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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第1部 第15章
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【第153話:貶される女神の使徒】

一旦話合いますと言われて、引き上げるヴェスタ達。

翌日の夕方にもう一度くるねと伝えて帝国艦隊を後にした。

王国側に動いたら沈めると伝えて、緊張高まるラヴァナドゥ=アヤンタ戦線に向かう。


アヤンタ王国西側の街タラシルクは大河の河口にある街で、王国でも3本の指に入る大きな港が有る。

河を少し遡上するといい感じに港に適した土地があり、そこを中心に街が広がる。

アヤンタ王国側に渡る橋は大分上流まで行かないと無いので、交易的にも防衛的にも大事な街となる。

街は河の西側に主に有り、港もこちら側だ。

東側は農地がひろがりのどかな風景となる。

河は青く燃え盛っていた。

「ど‥‥どうして?」

上空を通り過ぎるヴェスタ達は驚いて見ていた。

「‥‥この炎の色‥‥合成バイオガス燃料です‥‥」

アイカの指摘を待たずとも解っていたが、なぜそれが河を流れてきて今燃えているのかがわからない。

「た‥‥たしかにこの上流に製造プラントを作って、補給基地を作ったけど‥‥」

ヴェスタのかすれたような声にジュノもツバをのみこむ。

「‥‥いったん基地に行ってみよう」

燃えているのは街の横だけで、上流に火の手はなかった。

速度を上げてきたので、それほどかからず補給基地にたどり着いたヴェスタ達。

VTOL機を着陸すると設備を確認した。

「こ‥‥これ‥‥」

ジュノが動けずにいるなかヴェスタは素早く操作してプラントを停止させた。

「ヴェスタ‥‥タンクも空です‥‥」

バルブを操作して緊急排出口を止めたアイカは、すでにタンクが空なのを確認した。

わざわざパイプを別で準備して川に流した形跡。

「プラントの吐出側にも細工されて‥‥ありったけ川に流したんだ‥‥もう原料がなくなっているから相当作って流したよ」

犯人は一人しか思いつかない二人。

「AIKA-02はここまでするの?どうして?」

ヴェスタは涙を流している。

河口の街では恐らく万単位の死人が出ただろう。

自分たちの作った燃料生産施設のせいで。

「ヴェスタ‥‥」

ジュノがそっと抱きしめると、胸にすがって泣くヴェスタ。

「ひどいよ‥‥」

これではヴェスタ達のせいで焼き殺したようなものだ。

恐らく燃料の組成を調べて、高度な技術だなどとわかることはないだろう。

見たこともない青い炎を、異常だとは感じただろう。

「‥‥わたし達が交渉をして‥‥艦隊を向かわせた街に火を放つ‥‥これでは‥‥」

アイカの言わなかった部分はジュノにも想像がついた。

人知を超える存在に指示されて行った街が、人知を越えた炎で焼かれる。

間違いなく疑われているだろう。

実際にヴェスタ達の作った現代にはない、高効率で燃焼し安定化した燃料だ。

点火温度も異常に高く、核融合の排熱でもなければ点火することすら出来ないだろう。

炎を押し当てたくらいでは燃えないのだ。

ただし火が付けば高温で莫大な体積に燃え上がる。

カロリーは石油燃料の5倍にものぼり炎は瞬間的には4000℃に達する。

比重は水より軽く、水溶しないので水面に広く広がっただろう。

点火温度も2000℃を超えるが、燃料さえあれば酸素の有無に関わらず燃えて水をかけても消えない。

そんな魔法のような燃料なのだ。

地上に存在しないモノで焼かれた人々は、誰に罪を贖わせる(あがなわせる)のか。

「き‥‥救助に行こう‥‥消火だって出来ないはず‥‥」

ヴェスタは取り乱し、泣き叫ぶ。

「落ち着いて、ヴェスタ‥‥アイカ‥‥お願いできる?」

アイカも青い顔でヴェスタを心配そうに見ていたが、ジュノにうなずく。

「魔法なら消せます‥‥氷結魔法を広域に放てば瞬時に消せます‥‥」

そうしてまた超技術を見せるのかとアイカは心配する。

「おねがい‥‥アイカ‥‥ごめんなさい‥‥」

ヴェスタは嗚咽の合間に切れ切れにアイカにすがった。

「うん‥‥今式神を向かわせているから‥‥着いたらすぐ消してくるよ大丈夫だよ」

そういってアイカもヴェスタを抱きしめる。

ぶるぶるとふるえるヴェスタをなんとかVTOL機にのせ、座らせる。

「アイカ落ち着くお薬出して‥‥」

ジュノがヴェスタに毛布を被せて、そっとアイカに告げる。

鎮静剤をくれということと思い救急セットから準備したアイカから受け取り、経口摂取の液薬をこぼしてしまうヴェスタ。

体中が震えて制御できないようだ。

ジュノはためらわず口に含み、ヴェスタに口移しで飲ませる。

つよく抱きしめてするそれは、熱い恋人同士の口づけのようだった。

涙を流し苦しそうにする口づけだ。


VTOL機からジュノが降りてくる。

アイカはプラントを再調整し、起動し直していた。

「アイカ‥‥プラントそのものに変更はされていない?」

ジュノは全てを疑わしく感じてしまう。

AIKA-02の悪意にはそういった周到さがある。

我が身をもって体験済みなのだ。

「確認はしてテストもしてみました‥‥問題なかったので、貯蔵方法やセキュリティを工夫する事を考えていました」

そんな工夫が要るとは想像も出来なかった。

そもそもこの場所に来ることすら、現地の人間では不可能に近い場所だ。

彼らは空を飛べないのだから。

「街の火もけしとめました‥‥延焼は川沿いの一部に限定されていて、それほど街には被害は出ていません‥‥河口を越えて海上まで炎は‥‥広がっていて」

ジュノは思い至る。

まるでその河口を目指すようにヴェスタが指示をだした相手がいたことを。

「まさか‥‥」

うつむくアイカは顔色が悪い。

「‥‥王国の艦隊は8割以上が焼失したと思います‥‥おそらく乗員も‥‥」

船上であの炎に巻かれたら、海中以外に逃げ場はなかっただろうとジュノは想像した。

消し止めることが出来ない炎に囲まれる恐怖と共に。

「なんてことを‥ひどいわ‥‥これをヴェスタのせいにしようとするなんて」

アイカもぽろりと泣き出してジュノにすがる。

「ヴェスタが可哀想だよ‥‥あんなに人が死ぬのを嫌がって‥クスン‥一生懸命考えたのに」

アイカの涙はヴェスタの悲しみを想う涙だ。

ヴェスタの愛は、出会った人形(ひとがた)の物全てに向かうようにも見える。

生き物である必要すらないのはアイ達やマクラ達に向ける態度でわかる。

ジュノにもアイカにもそれほどまでの、この星の人間に対する愛着はないのだ。

死のうが生きようがとまでは思わないが、ヴェスタの方が大切だし必要ならいくらでも殺せるつもりだ。

式神が2機帰ってきて、アイカに着艦する。

「おかえりアイちゃん達、ごくろうさま‥‥」

すぐにアイカの腰の装甲が開いて、中からアイ01とアイ02が出てくる。

「ママただいま‥‥だいじょうぶ?」

「アイカままぁ泣かないで‥‥」

二人にはアイカの悲しい心が簡単に伝わってしまう。

魔力リンクとはそういった作用もある。

「うん大丈夫、ごめんね心配させて‥‥」

ぎゅっと二人を抱きしめるアイカ。

ジュノもプラントと貯蔵タンクを確認し、VTOL機に戻る。

アイカは念の為と、街の上空とこの基地の上空に式神を残していた。

ジュノにヴェスタを任せ、ここの防衛を引き受けようと思ったのだった。

理不尽に唇を噛み締めるアイカ。

(これを‥‥わたしのコピーがしたのだ‥‥ゆるせない)

アイカの中に静かな炎が燃え上がった。





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