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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第3部 第9章
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【第647話:ルーティンとアドホック】

 ルニーアの朝は早い。

毎日同じタイミングで寝るのだが、起きるのはルクールより少し早いのだ。

このマヤカランの貴族街にあるサルディア家は、他の貴族家よりそもそもタイムズケジュールが早めだ。

これは武家らしい習慣で、家人達も軍人の朝に合わせているのだった。

じーっとルクールの顔を満足気に眺めるルニーア。

ぴくくと口元が動いたり、まぶたの裏で瞳が動いているので、まもなく起きるだろう。

非常に規則正しい生活を繰り返してきているので、多少の個人差があるが同じくらいに寝て、同じくらいの時間に目覚める。

「おはようルクール」

先に起きたら、起こしてほしいと頼まれているので、ルニーアは声を掛ける。

うーんとまだ眠そうだが、ぱちぱちと長いまつげが瞬かれ金色の瞳が現れる。

わりとルクールも目覚めが良いし、もともとスパイラルアークでも早起きをしていた。

なにより二人のリズムはとても良く似ている。

数え切れないほどの朝を二人で迎えたのだから。

遠い記憶は作り物のように感じるのだが、確かに積み上げたものだと、同じタイミングの目覚めに感じ取れた。

「‥‥おはよぉルニーア」

そう言って嬉しそうにぎゅっと抱きしめる。

ちちちと小鳥の鳴く声もしだして、窓の外は明るくなってくる。

今は日の出のタイミングが、二人の起床時間だった。

「ふふ、ここで起きるのも最後になるね」

ルニーアはくすぐったそうに頬ずりしてくるルクールを抱き返す。

「あぁ、そうだよね。なんだかあっという間だった気もする」

にっこりとそういったルクールは、ここの所毎日を焦れて過ごしていたのになと、ルニーアはおもしろがる。

わざわざ指摘したりはしないが、ルクールが普通になって嬉しいなとも感じた。

スフィーラが予定を過ぎても戻れないことを、ずっとルクールは気に病んでいたので、解決してよかったなとルニーアも微笑むのだった。

「ただ私達の生活だけを見れば、平和だったものね」

そういって、この日々を楽しんだのだと言い聞かせるルニーア。

この一ヶ月程を過ごしたこの部屋も今日でお別れの予定で、昨日寝る前に綺麗に掃除をしてあった。

それは楽しい毎日でもあったんだよと、ルクールに伝えたかったのだ。


 朝の支度を終えると、二人は瞑想から始める訓練を毎日する。

これはアイカに教わった事で、もともと素質のある二人なので、魔法士としての練度を上げるトレーニングだった。

縁側に座る二人は向かい合って正座する。

並んでしていたのだが、お互いの顔が見えたほうが落ち着くねと、いつの間にかこうなった。

保護スーツを着ているが、その上に普段運動着にしている白い袴上下をまとっている。

アヤンタ軍の訓練用に支給される伝統の衣装だ。

一般の人間では目にできないが、魔力を扱う魔法士ならば二人の全身に巡っている光をうっすら見て取れるだろう。

特に形は教わっていないが、鏡のように互いを見て自然と手を合わせ背筋を伸ばす。

手のひら同士が離れていくと、その間にぼんやりと金色の光りが生まれる。

姿形も声までも同じ二人だが、魔力の色までが同じ色だった。

そうして自分の光ではなく相手の光を見ながら、出力を調整して行く。

ぱあっと光が漏れていき、一般人でも見ることが出来る強さに魔力が練られる。

中級魔法程度の出力で固定し、圧縮し手のひらの中に抑え込む。

息も乱さず魔力を操る二人は、既に一般的なこの星の魔法士を越えたレベルにあった。


 魔力の循環と式の操作を一通り終えると、次は身体を動かす。

このくらいの時間になると、サルディア家のメイド達も働き始めているのか、本宅の方も気配に満ちてくる。

軽い体操を終えて、二人で組手をするように型をなぞる。

突きを受け、蹴りを交わしと攻防を入れ替えながら流していく。

毎日しているので呼吸もぴったりで、自然な動き。

「おはよう、今日も速いね」

本宅からサーラインが黒い袴姿で現れる。

黒い袴は皆伝の証なので、実力がないと纏えないと聞いた。

「おはようサーライン」

「おはよう」

ルクールは気安く挨拶し、手ぬぐいで顔の汗を拭った。

居ない日も時々あるが、家に帰った翌朝はサーラインとも訓練をする。

ルニーアもルクールもジュノの指導もあり、それなりの技量になっていたので、サーラインには褒められた。

そのままでも軍部には二人に勝てるものは少ないだろうとも言う。

サーラインは父には及ばないと謙遜するが、その技量は凄まじく、双子を同時に相手取っても引けを取らない。

ナラインの実力を二人は知らないが、これより強いのかと驚いた。

それでも臆する所が無いのは、ジュノやアイカはさらに上のレベルだからだ。

二人に敵わないと言うヴェスタにすら、まったく相手にされない実力差がルクール達には有った。

もちろん魔法や保護スーツも持ち出せば簡単に勝てるのだが、それでは訓練にならないので、スーツも汗を吸い取る以上には使っていなかった。

30分ほど軽い手合わせをして、指導を受けるとそろそろ良い時間と成った。

『ありがとうございました!』

「ありがとうございました‥‥とてもいいですね、二人とも」

そう言ってサーラインはにこりと笑う。

二人もにっこりと笑顔になるのだった。




 朝食は家族がそろって取るのは、スパイラルアークと同じ雰囲気。

大きな歴史のありそうな長テーブルは、先代のナラインから引き継いだ年代もの。

飴色に艶めく見事な作りだ。

長辺にスフィーラと向かい合い双子が座る。

短辺にサーライン夫妻が並んで5人の朝食。

給仕は付かず、家族でのんびり食べるのがサルディア家の家風だ。

ルクール達もマナーはヴェスタに習ったが、普段は同じ空気感なのですっかり馴染んでいた。

「昨夜兄さんにも相談したのだけど‥‥」

スフィーラが食後にそう切り出した。

ミシェリと、手伝うと言ったルニーアでお茶を淹れていた。

「私にも何か使徒さま達のお手伝いをさせてほしいの。一緒に連れて行ってくれないかしら?」

「ええ?!」

スフィーラの提案に驚くルクール。

ルニーアも手を止めて、スフィーラとサーラインをちらちら見比べる。

にこりと笑ったサーラインも口添えする。

「スフィーラは軍人の妻としてだけじゃなく、若い頃は商社にも勤めていたからね。知識は役に立つと思うよ」

妹への評価は辛いが、それでも自慢する気持ちもあるサーラインだった。

ミシェリもにっこりと微笑んで頷いている。

「戻ってからも、家の外向けの仕事を手伝ってもらっていたから、そういった仕事もできるわ」

自分は内向きの仕事向きと割り切るミシェリも、スフィーラを立てる。

ルクールもチラと見交わし、ルニーアは微笑んでうなずく。

任せるよといった視線だ。


「私も抗いたいと思うの。ヴェスタさまに一度聞いてくれないかな?」

そう言ってスフィーラは真剣な顔をルクールに向けた。

ウルヴァシャックへの旅は、帝国の描く世界を感じさせる事が多かった。

そこにヴェスタ達が抗うのならば、少しでも手伝いたいと願ったのだった。



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