サイコパス・中
「連続殺人者とは、淡々と一定期間に殺人を犯す者。一人、または稀に二人以上が犯人。二人以上が『殺された』こと。その殺人が、個別に別の場所、または別の時期に起こっている事。それらが合わさると、連続殺人と識別される。勿論サイコパスが連続殺人者である事もあるわ。でも、マイルド・サイコパスが居る様にサイコパスは普段の生活レベルの事件を犯す傾向が多くて、殺人などの事件を犯すことは絶対ではないの」
櫻子の説明は、今まで精神分野の犯罪を学んだ事がない篠原にも分かりやすい。初夏に近い日の光が柔らかく差す日差しの部屋で、三人は話し合う。
「殺人の種類は、多いわ。連続殺人、大量殺人、快楽殺人、猟奇殺人――普通の人間でも何かきっかけがあれば、殺人行為に至ってしまう事も多い。起きた事件の内容からどういった殺人傾向であるのかを探り、犯人像を過去の事例や統計から考えるのが『プロファイリング』と呼ばれる、捜査方法。今私達が行っているやり方よ」
刑事は足で捜査する、と古い刑事は多く口にしてきた。犯行現場に必ず、犯人の痕跡がある。靴が磨り減る迄聞き込み、足取りを探る。篠原が前に居た道頓堀交番の先輩だった安井も、そう言っていた。
「勿論、捜査課のように足で捜査する事を否定しないわ。必要な時も、絶対になる。けれど、効率よく少ない人数でも動けるこの捜査方法が有効的な事もあるの――それに、頭のいい犯人を捜す時には都合いいのよ」
飲み干した珈琲のカップを机に置くと、櫻子は再び篠原に向き直った。
「最初の事件、国府方紗季はどの殺人タイプになるかしら?」
篠原は、紗季の言動を思い出す。彼――彼女は『男』による暴力によって精神が歪められ、人を殺す快感を覚えた。
「――快楽殺人……でしょうか?」
「正解。彼女は『人を殺して、また蘇らせる行為に快感を得た』のよ。お金は、そのついでの報酬にしか過ぎなかった」
櫻子のにっこりとした笑みに、篠原は自分の回答が間違っていない事に安堵した。櫻子も笹部も、篠原よりずっと捜査に慣れていて知識も豊富だ。足を引っ張りたくない思いが、篠原に焦る気持ちを抱かせていた。
「では、次の事件の吉川美晴《みはる》の事件はどのタイプ?」
篠原は、言葉に詰まった。彼女の事件は交換殺人だったが、共犯も『恨み』で殺害している。美晴が殺したかった璃子に対して抱いていたのも、『怨恨』だ。交換殺人の相棒であった岡崎を殺害したのも、璃子を凌辱した『恨み』――
「――純粋に、怨恨殺人……でしょうか?」
「そう、正解よ」
返された言葉に、篠原は間違っていなかった事に大きく息を零した。
「美晴さんの場合、交換殺人と『殺したいけれど汚されたくなかった』事の結果、共犯者を殺した事で事件がややこしくなったわね。でも、彼女が殺人に至ったのはどちらも『恨み』が原点。殺人を楽しんだ訳じゃないわ。そうして、紗季さんと同じく自分の行いを、悔いた」
櫻子は、切なそうに瞳を伏せた。彼女たちの事に、思いを馳せたのだろう。
「共犯者だった岡崎は、怨恨であることに変わりないわ――欲望が出て、璃子さんを凌辱したのは偶然の産物。では――今回の宮城課長を狙った事件は?」
宮城宛に送られた、釘爆弾。差出名は、彼の班が捕らえたが何の供述も得られぬまま『無実』を訴えて自殺した容疑者だ。しかし、その爆弾が送られたのは、容疑者だった池波隼人が死んでからだ。
だが、その名を使ったという事は――
「池波を自殺に追いやった事に対して怒った誰かが、宮城課長を恨んで行った……?」
「そうね、正解。今は、そこまでしか分からないわ。池波隼人の家族や交友関係などを調べて、容疑者を探さないといけないわ」
櫻子がそう答えた時、彼女のスマホが鳴った。短いコールだったので、メールだろう。櫻子はスーツのポケットに手を入れてスマホを取り出して、確認をした。
「あら、刑事局長だわ」
意外そうに呟いてから、そのメールを開いた。
『国府方紗季を死亡解剖した結果、首に扼殺痕。また、舌骨や甲状軟骨には激しい力を与えられたような、複雑骨折跡が発見された。また、左肋骨数本の骨折。胸に入れられていた、シリコンパックの破損。これらは、心肺蘇生する前の状態で確認されていると報告されている』
櫻子の顔色が、変わった。それを見ていた篠原は不思議そうな表情を浮かべ、笹部は変わらない表情をしていた。
「ボス?」
『国府方紗季と吉川美晴を結ぶものが、まだ残っているよ? まだ、君は気付いていないだけ――さて、何だろう』
池波が絡んだこの事件も、桐生が仕組んだ事なのか? 一連の事件は終わっていない……櫻子は、唇を噛んだ。




