違和感・中
それから赤井に詳しく話を聞いたが、流星に送った脅迫めいたメールやSNS、電話の履歴も証拠として提示して貰っている事。『プレゼント』も出来る限り残していたものを証拠として保存している、と教えて貰った。
櫻子は目を閉じて、連続殺人遺棄と、今回の流星のストーカーとを考えてみた。カリバリズムを想像させる犯人と、自分の月経血を飲ませようとするストーカー。同じ時期に、近いエリアで似た事件が行われるのは確かにおかしく感じる。
死体を解体するのは、非常に体力を使う。脂肪がぶよぶよとしていて油まみれで切りにくく、骨が固い。まして、顔を中心に滅多切りされている。切り続けるのも、とても疲れるのだ。残されていた遺体は、大体が関節で分けられているが、そこまで行った後にあののこぎりで遺体をバラしたのは、とてつもない労力だ。検死報告では、手首や足首などに細い紐で縛られたら痕が、僅かに見られたと書いてあった。櫻子の見立てでは、あの狭い風呂場のシャワーカーテンにでも、紐で括りつけた部位をぶら下げて血を集めたと考えている。
血を飲んでいる、と思うのは十三のスナックにあったグラスだ。あそこでも、犯人は血を飲んでいたと思われる。それにあそこは、スナックだ。安いだろうが、ワインも置いてある筈。不慣れなものが最初血だけ飲むのは、味的に無理な事が多いだろう。すっぽん料理の血のように、最初はワインで割って飲んだのかもしれない。
そして、あそこで血を飲むことに慣れた。
しかし。あれだけの遺体を処理するのは、女一人では無理だろう。流星にすり寄っていた下品な――アヤナという女を思い出した。体格は良いが、筋肉があるのではなく脂肪で大きな体だ。それに、もう四十手前に見えた彼女にそんな体力があるように思えない。もしストーカー女が連続死体遺棄の犯人だと仮定しても、考えている犯人像には当てはまらない。
歳は、三十代から四十代の男。頭は良い方ではないだろうがコミュニケーション能力が高く、被害者に接触できるぐらいの容姿と話術はあるだろう。そして、解体できるくらいには身体は鍛えている。だが、証拠を残したり遺体をそのままにしていた杜撰な現場から、無秩序型だと思われる。
血を飲む、またもしカリバリズム傾向の思想があるなら――理由は『若さ』を求めるからかもしれない。
今集まった情報から、櫻子はそう犯人像を描いていた。しかし、『美容』と口にしていた彼女の言葉は見過ごせなかった。もしかしたら、犯人と接触しているかもしれない。
「赤井さん、あなたは生活安全課何年目? 取り調べ経験はある?」
「三年目です! 取り調べも、行った事はもちろんあります」
櫻子の言葉に、赤井は捜査を手伝って貰える事に希望を抱いて、顔を輝かせて返事をした。
「私はそのストーカーと、面識があるの。赤井さん、篠原君と笹部君を連れてその女の取り調べしてくれる? 私は、横の部屋から見てるから」
「え!?」
思わず声を上げたのは、篠原だ。刑事になってから取り調べの経験は、篠原にはなかった。交番勤務の時も、なかった。
「大丈夫よ。何かあれば、私がマイクで指示するから――取り敢えずは、任意で呼び出しましょう」
「はい!」
赤井は大きく頭を下げて、アヤナを呼び出すために部屋を出て行った。
「……ボス、僕もそれに参加しなきゃダメですか?」
キーボードから手を離した笹部は、椅子をくるりと回して櫻子と篠原に向き直った。
「確かに異常なストーカーだから、出来るだけ冷静に判断できる人にいて貰いたいの。お願い」
「――了解です」
笹部は不本意という顔をしたが、頷くと再びディスプレイに向き直った。
「診療内科に通っているか、誰か――男の協力者がいないかを聞き出せたら、連続死体遺棄との繋がりがあるか判断出来るわ」
櫻子の言葉に、篠原は不安そうに頷いた。自分にそれが聞き出せるのか、自信がなかった。




