【第810話:そこに見せつける意思】
ざわざわとしていた会場には奥の一面に演壇が設けられ、入場者には向かい合うように仮設の席が与えられていた。
あまり座り心地のよい椅子では無いのだが、記者達はそれ以上に張り詰めた緊張で体を固くしていた。
華美ではないが十分に材料を選び造られた巨大なホールは、100名分の椅子を十分に間隔を取って並べていた。
品のよい装飾も含め、どこの王室かという仕上がりのホールだ。
特に案内はなかったが、奥から聖騎士の衣装に身を包んだ少女達が現れた。
今日は正装なのか細いサーベル状の短剣を腰に釣っている。
特に禁じられてもいないので、ざわりと言葉が溢れた。
合計12名が入室するとざわめきが大きくなる。
――あ‥‥あれはリステル様では‥‥マナミ様も‥‥
ミラサネルの記者がこらえきれず、中央の青いラインの聖騎士に目を据え、言葉を漏らした。
各国記者も覚えがあるものが居たのかざわめく。
丁度中央あたりが身長が高く、リステルの両脇にマナミとリーベ。
その外側にルクール達、ユーリア、アイ達と並ぶ。
同じ入口から最後に3名新たな人影が入ってくる。
先頭の金髪の少女はゆったりしたトーガのような白い衣装。
続く白い制服は、各国でも聖騎士のものと認められているミニスカートの軍服だ。
聖騎士達を後列左右に従えた3人の外側ニ名はジュノとアイカで、白いバナーを掲げる。
金糸で縁取るバナーには聖句が紺色に書かれ、神威を読み取れるものには黄金に輝いて見えただろう。
情報が溢れすぎてざわめいていた会場がしんと静まる。
大人しく立っていたジュノとアイカがそれぞれ威圧の気配を放ったのだ。
ごうごうと吹き下ろした殺気と魔力が、歴戦の記者達をすら黙らせた。
「皆様初めまして」
静かに中央に立つ白い衣装の少女が話し始める。
その聖騎士を従えた姿は、アルドゥナに住むものなら一度は目にしたことの在る姿。
絵本の中に。
宗教画の中に。
「わたくしがラウマ様の使徒。ヴェスタ・ラウミナス・レガリア・エル・セレスです」
会場を静けさが支配する。
なにも説明されずとも、誰しもが受け取った誇り高く清浄なる気配。
その堂々とした語り口に疑いを向けるものは居なかった。
自分たちは今正しく伝説の中にいるのだと。
左右に従えた聖騎士の圧力はもう感じることがなかった。
その中央にこそ、今奇跡があるのだと受け取る。
滔々と聖句を唱えるように宣される言葉達。
レコーダーを聞き返すまでもなく、記者たちの心に染み渡っていった。
帝国の発表は悲しい誤解ですと始めた。
こちらにも被害があったのだし、ヴァルサール帝国でもラウメン聖王国でもないものの犯行と断言する。
だんだんとキラキラする光が強くなり、ヴェスタは輝くような黄金に包まれる。
聖王国はその仕掛け人達を決して許さないとも宣する。
いつも柔らかな笑みを浮かべるリーベやルニーアまでがきりりと気迫をこめた瞳で居た。
この少女たちが異能の戦闘力を有するとはもう周知の事実だ。
ルクール達が表でも力を見せてきたし、聖王国は隠そうともしないで魔法も見せるから。
伝説では、細身の少女は片手で騎士姿だったシャラハ将軍を持ち、空を飛んだのだ。
大げさなと大半の人間は思っていたが、吹き下ろすアイカの魔力を感じ取れる魔法士には、人間の持つ魔力とは桁が違うと認識された。
武道の心得の在る者は、隠さず注がれるジュノの気迫に震え上がった。
そうした中で帝国の誤解を解く準備が在ること、攻め込まなければこちらから手出しをしないことをまず告げた。
「ただし‥‥」
再びざわめき始める会場を使徒ヴェスタの声が断ち切る。
気配が変わったと、記者たちにも見て取れる。
「わたくし達の国に敵意を向けるものには、一切容赦しません。聖王国の力をお見せします」
りんと断ち切るような言葉は、荒ぶることはないが王族の貫禄と気高さを見せた。
少し見下ろすエメラルドの瞳は煌々と光を放っており、記者達は眩しさに目を細めた。
中に何人かいた魔法士たちは思わず息を呑む。
あれは魔力ではないと。
ヴェスタを包む光は、何か別の位相から溢れているようだった。
「女神様の敵には聖騎士が全力を持って力を示すでしょう」
ヴェスタの言葉にシャキンと抜刀する後列の聖騎士達。
かつ、とジュノとアイカがバナーを掲げるスピアの石突を突くと、ぶんと音を漏らし水色の光が漏れる。
バナーの上の刃が展開し、十文字のプラズマを1mも吹き出す。
槍はリステルのものと同じプラズマランスだった。
聖騎士達の胸前に掲げた短剣が展開し、これも長大なプラズマの炎を天に吹き上げた。
声もなくふるえる記者達。
かつ、とジュノ達が再度スピアを立てるとプラズマは消え、聖騎士達もしゃきんと納刀し不動の姿勢に戻る。
そうして伝説に在る聖騎士は、真実の存在だと信じられるだけのものを見せるのだった。
「最後に頼もしい将達を紹介しましょう」
圧力が下がり、我知らずふぅと息をもらした記者たち。
ちらと入ってきた袖をヴェスタが見ると、靴音も頼もしく大きな体が2人並んで歩いてくる。
達人の歩みは、打ち合わせなど無くとも揃った靴音を響かせた。
ジュノとアイカの外側に立ったのは、北方の血を残す190cmを越える赤褐色の巨人達。
白い聖騎士隊の制服に準じた将官のきらびやかな軍服だった。
腰には揃いのサーベルを釣っている。
「な‥‥」
「しゃ、シャラハ将軍‥‥」
帝国の記者は絶望に青ざめる。
「サーライン子爵‥‥」
「そんな‥‥」
アヤンタ王国の記者も、信じられないといった視線。
かつんと石突を突き、ざわめきをジュノが止める。
言葉はないが、それだけでしんと静まった。
ヴェスタがふわりと微笑み続ける。
「ご紹介しましょう。女神様の守りに新たに加わってくれた聖騎士隊の将。シャラハとサーラインです」
こくと会釈だけする2人が半歩進み出て、ジロと記者席を眺め下ろす。
聖騎士も使徒も小さかったので、その大きさの差がすでに圧力に感じる。
「恐れ多くも使徒様にご紹介いただいたシャラハ・ホークだ。かつての同胞には申し訳ないが、聖王国に弓引くのなら容赦しないと伝えろ」
眺め回し、じっと最後に見つめたのは、帝国の記者達だった。
老いてなお壮健な青い瞳には力が在る。
「同じくご紹介に預かりましたサーライン・サルディアだ。父の無念も忘れてはいないぞと、サーラインが言っていたと伝えたまえ」
いつも穏やかな表情のサーラインが、ぎりと眉を上げた武人の表情。
英雄たる父ナラインは帝国との戦いで倒れたのだ。
これにも帝国の記者は震え上がるのだった。
こうしてラウメン聖王国は、帝国の非難を宣戦布告とは受けない。
ただし今後も侵略には全力で抗うと宣するのだった。
その裏でヴェスタ達はオリジナルにも情報を発信する。
もう隠れる気は無いぞと。




