自白・下
殺害した女性たちの肉を、確かに『一人で食べた』とは言っていない。血は、アヤナにも分けたと話していた。しかし一度に殺害したのではないにしても、八人の胎児と八人の肉と胎盤と血は多すぎる。
櫻子は、腕の中でガタガタと震える流星に視線を向けた――まさか。
「おいし……て、食べて、くれ……ね? りゅうせ、い……若さ、を……カレー……まぜ……」
はぁ、と溜息を零すように大きく息を吐くと、景光は微笑を浮かべたまま瞳を伏せてがくりと床に倒れ込んだ。
「おい、目を覚ませ! くそ、こんな場所の止血の仕方が、分からん!! 救急車はまだか!?」
宮城はネクタイやハンカチを使い、景光の股間の出血部を必死に抑えている。竜崎はキッチンへ向かうと、冷蔵庫やコンロに置かれた鍋を見に行ったようだ。
「……嘘……嘘や……あいつは、牛筋やレバーやって……変な味はせんかった……人の……肉……? ……嘘や……」
流星は、歯を鳴らして体を大きく震わせている。櫻子はどう彼を落ち着けようかと、先ずは混乱する自分を落ち着けさせている。
「……一条警視……ありました」
キッチンから顔を見せた竜崎は、青い顔をして小さく呟いた。途端、流星が櫻子の腕から抜け出ると、リビングの端に行き吐瀉した。何度も何度も吐いて、苦し気に喉を鳴らしている。
「……ぁ、……俺……人間喰わされた……わ」
胃液まで吐き尽くすと、流星は櫻子を振り返り困ったような微笑を浮かべた。そうしてそのまま、前のめりの床に倒れた。その流星に、慌てたような顔の篠原が駆け寄る。
「流星さん? 流星さん!?」
腕に抱いて名を呼ぶが、彼はあまりの出来事にショックが大きくて、意識を失ったようだ。呼ばれても、篠原の腕の中で意識を戻そうとしない。
櫻子は、あまりにも無力な自分に茫然としていた。流星を抱いていたままの姿勢で、涙が一筋彼女の頬を流れた。
「……嫌……もう、これ以上……嫌ぁ! 桐生、許さない、許さない!! 絶対に私がお前に罰を与えてやる!」
ドン! と両手でリビングの床を叩き、櫻子は大きくそう叫ぶと自分の顔を両手で覆った。声を殺して、泣き続けている。竜崎が痛ましそうに歩み寄ると、そっとその彼女を抱き締める。止血をしている宮城は初めて見る彼女の姿に、彼女の抱えている『桐生』という悪魔の存在がいかに大きなものなのか、ようやく実感して黙り込んでしまった。
ようやく、サイレンが聞こえてきた。この音は、警察車両だ――救急車が、まだ来ない。止血していた宮城は、景光の首元の脈を確認している。篠原は、吐瀉物で汚れてしまった流星の顔を自分のハンカチで綺麗に拭いていた。
「あかん……手遅れや……」
宮城は、血まみれの手を離すと悔しそうに呟いた。もう、脈を感じない。この出血量を考えると、救急救命行為をしても無駄だと判断した。桐生が関わった事件――犯人、全てを逮捕できず死なせてしまった。彼が関わったという証拠を全て消して。多分今回も、景光のスマホや彼に関わるものは無くなっているだろう。
「警視!?」
驚いたような竜崎の声が上がった。櫻子は、竜崎に体を預ける様に気を失って倒れてしまっていた。
「今回は――警視にとっても辛かったんやろ。このホストと親密やったみたいやし……抱えててやってくれ」
「……はい」
宮城が力なくそう言うと、竜崎の返事と共に玄関のドアが開いた。管理人に事情を話して、捜査一課が入って来たのだろう。新井や富田が、異様な部屋の中の空気に息を飲んだ。
「連続殺害事件の犯人、確保した――多分、死んでるが」
宮城には、そう言うしかなかった。そして、倒れている男の顔を見た。
男は、まるで微笑んでいるかのように安らかな顔だった。




