自白・上
「僕は、京都の田舎の方の龍光寺って寺の三男の産まれです。寺を継ぐ責任もなかったので、色々な夢がありました――それこそ、アイドルに憧れた事もあります」
まだ濡れている出刃包丁をくるくると回して、室内灯に当たって刀身が光るのを景光は見ていた。それがあるため、流星がすぐ横にいるので櫻子達は何も出来ない。
「若い頃はそれなりにモテて、それが嬉しくてホストの世界に入りました。しかし、自分が『中の上』程度だと認識した時は、とても落ち込みましたね。しかし、『ホストは見た目も需要だが、関西では会話で上位に入れる』って聞いたんです。その頃、ネオホストというホストが客に『褒められて、喜ばして貰う』ってブームがあったんですよ。でもそれが通用したのは、東京辺りです。やはり関西は、ホストのトーク力と永久指名が最大の武器でした。でも、老いには逆らえない。『若いトーク力のある中の上』が、『老けたトーク力のある下』に落ちぶれました。これでは、一握りの客しか掴めない……そんな時に、流星さんが店に入って来たんですよ」
景光の視線が、流星に向けられる。青白い顔が、もっと青くなっているように見えた。微かに、息も乱れている。ぼんやりとしている流星の瞳は、さきほどよりしっかりしてきたように見える。怪訝そうに、景光を見ていた。
「流星さんは若く美しく、そして何よりも優しい。その優しさのせいで関西トップにはなれませんが、彼は尊敬するべき対象です。この人に憧れて整形も考えましたが、金もかかる……それに体関係だけの女が妊娠し、結婚したいと言ってきている。僕はその頃パニックで、病院に通いだしました。そんな中アヤナを接客していた流星さんのヘルプに入っていたある時、あの女が言ったんですよ。『血や胎盤は、若返り効果がある』って」
病院、とは桐生の事だろう。櫻子は僅かに息を飲んだ。しかし、カリバリズムを口にしたのがアヤナだったとは、意外だった。
「病院の先生に訊いてみたんです。それは本当か、と。先生は、『2000年の初めに、アメリカで行った実験で証明した事例がある。歩けない老いたマウスが、若い血液を投与されると健康になり走り出した事例がある。若返りの為に、女性は胎盤で作られたプラセンタを投与するだろう? 効果があると、僕は思うよ』と言ったんです――それを試すために、僕の子を身籠ったっていう女……鯵川真紀で実験したんです。彼女の店で頭を殴って気絶させてから、解体しました。新鮮な方がいいだろうと、生きたままの血が欲しかったんです」
まるで他人の人生を話すかのように、景光は最初の事件までを語りだした。『若さ』に執着した男の、恐ろしい告白は続く。
「顔を見ると、悪い事をした気がしたんでまず顔を切り裂きました――その時、顔に血がかかりました……あの時の感動を、誰かに話したかったんです。血は温かく……確かに、皮膚に張りが出たんです! 奇跡です!」
その実験の事は、櫻子も調べた。もし仮に100%結果を残せるとしても、即効性はない筈だ。この感覚は、エリザベート・バートリの諸説あるうちの一つと同じ、『錯覚』だ。
「初めて血を飲んだ時は、苦労しました。鉄の味が強くて、中々飲み込めない……一度オーナーに連れて行って貰ったすっぽん料理を、その時思い出したんです。ワインで割ればいいと……効果は薄くなるけど、慣れる様に少しずつワインの量を減らして……今では、美味しく飲めるまでになりました」
ペロリ、と景光は舌なめずりをした。血の味を思い出したようだった。やはり、櫻子の想像が当たっていた。
「鯵川の胎児はアイスペールに保管して、胎盤混じりの子宮を細かく切って焼いて食べました。時間をかけすぎたので、胎児は腐りそうになり焦りました。だから、アイスペールにホルマリンを入れて、長く保存できるようにしました」
「鯵川真紀さんを食べた後は……SNSで募集したのね。乳房を片方取ったのは何故?」
「母乳も、効果があると思ったんです……幼児は、母乳だけで最初は育つ……母乳がまだ出ていなくても、身体の中で母乳が出る成分が育っているはずだと思ったんで、被害者が見つかるまでそれを食べていました」
「……景光、お前、何の話をしてるんや……?」
流星が、血の付いた包丁を持つ隣の男を、信じられないという顔で見つめた。




