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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第3部 第20章
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【第766話:後始末と準備を】

 サルム族の生活はとても貧しかった。

北のラディンや東のハザル達の住んでいる土地にはあった、実をつける植物が少ないのだ。

その実に育まれる小動物も少ないので、南部は砂漠化が進み生態系が衰退を遂げていた。

まだ作りかけだけどと、聖アヴォリアのほとりに作った街に強制的に連れてきた。

アイトリースの式神七式も使い、移動用のコンテナを持ち込みナロンと2人でピストン輸送した。

緊急搬送だと、アイトリースは慌てていた。


 なんだか元気がなく、ふらふらとして歩くサルム族の皆を心配して、アイトリースはアイカを呼び出していた。

(ままぁ‥‥この人たち死んじゃいそうだよ?)

短い動画や体温などの赤外線画像データを付けて、症状を報告したアイトリース。

(いい子ねアイちゃん。心配しないで。これはビタミンの不足から来る欠乏症だわ‥‥特効薬が有るの)

アイカはもらったデータと生活状況の報告から、そう診断した。

少なくとも栄養素に偏りがあると。

(じゃあ、アレをあげたらいいね!)

アイトリースはにっこりと嬉しそうに答える。

かつては人間と自分たちの間に線を引いていたアイ達だが、名をもらい人間として認識され生活するうちに、いつの間にかその区別はなくなっていた。

自然と人間達を心配し、その幸せを喜べるアイトリースだった。

(そうそう。そろそろ新しい実がなっている頃だわ‥‥ごめんね。また忙しくなりそう、後でね)

アイカは後半少し慌ただしい雰囲気に成り、魔力リンクの通信を切った。

(ママ‥‥早く帰ってきてね‥‥)

これじゃアイチェトリ(04)と同じだなと、ぶんぶんと首をふるアイトリース。

もう4日もアイカと会っていなかったので、淋しさが募っているのだ。

いつもなら先に弱音をはくアイチェトリやアイディビィ(02)が居ないので、紛らわせないのだった。


「これをどうぞ!」

にっこりと笑顔になったアイトリースが、歳経たサルムの巫女達にオレンジを切り分けて振る舞った。

聖王都ラウミナスから持ち込んだ祝福されたオレンジの枝は、4本ともしっかり根づき葉を茂らせる木と成っていた。

神殿の周りに植樹したものが、この一週間程度ですでに実をいくつも付けていたので、それをもいで振る舞ったのだ。

聖騎士隊の宿舎になる予定の建物を、一旦サルム族達に明け渡した。

お風呂にも入ってもらい、二人部屋だが全員にベッドも準備する。

今は一階の食堂に皆であつまっている。

ふむふむと銀のフォークや、白磁の皿にも戸惑いながら、おそるおそる口に運ぶ。

まわりには部族の若者たちや戦士達も見守っていた。

「こ‥‥これは‥‥」

もぐもぐごくんとしてから、ふるふるとふるえる老巫女。

ごくと周りの若者たちも目をみはる。

「美味い!!」

わーっと周りも声を上げ、えへっとアイトリースが笑顔になる。

「いっぱいあるから、みんな食べてね!」

アイカの診断でサルム族は、壊血病の一歩手前だったという。

北のラディン族の居住地には時々見られたナツメヤシや、赤い実を付ける藪などがこの南側には全く見られなかった。

それは貴重なビタミンの摂取機会を失い、容易にビタミン欠乏に陥るのだとアイカは指摘した。

女神に祝福された奇跡の木になる実なので、ビタミン以上の何かも補給してくれたようだ。

晩ごはんにはサルム族のみなは元気になり、アイトリースとリシュアナにまた涙を流しお礼を言うのだった。

「うん!よかった」

にこにことアイトリースも嬉しそうな笑顔になる。

聖騎士様とあがめられるより、”アイちゃん”と呼ばれたいなとこっそり思いながら。

ふるふると首をふって、きりっとした笑顔に戻す。

(シナリオ3なんだから!)

かつてヴェスタにも強いた演技ではないかと、考え直すのだった。




 ナロンは駐機場で機体の整備をしていた。

ジュノから念のためと言われて、一級装備を準備させられている。

試作量産型式神もHPSで装備の属性を変えられるので、シフト収納は無いが装備を入れ替えることは出来た。

今回の仕事に当たり、マナミは何種類かの装備をコンテナに詰めて持たせてくれた。

その一つを開封し組み立てている。

こういった作業にもナノマシン保護スーツは活用できて、重機やクレーンがないと本来は出来ないような

作業を人力でこなす。

前腕両肩に付けられていたエアロダイナミック用のスポイラーを外し、ウェポンベイの内蔵された大きめのバインダーと入れ替える。

プラズマランスだけだった主兵装も、120mmレールガン内蔵のシールドに置き換わる。

「結構大きいんだな。シールド‥‥左右同じ形でバランスは良さそうだけど‥‥」

ナロンもこの装備は初めて見る。

シールドはピンポイントバリアとパイルバンカーも内蔵した物だ。

これは惑星アウステラの青い森などで運用していた、シールドアタックの出来る形態だった。

この装備が現状で最も火力が出る、第一種装備となるのだった。

「よし‥‥これで全部だな」

小一時間かけて換装し終えたナロンが額の汗を拭った。

ふと気になってアイトリースの式神七式をみやる。

同じ多脚戦車形態で伏しているが、武装が全く無い。

日中見せていたプラズマランスも何処かに行ってしまって、装備していない。

「‥‥どこにしまったんだろう?」

式神七式はシフト収納技術を使ったHPSなので、装備無しの状態も選択できた。

何度か模擬戦もしてもらったが、撃たれた事が無かったと思い至る。

(戦闘にならないんだよな‥‥レベルが違いすぎて‥‥)

その超絶技巧の機動だけでも、最近天狗になっていたナロンのプライドをへし折る。

いつも射撃をかいくぐってぺちっと叩かれて終わるのだ。

『なかなかよかったよ!』と、アイトリースは評してくれるが、ナロンとしてはとても不満だった。

アイトリースはもともと近接戦闘のスペシャリストなので、そこで戦って勝てるはずがないのだが、ナロンには分からない。

ただ実力が足りないのだと、思い知るだけだった。

(強くなりたいな‥‥)

そうして、少年の胸にしらず炎を灯すアイトリースだった。




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