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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第3部 第9章
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【第646話:こちらも落ち着きました】

 二週間の予定が一月以上かかり、スフィーラ・サルディアが戻った。

予想外の戦争で帰国が遅れたのだ。

ミラサネル共和国へ向かったときのようなトラブルは一切なかったが、スフィーラの顔色は良くない。

兄サーラインからもらった書簡で、アヤンタ王国の法制度が見直され、より事細かな基準が設けられたのだと聞いた。

出国時に、本来は貴族として色々と免除されていた事も、帰国時は平民と同じ監査を受ける事になっていて、長い列に並んで船から下りた。

皮肉なことにアヤンタ王国の財政は、新しい法制度採用でかなり好転しており、文句を言いながらも誰も正せない状態だと言う。

税法などにも手が入り、今まで暗黙に見逃されていた、貴族たちの財産や収入に課税したからだ。

他にも細かな注意点が書き記されていて、服装にまで基準が設けられていた。

スカートの膝丈や女性の胸元などをあまり出さないようにと。

「暑苦しいわね‥‥」

港についたスフィーラは、いつもならもっと涼しい姿になるのだが、新法では屋外で女性らしさを強調するなと定る。

細やかな服装の基準はそのためだ。

 おーいと桟橋の先から声がかかる。

ぶんぶんと手をふっているのは、ルクールとルニーアの双子。

「スフィーラ!」

ルクールの声には安堵が滲んでいる。

ちゃんと戻ったとジュノからアイカ経由の連絡が入っていたが、姿を見るまでは落ち着かない気持ちだった。

予定よりもだいぶ遅い帰国となったから。


「ふぃぃ」

気の抜けた声を出し、ルクールとルニーアが外套を脱いだ。

二人の白い頬が少し赤いのは、首元や膝下までを隠す外套が暑かったからだ。

迎えの車中に戻ったので、規則上身につけていたコートを脱いだのだ。

本来なら保護スーツが有るので、制御すればもっと涼しいのだが、それでは不自然だからとルニーアの提案で空調していない。

外套の中には白い薄手のワンピースしか着ていなかったので、ぱたぱたと手で扇げばそれなりに涼めた。

「なんだかアヤンタも随分息苦しく成ったわね。ミラサネルもいずれこうなるのかしら‥‥いえ世界中が?」

今の帝国の打ち出している路線ではそうなるだろう。

代わりと言ってはなんだが、アヤンタにも技術が流入してきて、新しい火力発電所が港に建設されていた。

完成すれば、今は貴族だけの特権の様に使っている便利な家電品が、市民にも普及するだろう。

いまのマヤカランでは、王城で発電される魔法的な発電機関で給電している。

これは市民にまで分けることが出来ない規模で、貴族街までの特権だった。

「財政も好転しているから、反対する意見も少ないのよ」

そう答えたのは、外に出なかったミシェリ。

薄手のドレスで、襟元も開いているので、新法では外に出れば罰則対象になる姿だ。

 帝国の法では認められない、いかがわしい商売をする店も次々閉められ、裏に潜む。

これにはアヤンタ王国の1/4ほどの人々が抵抗した。

国民の1/4はいかがわしいことが好きだったということだった。

「犯罪率もかなり改善したしね」

ミシェリは言葉とは裏腹に、思案顔。

そうして喜ばしいはずのスフィーラの帰国は、微妙な空気の中で新法を説明する場と成っていた。

取り締まる新しい警察機構には、平民も積極的に採用しており、貴族といえども厳しく取り締まっていた。

幸いサルディア家は市民達に人気で、あまり恨みを買っていないので、影響は少ない。

車に掲げる家紋の入った小さな旗は、いまだ人々の敬意を集める。

ナライン将軍の家だとして。




 屋敷に戻り、荷解きも終わり落ち着いた頃に、ノックが有りルクールとルニーアが来室する。

スフィーラはにっこりと笑顔で迎え入れた。

「お茶を入れましょうね、お土産のお菓子もあるわよ」

にこりと笑みをこぼすルクールは、すぐに真剣な顔になrうなずいた。

なにか言いたいことが有るのだなと、スフィーラには解るので、お茶とともに水を向けた。

「なにか問題があったのかしら?」

ルニーアはにこにこのままお菓子をつまんでいたが、ルクールはずっと晴れない顔をしている。

「うん‥‥ヴェスタ達の所に戻ろうと思う。ミシェリとサーラインとは話していたの」

ミラサネル共和国も落ち着いたので、いよいよラウメン聖王国として動き始めるのだという。

ルクールとルニーアは表立って外部との折衝をするらしい。

外交官として帰るのだと言う。

「アヤンタ王国もなんとか落ち着いてきたとサーラインも言ってくれたし、ミシェリと行っていた婦人会も活動を一旦止めると言うしね‥‥あまり集まるのはよく思われないのだと言うの」

ルクールはこの一月でアヤンタ王国の社交界でも、デビューを果たしたし、婦人会の活動でも認知されていた。

その中で聖王国の名は不思議と裏で囁かれていた。

どこの国の貴族だとは言っていなくとも、ルクールとルニーアの立ち振舞や、言動から察せられてしまう。

そもそもサルディア家が御恩を感じる家など、少ないのだ。

そこはナライン将軍の威光がまだ効いており、表立って騒ぐものは居ないし、仲の良い貴族たちは察して濁してくれる。

そうじゃない層にも情報が流れ出しているのも、引き上げを急ぐ理由と成った。

「お陰様で随分と沢山情報をもらったよ、ありがとうスフィーラ」

世話になったと、そう告げに来たのだった。

「‥‥ルクール達はお国に帰るのね?」

少しだけ考えてからスフィーラは言う。

ルニーアもお菓子が無くなったので、真剣な顔になってルクールと並んでいる。

「うん‥‥近い内に帰る予定に成ったの」

そう言うルクールが淋しそうにするので、ルニーアが手を握る。

にこと笑顔にもどして見つめ合ってから、スフィーラに視線を戻す。

ずっと考え込んでいるスフィーラが言う。

「少しだけ待ってもらえる?ちょっと兄様に相談するから。明日の朝もう一度話しましょう」

そういったスフィーラの瞳には強い光り。

お茶も飲み終わったルクール達は、了承しその場は部屋を辞した。

離れを借りているので、そこまで二人でとことこと戻る。

名言しなかったが、明日にはスパイラルアークも鍾乳洞拠点まで来るので、夜に式神ごと回収される予定だった。

「お掃除しようね」

にっこりとルニーアが言う。

「うん、お世話になったしね!」

そういってやっと笑顔にもどるルクールだった。

家に帰るのだと。

ここは借りていた部屋なのだと思い出して。



 


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