【第812話:ふぁーすとすてっぷ】
ラウメン大陸南山脈の外れにダルバシェという古い鉱山街がある。
その成り立ちはミラサネル共和国の建国前、アヤンタ王国の植民時代に遡る。
当時需要の膨れ上がる鉄が出ると、アヤンタ王国はこの地に鉱山を開いた。
山がちな土地なので林業も興しづらく、南東の岬にあるわずかな平野部に工場と、燃料になる林業の誘致を帝国は推進した。
これが後にミルザーンという工場街になり、大きな港も開かれた。
この山間と半島では住民を支えきれなくなり、さらに北に湖と森林を伴った平原を見出し、ここにも街ができる。
アズラミールと呼ばれるようになったこの街が工場街ミルザーンと鉱山街ダルバシェをさらに発展させていったのだ。
そうして3つセットの様にある街を守るのはミルザーンの岬にある軍港。
ここには帝国軍が一艦隊駐留している。
現在の帝国にとっても鉄は必要な資源だし、このダルバシェでは合わせて近場に銅鉱脈も散在している。
銅は工業的にも必須となる資源で、帝国にはあまり産しないものだ。
ミルザーンは鋳物と精錬の工場が多く、平地が殆ど残っていない。
そのためミラサネルはこの地を防御拠点とするために、コストをかけて岬の突端に砦を作っていた。
その砦は先日の戦争で無血開城され、そのまま帝国の所有と成っている。
石材で組まれた古風な砦だが、据えられる火砲は帝国軍の最新鋭滑空砲だ。
近接信管も備える対空砲としても使える口径10cmの砲を針山のように据え付けている。
その砦に伝令が駆け込んできた。
「緊急であります!」
本土で宣戦布告じみた宣言も出しているので、各地の司令には厳重に警戒と指示が出ていた。
「どうした?」
落ち着いてお茶など嗜んでいた、駐留司令は報告を促した。
本国では大騒ぎらしいが、この南の海の砦は平和でのんびりした気風と成っていた。
「だ、ダルバシェが‥‥無人であります‥‥」
「はぁ??」
山脈に沿ったダルバシェにはそれこそ鉱山と港しか無いので、帝国軍は常駐せず日に一度の視察だけをしていた。
だまっていても毎日輸送艦は動いているので、視察もおざなりだった。
「自分の隊が当直でしたので、先程ダルバシェまで高速艇で視察に行ったのですが‥‥」
司令は軍人だろうはっきり報告しろと思ったが、ふと思い至った。
「ま、まさか?」
少し前にダルバシェの鉱山でストライキがあったのだ。
聖王国の鉱山ルーディアとの待遇の差に、苦情が殺到しているのだと。
威嚇射撃までして収めたが、彼等がそこを去ったなら向かうだろう場所が思い当たった。
「だが‥‥いったいどうやって」
ダルバシェから聖王国の鉱山都市ルーディアまでは崖が切り立つ海岸続き。
徒歩で向かうには厳しすぎる山脈の中だった。
ルーディアでの記者会見を済ますと、そのままヴェスタ達はヤオンスラウミナスに移動する。
マナミ達スパイラルアークⅡチームも一緒だ。
聖騎士達の機体も全てこの空母に搭載してあるので、ここから出撃できる体勢。
式神七式とスヴァーレイクなら本気で飛べば数分で大陸を横断できる。
航続距離も気にしなくていいので、大陸全域がカバーできる。
「まずは邪魔な奴らをなんとかしないとね」
ジュノもにっこりと笑い、しゅるんとハードヘルメットまで被る簡易外装。
普段のごつい外装はシフト収納してある。
とんと身軽に飛び上がると、戦闘機形態のスヴァーレイクに乗り込んだ。
「必要最低限ですよ!ジュノ」
アイカが心配そうに声をかける。
ぐっと親指を上げると、ぱかんとコックピットが閉じる。
AR表示されるのでジュノからは全周囲の映像がみえるはずだ。
外側に窓はない。
左側に大きめのシールド、右側にはスマートライフルが全長を越える長さで搭載されている。
重力制御のあるティア8以上では重量バランスをあまり気にせずとも飛べる。
戦闘機動時には不利になるので、ある程度はバランスされた配置。
スヴァーレイク達はVTOLできるので、カタパルトを必要としない。
音もなくふわりと舞い上がり、上空で長大なジェットを吹き出した。
ごぉおぉぉぉ!!
直ぐに音速を超え白い衝撃波をずばんと散らし西に飛び去った。
恐らく間を置かず攻め込んでくるだろう帝国艦隊への切り札として、シャラハのアクメリウーデンに行ったのだ。
ヴェスタ達は必要だったらあの補給港も攻撃する許可を出していた。
おそらくシャラハのことなので、着く頃には事が済んでいるかも知れない。
リステルとマナミが、スヴァーレイクと式神で続いて発艦。
リーベとメーナは水中をスパイラルアークⅡで追いかけていく。
ミラサネル艦隊の援護に向かったのだ。
アイカとアイ達はこのままヤオンスラウミナスの直掩機だ。
今この空母には2万人もの鉱夫達が乗り込んでいる。
かなり狭い思いをしてもらっているが、甲板の上にまであふれて、一度でダルバシェから希望者を全てルーディアに運んできたのだ。
次々と港に下りて行き、鉄道でルーディアへ移動してもらう。
受け入れはセイラシュ達が担当してくれている。
まだしばらく下船に時間がかかるので、ヤオンスラウミナスはここに釘付けだ。
ダルバシェから発艦済みのルクール達が今頃仕事を始めているだろう。
ミルザーンの岬砦を押さえに行ってもらっている。
あの軍事的にも要衝となる地を押さえれば、聖王国やミラサネルとしては動きやすい。
こうしてラウメン聖王国は初手から全力で動いた。
あの会見に向かうよりずっと前から準備を進めていたことだった。
目障りな帝国は、すぐに大陸から追い出してやろうと。
西の補給港と東のミルザーンは即時陥落。
北の帝国の町ソルヴァを同じく占領し、マリナスの沖合をサラディクの岬へ向けてサーライン率いる北軍が東へ見せつけるように動く。
ソルヴァは手薄にし、マリナスから兵が動けば都合が良いと開けている。
直接攻めずとも本国との連絡だけ断ち切ればいい。
湖畔都市エゼリアの聖騎士隊が航空部隊でスクランブル対応し、飛んでくる航空機は全てインターセプトする。
今頃カルサリクの空港を事実上封鎖している頃だ。
空路をそうして塞いでしまえば、海路をこじ開けずに本国とは連携できない。
つまり邪魔にはならなくなるのだった。
このラウメン大陸に駐留している数万の帝国軍を、初日の動きだけで封じ込めてしまった。
これで本国から来る艦隊だけに集中できるのだった。
「ヴェスタは大丈夫かな‥‥ユーリアも一緒だし‥‥平気だよね?」
アイカはここを離れられないもどかしさを感じる。
実際には飛んでいけばすぐ援護はできる。
ヴェスタはアヴォリアの防衛に行ったのだ。
今は沈黙しているアウレリアの手が入ったケイオ族を警戒して、リシュアナ達の護衛に行っていた。
今度はホログラムではなく、本物の使徒がお相手しますと。




