭いノックに破られた。当然のように、全員が同時に扉のほうを見て、それからディーゼルへ視線を移した。


「ああ、あんたらのために取ってきた客だろうな、マデリン、クロード」


「本当か? 誰を連れてきたのか見てやろうじゃねぇか」


 座っていた丸椅子に腰を据えたまま身体だけを扉のほうへ回してから、マデリンは椅子から飛び降り、気楽そうな足取りで扉へ向かった。

 だがその気楽さとは裏腹に、クロードは立っていたカウンターの裏から適当な刃物を掴み取り、慎重にその刃を確かめていた。意外なことに、自分がまだ殺されていないのはクロードのおかげなのだろう、と日向は推測するほかなかった。


 クロードが手にした刃物は鉈に似ていた。ずいぶん錆びついていて切れ味も鈍そうだったが、使えないわけではない——一振りで致命傷を与えられそうに見えた。長さは日向の腕と同じくらいだろうか。


 ——デカい男にはデカい武器が要るってことか……。私もこの世界にスポーンした時、武器くらいもらいたかったんだけど。


 多くのRPGでは、スポーンした時に切れ味の悪い初期装備をもらえるものだからだ。


 ディーゼルと日向は、招き入れられようとしている人物をよく見ようと、身体を少し傾けてひねった。今は店の奥にいるので、しっかり見るのは少々骨が折れた。


 マデリンが扉を開けた相手は、美しい女だった。いや、出るところがすべて出ているその曲線を考えれば、「色っぽい」の部類に入ると言ってもいい。それでも、最初の言葉が間違っているわけではなかった。

 かなり背の高い女で、日向の見立てでは百八十センチほどだろうか。黒い瞳は鋭く目尻が吊り上がっていて、普通に思い浮かべる類いのものとは違う、独特の幸福感を放っていた。肌も異様なほど白く、日向は思わず息を呑んだ。


 女の水色の髪は肩まで届いていて、短く刈り込まれたその形は、日向の世界でウルフカットと呼ばれているものに似ていた。

 それから日向はその服装を検分したが、かなり挑発的で、そして奇妙だった。


 女はロイヤルブルーのマントを羽織り、上のほうだけを留めていた。挑発的なのは、そのせいで襟から下がすべて見えてしまっているところだ。黒いぴったりとした衣装を着ていて、大きな胸が目立っている。それに黒いハイウエストのショートパンツ。

 だが奇妙なのは、腰に巻きつけられた棘つきの金属の鎖だった。もう少しきつく締めれば、皮膚を貫いて、おぞましいほどの血が流れ出すだろう。


「よし! あんた、俺とクロードに用があって来たんだろ? 誰を探してほしいんだ、で、いくら払うつもりなんだ?」


 女をカウンターへ案内しながら、マデリンはさっきまで座っていた丸椅子に腰を下ろし、女は日向が座っていた丸椅子に腰かけた。それでも、その黒い視線は時折日向のほうへ向けられ、値踏みするようにそこへ留まった。


「わざわざ動いていただく必要はないわ。私が見つけてほしかった人なら、あなたたちはもう見つけているのだもの。だからお二人には、きちんと相応の報酬をお支払いするつもりよ」


 女は落ち着いた口調でそう言った。マデリンとクロードがすでに目的を果たしていることに、明らかに満足している様子だった。二人の賞金稼ぎは困惑した視線を交わしたが、金の話が出た途端、その顔にはすぐさま狡猾な笑みが浮かんだ。


「俺たちが何をしたのかさっぱり分からねぇが、そっちがそうやって金を出すってんなら、断る理由もねぇな」


 そう言って、マデリンは報酬が手に置かれるのを待ちながら、女へ向かって掌を差し出した。

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