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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第2部 第26章
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【第553話:たまゆらに】

 ユーノの後ろ姿が霞むほどの光があふれる。

コバルト色のその魔力は本来は水に属する魔力。

しゅんしゅんとスパイラルアークががんばって加湿しているのは、空気中の水分をどんどん取り込み魔力に変換しているから。

驚くべきはその変換効率だろう。

いつの間にかキッチンの蛇口も開いて、じゃばじゃば落ちる水が、シンクに落ちる前に吸われてしまう。

JUNO-00Xの義体は間違い無くティア9のアイカを超える義体。

扱える魔力量も相応だった。

(よし‥‥かかった)

アイカの残していたほころびを埋め、ルクールに手が届くジュノ。

(ルクール‥‥聞きなさい‥‥)

静かに話しかけるユーノの心に、ジュノとして今まで振る舞った姿とブレはない。

(あぁ‥‥じゅのぉ‥‥もうだめだよ‥‥押さえきれない‥‥いっぱいなの)

ルクールは流れ込む魔力で酩酊したような状態だった。

その状態でもアイカの手を離さず、握っている。

アイカはアストラル・プロジェクションで精神を投射しルクールを保っていた。

もうアイカが抱きしめていたのか、ルクールが抱きとめているのかわからない状態に成っている。

(おちついて‥‥制御をこちらで受け持つから‥‥アイカの心だけ保って‥‥それは大切な心なの)

身を挺してルクールを保っていたアイカはくったりと動かない。

アイカの編んだ式はもう90%以上をユーノが掌握し引き継いでいた。

ユーノは変換も制御もアイカの数段上の性能を持っている。

(やっぱりアイカは天才だわ‥‥すごい構成‥‥なるほど‥‥ここでユーリアが引き継いで実行側をうけているのね‥‥)

ユーノは人のふりを辞めて、本来のポテンシャルを取り戻していた。

その演算能力もアイカに匹敵する、伝説レベルのAIのもの。

アイカもユーノも連邦の制御を受けない、真の人格AIだった。

(‥‥出来た‥‥コレで最後までいける‥‥ルクール‥‥もうアイカを離しても大丈夫‥‥体に帰してあげて)

ゆらゆらと光が蠢いて、アイカを解放する。

アイカから伸びていた赤い光のラインが体に引き戻していく。

諦めず最後まで生き残る手段も準備していたのだ

(ルクール‥‥コマンドを閉じて‥‥もう終わりにするのよ)

足元から供給され続けていた魔力が止まり、あとは相転移して破壊として放つだけ。

そのための式はすでにルクール自身が展開していて、あとはタスクをすすめるだけだ。

(で‥‥できないの‥‥ルニーアがきえちゃうよ‥‥)

今のルクールはルニーアと混じり合い、区別ができない状態。

正確に分けなければ、より力のあるルクールが全て飲み込んでしまう。

(ルニーア‥‥あの監視装置に閉じ込められていた娘ね‥‥なんてひどいことを、記憶も奪われていたのね‥ルクールに依存して執着する事でかろうじて生きていた‥‥)

どこかにルニーアの体も存在するはずと、ユーノは探索式にルニーアの属性を込めて放つ。

ルクールに供給していた魔力ラインを逆にたどり、下層までを調べていく。

(見つけた!‥‥な?!‥‥なんてことするの‥‥誰よ!?)

ルニーアに紐づけられている体はルクールと瓜二つ。

悪意ある封印式でがんじがらめに縛り付けてあった。

(なんか怨念をかんじるわ‥‥こんなのほどいていたら何年もかかっちゃう‥‥)

さすがにそこまでユーノの魔力が持たない。

そこで奇跡が起きる。

(あれ?!)

一枚、また一枚とルニーアの封印が解かれていく。

封印を解いて砕け散るのはカラフルな義体たち。

(あっ‥‥赤い‥‥)

最後の封印を解いたのは赤いドレスの義体。

あのバーでも見かけたパンダの義体だろうとユーノには解る。

なんだかジュノは挨拶をされた気もしたが、数万m下の出来事なので、いかにユーノのセンサーでも受け取りようがなかった。

ルニーアの魔力リンクを頼りに引き寄せると、今度はすんなりと手元まで来た。

(これに込めてルクール‥‥そしてコマンドを‥‥もう時間がないの‥‥)

アイカをギリギリで帰したら、今度はユーリアが限界に達する感触をユーノは感じていた。

(あ‥‥あっ‥‥あぅ‥‥うまくできないよぉ‥‥)

酔っ払いをまっすぐ歩かせようとする、無駄な努力をユーノはしなかった。

(もういいわルクール‥‥権能も譲渡しなさい‥‥その力はルクールには要らないもの‥‥わたしが引き受けるわ)

どうせもう生きている理由も無くなったのだしとユーノは考えた。

(ヴェスタによろしく伝えてねルクール‥‥いい子ね、もうアイカの所におかえりなさい)

ふわりとユーノはルクールに干渉する。

制御しきれない処理を全て、ユーノが義体をコードを消耗し引き受けていく。

(ぎりぎりいけそう‥‥ほらルクール、ルニーアも連れていきなさい‥‥その子をもう悲しませないでね)

ルクールは足元に浮いていたルニーアを抱きしめて、アイカ達の方へとふらふらと進んでいった。

(さて‥‥あとはコレをどうするかだな)

ルクールが手放した今のコマンドは、消去する範囲を星全体にまで広げている。

(恐ろしい出力ね‥‥星系ごと消すことすら出来てしまう‥‥)

制御を引き受けたユーノは術式の規模をそう捉えた。

アイカの執拗な干渉で、今は星一つになっている。

(そうか‥‥惑星そのものから魔力を搾り取ったんだ‥‥)

制御式を辿れば術式全体が見えてくる。

”だから最終コマンドなのだ”と言う言葉がすんなりと導かれた。

たとえ無理をして星を避けて破壊を放っても、もう魔力として全てのエネルギーを奪われたアウステラが生き延びることは出来ない。

今頃は地上も地下も崩壊が始まっていただろう。

ルクールがスパイラルアークに戻ったのを義体側で確認したユーノ。

アストラル・プロジェクションされた、コードで構成されたユーノはルクールに代わりコマンドを遂行する。

かちっと何かが噛み合い、時間が元に戻る。


ずばぁあああああん!!!!


天地をつなぐ巨大な雷が巨大宇宙船とアウステラを結ぶ。

漆黒の宇宙が戻り、宇宙船もアウステラも全てが塵に変わっていく。

その中心にいるユーノの心も共に。


(アイカ‥‥よくやったね‥‥ルクールは無事だよ)


(ユーリア‥‥いい子だね、怖かったろうに‥‥もう大丈夫よ)


(ルクール‥‥アイカを慰めてあげてね‥‥きっと悲しんでくれるから‥‥)


(ルニーア‥‥腕のことは許してあげるわ‥‥貴女も必死だったのね‥‥ルクールと幸せになってね)


(ヴェスタ‥‥)


淡々とお別れと思い言葉(ログ)を日記に綴ったユーノ。


(いつも貴女を想うと筆がとまるのよ。嘘を書くのが辛かったの‥ジュノはわたしの嘘だったから)


ぼろぼろと涙があふれてしまうユーノ。


(ユーノもヴェスタを愛しているの‥‥ジュノと同じように‥‥ううんジュノよりもずっと貴女を愛しているのよぉ‥‥‥)


彼方に見えるスパイラルアークの姿に手を伸ばすユーノ。


(‥‥‥さようなら‥‥)


あとは静かに終わりを受け入れるだけと、震える唇を噛みしめるユーノ。


(‥‥消えたくないよ)


しぼりだした言葉は、冷静なAIのものではなかった。


(まだみんなと一緒にいたいんだよぉ‥‥)


たくましく朗らかで、すこしだけ甘えん坊のジュノがそこにいる。


取り繕うことはもう出来なかった。

顔を歪ませてあーんと声を上げ泣き叫ぶ。

指先から少しずつ塵に還っていくから。

ジュノとして過ごした日々は偽り無くユーノのものでも有ったから。

仮初(かりそめ)のジュノを演じ続けているつもりで、ユーノはもうすっかりと今のジュノに成っていた。


(神様‥‥ヴェスタ達を‥‥おうちに‥‥)


家族から逃げ出し、ジュノとして生きてきたユーノが、最後に願うのは家族の幸せだった。

そうして全てを塵に変えて、ルクールのいかずちは放たれた。

数え切れないほどのGM達に、ユーノを添えて。

漆黒の宇宙にはただ静かな闇が広がった。




闇の中に突然純白の光が満ちる。

破壊の黄金とは異質な、清純な汚しがたい聖なる光。


(なりません!!ジュノ!!!戻りなさい!!)


ヴェスタの心の手がユーノに向けて力強く伸ばされた。



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